間もなく決まる民泊の新制度、元観光庁の担当官(弁護士)が現行制度を整理した【コラム】

今回から、観光関係の法律についてコラムを担当することになりました弁護士の谷口です。

本年4月まで2年間、観光庁観光産業課に勤務し、民泊のルールづくりや旅行関連の各種ガイドラインの作成など最前線の業務を行ってきました。その経験も活かして、観光産業の法的な論点やわかりにくいポイントを解説していきます。どうぞよろしくお願いします。

さて、第1回目のコラムでは、民泊に関する新制度の設計に向けた検討が佳境を迎える中、改めて、旅館業法をはじめとする民泊(宿泊)に関する現行制度を整理したいと思います。観光庁と厚生労働省の「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」が、今月20日にいよいよ最終報告書案を提示する事になっている今、これまでの歩みを振り返ってみます。

制度としては、現状、①旅館業法、②国家戦略特別区域法、③イベント民泊の3つの制度があり、それぞれの概要は次の一覧のとおりです。順にご説明します。

① 

旅館業法

② 

国家戦略特区

③ 

イベント民泊

新制度

許認可営業許可認定なし(自治体からの要請)届出等(未確定)
主な許認可要件(構造面)延床面積33㎡以上(定員が10人未満の場合は、定員数×3.3㎡以上で足りる。)等1居室25㎡以上。

各居室が、台所、浴室、便所及び洗面設備を有すること等。

(未確定)
最低宿泊日数1泊2日~6泊7日~(※)1泊2日~1泊2日~(未確定)
年間営業日数制限なし制限なしイベント開催期間、かつ年1回のみ180日以下で上限を設定(未確定)
実施可能

エリア

全国東京都大田区、大阪府(保健所設置市を除く)、大阪市(今秋予定)全国全国(未確定)
住居専用地域における立地原則不可原則可原則可原則可(未確定)
施行日2016年4月2014年4月2015年7月今年度中法案提出

※ 7日から10日までの範囲内において条例で定める期間以上

1. はじめに

旅館業法では、「施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」を旅館業としており、旅館業を行うためには、保健所で営業許可を受けることが必要とされています。

ここでいう営業とは、「社会性をもって継続反復されているもの」を指し、限られた親族にしか宿泊さないもの(社会性なし)や、一回限りで他人に宿泊させるもの(反復継続性なし)は営業に当たらず、営業許可は不要となります。また、宿泊料を受けていない場合も営業許可は不要です。

厚生労働省は、民泊と旅館業法との関係について「民泊サービスと旅館業法に関するQ&A」を作成していますが、そこでは、個人が自宅や空き家の一部を利用して行う場合(民泊サービス)であっても、「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」に当たる場合には、旅館業法上の許可が必要としています。

したがって、仲介サイト等を通じて不特定多数の方を募集し、2回、3回と反復継続して有償で他人を宿泊させるような事業は、自宅を活用している場合であっても旅館業に該当し、営業許可が必要です。そして、無許可で旅館業を実施した場合は刑事罰の対象となります。

しかし、現状、必ずしも旅館業法が遵守されず、かつ、実効的な取締りができないまま民泊が普及しています。そこで政府では、このような違法状態の是正や民泊の健全な普及等の観点から、これまでに、以下の各施策が検討されてきました。

2. 

簡易宿所営業の要件緩和

(1)概要

厚生労働省は、本年4月、民泊について旅館業法の営業許可の取得を促進するため、「簡易宿所営業」の許可要件を緩和しました。簡易宿所は、カプセルホテルやユースホステルのような一部屋を多人数で共用する施設を念頭においており、従前、客室の延床面積について、一律33㎡以上の面積が必要とされてきました。この面積要件により、ホームステイとして自宅の一室だけを旅行者向けに貸す場合等に、簡易宿所の営業許可を取得することができないことがありました。

そこで、厚生労働省は、この面積要件を見直し、宿泊者の定員が10人未満の場合には、3.3㎡×定員数の面積があればよいということにしました。また厚生労働省は、地方自治体の条例でフロント等の設置義務が定められている場合でも、このような小規模簡易宿所については弾力的に運用したり、条例の改正等をするよう要請しております。

(2)評価

簡易宿所の営業許可を取得すれば、一年中、最短1泊から旅行者を宿泊させることができます。新制度について、営業日数の上限が設定される可能性があることを考えると、あくまで事業として民泊を考えられる方においては、やはり、簡易宿所営業の許可取得が第一の選択肢になるかと思います。

他方、簡易宿所の営業許可を取得するためには、宿泊施設として建築基準法や消防法等の関係法に適合することが必要となるため、既存の建物をそのまま簡易宿所に転用することが困難な場合があります。例えば、住居専用地域に立地する建物については、住環境の平穏を維持する観点から、原則として宿泊施設としては利用できず、同地域上の建物を簡易宿所に転用することはできません。なお、箱根町のように、建築基準法第49条の特別用途地区の制度を利用して、条例により、住居専用地域においても宿泊施設の立地を認めている自治体もあります。

3. 国家戦略特区法に基づく旅館業法の特例

(1)概要

国家戦略特別区域制度とは、指定されたエリア(特区)に限って実証実験的に岩盤規制の緩和を認める制度であり、その規制緩和メニューの1つとして旅館業法の特例が設けられています。

本特例では、条例で定めた最低滞在日数以上の連泊で、他人を滞在させる事業を行う場合、旅館業法の営業許可は不要となります。旅館業法に基づく営業許可は不要となりますが、代わりに、国家戦略特区法に基づく認定を受ける必要があり、認定要件として、各居室25㎡以上であり、台所、浴室、便所及び洗面設備を有すること等が課されています。最低滞在日数は7日~10日の間で定めなければならず(最短でも6泊7日以上ということになります。)、1泊2日や2泊3日等の短期滞在は認められません。また、法令上の義務ではありませんが、通知により滞在者名簿の記載が求められるなど、実質的な制度内容は旅館業法に近接しております。

加えて、そもそも本特例を利用するための自治体側の手続として、①本特例を活用する旨の計画を策定して総理大臣の認定を受けること、②上記の最低滞在日数を定めた条例を成立させることが必要です。

本特例は、2014年4月に施行されましたが、これらの自治体側の準備に時間を要し、現時点で特例が活用されているのは東京都大田区(本年1月~)と、大阪府(大阪市等の保健所設置市を除く市町村が対象。本年4月~)に限られます。また大阪市では、今秋より特例の運用が開始されることになっています。

(2)評価

本特例は、岩盤規制を打破するための実証実験として設けられたものですが、実際の運用が開始されるまでに時間がかかってしまったこと、及びその間に民泊が著しく普及し、全国的な対応(新制度の策定)を急いで検討しなければならなくなったことから、実証実験としての機能を事実上果たせなくなっているものと言えます。

特例の内容については、最低でも6泊7日以上の連泊、25㎡以上の台所等付の居室等の制限はありますが、年中営業可能です。また、関係法令上は住宅として扱われるため、簡易宿所に比べれば既存の住宅を転用しやすい類型と言えますので、該当エリアにおいて宿泊事業を行いたいけど、簡易宿所の営業許可はとれないというような物件においては本特例を活用する意義は残っているものと言えます。なお、住居専用地域への立地の問題については、法令上は可能ですが、大田区では住居専用地域を除外して特例を活用しており、大阪府でも多くの市町村で同様に住居専用地域を除外して特例を活用しています。 

4. イベント民泊

イベント民泊とは、多客期に、自治体が主導して行う宿泊施設の不足を補うための臨時措置であり、「年1回(2~3日程度)のイベント開催時であって、宿泊施設の不足が見込まれることにより、開催地の自治体の要請等により自宅を提供するような公共性の高いもの」について、「旅館業」に該当しないものとして取り扱い、自宅提供者において、旅館業法に基づく営業許可なく、宿泊サービスを提供することを可能とするものです。

あくまで、宿泊行為が反復継続しないことを前提に営業性を否定し、旅館業法の適用対象外とするものですので、自宅提供者は、年1回、宿泊者の入れ替わりがない態様によってしか、宿泊者を受け入れることができません。

したがって、施設提供者がビジネス目的で実施するものではありません。むしろ、観光による地域活性化の観点から、自治体が必要に応じて取り組んでいくものといえます。

例えば、徳島の阿波踊りや大曲の花火大会等の集客性の高いイベントが実施される際に、宿泊施設の不足により日帰客が非常に多くなり、当該地域における観光消費額がなかなか上がらないということがあります。このような場合にイベント民泊を活用すれば、旅行者が地域のレストランで夕食をとったり、2日目には地域のオプショナルツアーに参加すること等も可能となり、地域にお金が落ちるきっかけを作ることができます。

イベント民泊の具体的な内容及び実施のための手順については、観光庁と厚生労働省が「イベント民泊ガイドライン(PDFファイル、19ページ)」を作成しております。こちらを参照の上、自治体においては、積極的にイベント民泊を利用いただければと思います。





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