欧米の若者たちを中心に、国を転々としながらITを活用してリモートで自由に働く「デジタルノマド」が増えている。
日本政府も最長6カ月以上の滞在を認める新たな在留資格を創設する検討を始め、2024年3月開始に向けて取り組んでいるところ。
そこで観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部では、デジタルノマド2024取材班を編成して、基礎知識から世界各国の先進事例まで取材をおこない、レポートを発刊した。本レポートはPDF版で無料でダウンロードできる(メルマガ読者登録は必要)。このレポートに掲載している内容の一部を、抜粋で下記に紹介する。
コロナ禍で生活様式が変化するなか、ノマド=遊牧民のように場所に縛られずに世界中で仕事をする人たち――。トラベルボイスでは、その歴史の変遷から、実践している人々の人物像、市場性、受け入れる際の利点と課題などを読み解いた。その概略は以下のとおり。
市場規模は世界で3500万人
もともと、「デジタルノマド」という概念と用語が登場したのは1990年代。通信環境とデバイスの進化という社会経済の変化に伴い、アメリカ発祥で新しいライフスタイルとして広がってきた。さらに、コロナ禍で人々や企業がリモートワークを余儀なくされたことから、人々はどこでも仕事ができることに気づき、それまでのテック系で働く層からより幅広い層へと市場が拡大。旅行、保険など各種サービス、コワーキングやコリビングスペースなど対応するサービスが増加した。
3万人以上の会員がいるデジタルノマド向けのコミュニティサイトを運営するNomad List創業者のピーター・レベル氏は、2028年から2035年は世界で数十億人が1年間の一部で母国から離れてリモートワークで働くとさえ予測している。なお、2022年時点、デジタルノマドの市場規模は世界で3500万人、年間支出額は7877億ドル(約118兆円)と推計されている。このうち、アメリカのデジタルノマドは1730万人だ。
より地域意識が強い新潮流も
では、彼らの人物像はどうか?
Nomad Listの2023年10月時点の統計によると、年代別では30代がコア層で男性61%、独身が65%、年収の平均は12万3542ドル(約1853万円)だという。学歴は学士が54%、修士が33%と高学歴で、働き方はフルタイム42%、ホームオフィスが61%だ。1都市の滞在日数の平均は7日間で、同じ国に滞在する期間は7~30日間が59%に上る。
人気都市ランキングは複数の調査結果があり、タイのバンコク、スペインのバルセロナ、アメリカのマイアミ、ポルトガルなどと多岐にわたっている。日本の東京が人気上位とのニーズ調査もある。
また、アメリカではすでにデジタルノマドが一般的になり、新しい動きも出ている。より地域意識が高い人は「スロマド(スローマインドの略)」と呼ばれ、地域に「住む」感覚で同じ場所で長く過ごし、持続可能な宿泊施設に滞在、グリーンプロジェクトに投資、貢献しようとしている。一方で、本格的なデジタルノマドになるのではなく、従業員が会社に居場所を知らせずにリモートで働く「ハッシュトラベル」も新しいトレンドになっている。
たとえば、世界的な旅行ガイド「ロンリープラネット」とイスラエルのファイバ社による調査では、「スロマド」の3分の1が1~3カ月ごとに移動し、55%が1つの場所で働き、3か月以上後に移動。仕事はIT、エンジニア、コンサルティング、建築やインテリアデザイン、デジタルマーケティング、月収はアメリカの回答者の5割以上が2000ドル(約30万円)で、7割が家族連れの親が占めるなどとも分析している。
世界のデジタルノマドビザ発給状況
もっとも、急速に発展した概念、旅のスタイルだけあって、課題も可視化されてきた。デジタルノマド側は「孤独、友人家族からの孤立」「異なるライフスタイルを持つノマド間のコミュニティ継続の難しさ」「納税や保険」「家族の義務教育」、雇用主は「人事担当者の困惑」「セキュリティの問題」などを挙げる。受入国は「住宅価格上昇」「地元への尊重がない」「反観光客、反外国人への抗議活動」などが問題になっているようだ。
とはいえ、スタートアップによるコミュニティ形成、過疎化が進む町や村の活性化、コロナ禍で観光客を失ったリゾートなどへの期待は高く、大手企業も一例としてAirbnbがリモートワークとデスティネーションを結び付け、リモートワーカー向けの長期滞在のハブとなる施設を建設するなど、さまざまな施策やプランを打ち出している。
世界各国・地域は、デジタルノマドビザや長期滞在プログラムを次々と導入している。日本にとって強力な競合相手となる韓国も2024年1月1日からデジタルノマドビザ制度をスタートした。本国とリモートワークをする外国人に最長2年間、韓国に滞在する許可を与えるもの。韓国の現地報道によると、国のねらいは「高所得の外国人が国内各地滞在することによる地方経済の活性化」。地方都市の観光需要と滞在期間を増やすため、国内においても企業のワーケーションを支援する計画がある。
日本も、2024年3月にも6カ月間のデジタルノマドビザの発給が開始される予定。ただ、日本には、独特の文化・風習が多く、文化や言語に関するサポート、住宅などを借り受ける際の保証人や敷金・礼金など日本の商慣行への対応策、地域の資源やサービスを活用しやすくなるような施策が不可欠となるのは間違いない。
高まる日本への関心、旅先テレワークもカギに
こうしたさまざまな状況から、現時点のデジタルノマドの主流は、ミレニアル世代のテック系が多い傾向がある。しかし、デジタルノマドを対象とした施策を検討するにあたっては、ワーケーションやプレジャーといった「旅先テレワーク」でデジタルノマド風のライフスタイルを実践するセグメントも含めるのが最適解だ。
デジタルノマドが求めるものは、自国よりも安価で安全、あるいは気候の良いところでネットを使った仕事ができる環境。付随して、住みやすさ、楽しさ、居心地のよさも求められている。世界的な潮流となっているデジタルノマドや富裕層が行きたい国のひとつが「日本」。このニーズをうまく捉えることがビジネスチャンス、関係人口の創出につながるとともに、地元との摩擦といった世界各地ですでに起こっている問題も念頭に入れておく必要があるだろう。
デジタルノマドビザの世界の発給状況、旅行業との関わりをまとめた参考資料も必読。調査レポートは、以下からダウンロードできる。