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【レポート】世界のトップが期待する日本の観光業 -JATA国際観光フォーラムより(1)

日本の経験でアジアに貢献、東京五輪に向け周辺国との協働も

このほど開催された2013年の「JATA国際観光フォーラム」。セッション1の「急成長するアジア旅行市場と日本の旅行産業」では、国連世界観光機関(UNWTO)、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)、日本旅行業協会(JATA)、ジェイティービーという、世界の観光機関・組織と日本の旅行業界のトップがパネリストとして登壇。高いレベルの視点で世界の観光産業の重要性とともに、観光産業が立ち向かうべき課題とその戦略が語られた。

今回のレポートは、そこで語られた成長するアジアにおける日本の役割と、2020年の東京オリンピックに向けて好機にあるインバウンドの課題を紹介する。日本が世界の観光産業でのポジションを維持していくための示唆に富んだ内容だ。

【パネリスト】

タレブ・リファイ氏 国連世界観光機関(UNWTO)事務局長
デビッド・スコーシル氏 世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)CEO
田川博己氏 日本旅行業協会(JATA)、日本旅行業協会(JATA)副会長/ジェイティービー代表取締役社長

【モデレーター】

本保芳明氏 元観光庁長官/首都大学東京教授/世界観光倫理委員会委員

▼観光産業は大転換期

 官民連携を促し、

長期的な利益創出を

WTTC・CEOのスコーシル氏(写真)はまず、「日本は世界3位の市場。回復は世界の観光業界にとっても切実な問題だった」と日本の重要性を示した上で、2013年の訪日観光客数が1月~6月で過去最高の500万人を超え、年間1000万人が現実的になったと紹介。日本経済全体でもGDPの2.6%の成長予測がされ、国内消費が上向いていることから「観光業の回復力を明確に示している」と、経済に対する観光の貢献度を強調した。

世界規模では年4.4%の成長が見込まれているが、この牽引は新興国、特に中国の中流層の増加によるもので、これを国連では「歴史的転換」と呼んでいる。スコーシル氏は「消費者需要の大きな変化であり、ビジネスのやり方も変えていく必要がある。観光産業はこの潮流を先取りして政府や公共機関に正しいインフラの構築と政策の制定など、長期的な利益が得られるような協力を促す牽引役として社会的貢献を行なう必要がある」と説く。政治家を巻き込み、政治家の理解を促進して観光政策を推進していくことが、WTTCの大きな役割でもあると語った。

【参考:討論で語られた数字】

▼日本の観光産業
・2012年のGDPに占める旅行・観光業の額は32兆円(全体の6.7%)
※自動車産業の4分の3に匹敵
・直接雇用は150万人、間接雇用と周辺雇用を含めると400万人(全体の2.2%)
※直接雇用の数は自動車産業の3倍

▼世界の観光産業


・2013年はGDPの9%に相当する6兆6000億円以上の見込み
・雇用は2億6600万人
・2013年までに新規雇用される7000万の3分の2にあたる4700万人はアジアで創出

▼新興国の中流層


・中国含むアジアでは、2020年には現在の3倍となる17億人に拡大
・ブラジル含む南米では、2030年には1億8100万人~3億1300万人と予測
・中東・アフリカでは、2030年には1億3700万人~3億4100万人と予測


▼各国トップ・政治家に「観光の有益性」の啓蒙が重要

 観光の進化に政治が追いついていない

WTTCの働きかけとして、例えば米国に対して「9.11後、入国審査レベルを引き上げことで6000億米ドルの収入機会を損失した」と発表し、これを受けたオバマ大統領がビザを緩和したことで中国やブラジルからの観光客数が倍増した。スコーシル氏は「各国のトップを啓蒙できれば改善できる」という。

UNWTO事務局長のリファイ氏(写真)も、50名以上の世界の政治主導者と会談したが、はじめは観光の有益性が理解されていない」という。自動車産業や金融業界などと比べて注目されていなかったことがその要因だが、現在では多数の人々が旅行を楽しんでおり、「深刻な経済状況にある欧州でも休暇を取らない人はおらず、旅行はやめていない。これは進化だ」と指摘。「2050年~70年頃には産業革命と同じように『あの時代は観光の時代だった』といわれるようになる」と強調する。ただし、「これが理解されないと観光が国の重要政策にならない」とし、その重要性を政治家に伝えるためにも「観光の雇用効果を認識させるキャンペーンをしていこう」と呼びかけた。

モデレーターを務めた本保氏は、「オバマ大統領など各国トップが観光の重要性を認識したのは自然発生的なことではなく、WTTCやUNWTOの活動の成果である」と補足する一方、「政治家の理解が観光の進化についてきていないことも問題。重要性の尺度に雇用が引用されるが、こういう共通言語も必要だ」と語った。


▼アジアにおける日本の役割

 アジアで量と質を拡大した唯一の

歴史でリードを

JATA副会長・ジェイティービー社長の田川氏(写真)は、本保氏の「アジアの代表として日本は何をしていくべきか」との問いに対し、1964年の自由化以降の海外旅行の歴史を振り返り、この50年に培ってきたプロセスを見返す必要があると語る。

日本の海外旅行は、多くがパッケージツアーで旅行会社がその役割を担ってきた。「日本にマーケットがなかった時代に商品を開発して提供し、この50年間で一般の人々の国際化を手助けしてきた自負がある」と胸を張る。

さらに、1982年に主催旅行が認められ、旅行会社が企画旅行を作って責任を負う流れができたことに触れ、「これをアジアの国々にも作ってほしい。それをリードするのは日本の役割だ。量と質を保って成長したのは日本しかなく、その成果とひずみを伝えることで、アジアの旅行業者や旅行者が各国の法令やマナーを守ることにつながる」と見解を示した。

もう一つ、人材とノウハウの提供にも言及。アジア観光の健全な発展には人材の確保・教育が大切とし、「その機会に人材を派遣したい。代理店のみならずデスティネーションを開発し、メーカー的な要素を持った日本流の経営と企画力を伝えることが、持続可能な成長につながる」とアピールした。

なお、育成という点でリファイ氏は、持続可能な観光と質の向上には責任あるステークホルダーの育成が重要と言及。ベストプラクティスの共有促進などを通し、官民双方で育成していく考えを示した。


▼2020年東京オリンピックは「歴史的なタイミング」

 観光政策の推進で「3000万人は達成する」

また田川氏は、インバウンドについて「日本の国力として90以上の空港がありながら、1000万人に達していないのは非常におかしい」と指摘。「そのためには規制緩和が必要。航空やビザ、クルーズのカボタージュなどの緩和を、アジアをリードする国として政府や他の関係機関に積極的に取り組むよう働きかける必要がある」と問題提起をした。

本保氏は、インバウンドの課題解決のきっかけの1つとして2020年の東京五輪が有効だとし、その方法についてリファイ氏とスコーシル氏に尋ねた。

リファイ氏は日本と同様にソースマーケットだったドイツが、2006年のFIFAワールドカップを境に観光政策を転換したことを紹介。「日本は歴史的タイミングであることを理解することが大切」と述べた。「すでに日本は製品や文化など多くの分野で世界の尊敬を得ており、人々は尊敬するところに訪問したいと思う」と日本の利点を添えつつ、「日本のポテンシャルは無限で2000万人どころか3000万人は達成する」と断言。「世界の中心は大西洋から太平洋に移り、日本はその中心にある。正しい国が正しい場所に正しい時期にあるのだから正しく使ってほしい」と観光政策を強力に推進するようアドバイスをした。

スコーシル氏も「オリンピックのもたらす機会は膨大なものがある」とし、そのポイントを五輪後にもつながるインフラ整備、LCCの拡大を含むオープンスカイの推進など5つに絞って提示。なかでも、「考えなくてはならないのは他国との共同マーケティング」と述べ、日本と近隣国との周遊旅行を見据えて北東アジアが連携することが重要だとした。さらに「中国市場への焦点」も提案。2020年には⒉億人の中国人が海外旅行をするといわれており、「その数%に来てもらえればよい」と語った。

田川氏は「2人の意見はまさに旅行業がすべきことだと感じる」と同意。また、JTBの調査で最近のリピーターが「自分が大切にされた場所に行きたい」という意見が最多となったことから、「これはアジアの得意とするところ。その流れを作っていくのは日本の旅行業界の仕事である」と意欲を示した。


▼観光産業が発揮する価値

 観光は政治課題、紛争時の重要な役割

このほか田川氏は、先ごろJATAと韓国旅行業協会(KATA)で会合を持ったことに触れ、「政治課題があり、苦しい時ほど民間が交流をしていく必要がある。観光に関してはむしろその量を増やさなければ、政府への働きかけもできない」と、観光産業ならではの役割を提示。「日中韓、さらにはASEAN諸国の関係にも組み入れ、交流を拡大につなげる視点が必要だ。日本がこの役割を果たさなければ、アジアの中で置いてかれることにもなると思う」とも語った。

これを受け、スコーシル氏はアブダビでのWTTCの会議で、クリントン元大統領が「旅行には優れた力がある。平和の方が戦争より機能するが、観光業ほど平和を促進するものはない」とスピーチしたことを紹介。その上で、「日中韓の政治的な微妙な関係はしばらく続くと思うが、3ヶ国のビジネスリーダーが手に手を取って進めることで、関係改善に大きな影響を与えることはあると思う」と語った。

最後に本保氏(写真)は、「日本の観光業の発展は、アジアや世界に理解されることにある。尊敬の念、そしてその背景にあるガバナンスこそがツーリズムの強さであり、来訪してもらうための基本である。自信を持って取り組んでいきたい」と述べた。また「もう一つ『ビッグ・ピクチャー』も大切。日本の中で日本やアジアを考えているが、より大きな絵の中で観光を考え、仕事をすることが大切だ」と締めくくった。