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訪日外国人を取込むマーケティングとは? 英語に勝る「強くポジティブな印象」がもたらすもの


こんにちは。マーケティング・コラムニストの野田彩子です。

訪日外国人旅行者の数が過去最高となり、メディアでも連日何らかの訪日旅行(以下、インバウンド)関連の話題が取り上げられるようになりました。インバウンド対策に早くから取り組み、既に成功事例として紹介される地域・会社・お店などがある一方で、「何から始めればいいの?」という方もまだ多いのではないでしょうか。

今後連載するこのコラムでは、出来るだけシンプルに、事例やデータを交えながら、これからインバウンド対策に取り組まれる皆さんにとって、何らかの役に立つヒントをお伝えできればと思います。


▼外国人を取り込むマーケティングの基本

訪日旅行者を増やすために、対象となるマーケット(お客様である旅行者)が「海外」であっても、「マーケティング視点で考えること」の重要性は、国内の場合とまったく変わりません。

お伝えしたいのは、インバウンド対策は「未知のことにトライする」のではなく、皆様がこれまでの経験で蓄積されているサービスやノウハウを、「訪日旅行者」という「新しいマーケットに対して広げていくこと」です。それには国内向けと同じマーケティングのステップで、一つずつ考えることができるのです。


▼大切なのは、お客様の心に「印象」を残すこと

他者に推薦したくなる「強くポジティブな印象」を

自分が何らかの形で「リピート」する商品やサービスは、必ず「良い印象」が心に残っているはずです。料金が高い商品・サービスの場合は、当然良い印象である場合が多いと思いますが、価格帯に関わらず「期待以上の価値」を感じることがポイントです。

自身の海外旅行を思い出してみると、「○○で行った○○ホテルは、絶対にまた泊まりたい!」「○○に行ったら、○○がお薦め!」と周りに話したくなるのは、単に「良かった」ではなく、推奨したくなるほどの「強い印象」が心に残っている場合ではないでしょうか。一方、「○○を訪問するのは一度で十分」「○○ではどこに泊まったかな・・・?」という、「ほとんど印象にも残っていない」場所やホテル等も、一定数あると思います。

訪日旅行という、今後最も成長が期待されるマーケットに対して、「英語(または複数語)対応さえしておけば、旅行者は自然に増えるから大丈夫」と思い、その場しのぎの対応だけをしていると、お客様の心に「強くてポジティブな印象」が残らず、後者のような「もう一度は選ばれない旅行先」になってしまいます。

この「期待以上」で、「強くポジティブな印象」が残ると、「誰かに伝えたい!」という気持ちが高まり、SNSや口コミサイトへの投稿・拡散につながります(逆に、「期待以下でがっかりした場合」も人に伝えたくなる場合があるので要注意です)。

「旅行記」としてのブログは、帰国後に写真を整理しながらゆっくり書くパターンが多いと思いますが、SNSは旅行中にリアルタイムで気軽に投稿する人が多いため、「ポジティブな投稿をしてもらうための仕掛けづくり」がとても重要です。「他人に推薦したくなる」ほどの商品・サービスは、自分自身がいずれリピーターになる確率も多いはずです。


▼自分の「強み」を分析してから、「伝えるべき相手」を考える

お客様の心に「強くてポジティブな印象」が残るのは、「他に負けない=差別化出来ている強み」を活かして、商品・サービスや体験を提供出来ているからです。この「独自の強み」(USP=unique selling proposition:ユニーク・セリング・プロポジション)を見出すことが出来なければ、これを作るように考えるのです。

インバウンドの場合、「”訪日旅行者からみた、自社の商品・サービスの強み”は何だろう?」という点を徹底的に考えることが大切です。例えば宿泊施設なら、ハード面(立地・施設・付帯設備・部屋等)なのか、ソフト面(料金・宿泊プラン・食事・スタッフのサービス・オペレーション等)なのか、またはホテル・旅館が持つ歴史そのものかもしれません。

相手が日本人の場合は、これまでの実績、経験や感覚値で「○○代の女性にはこんなプランが受ける」「キャンペーンで○○円に下げれば売れる」といったストーリーが描けるかもしれません。しかし、訪日旅行者は「国ごとに異なる価値観・ニーズ」を持っています。宗教による制限や、各国で様々な慣習や規制もあります。よって、これまで「日本人向け」にアピールしていたポイントが、訪日旅行者にはまったく通用しないこともあります。逆に、これまで見向きもされなかったポイントが、インバウンドでは「強み」になるかもしれません。

まず「自分の強み」を客観的に分析し、次にその「自分の強みが一番活きる(評価し、ファンになってもらえる)のは、どの国の旅行者だろう?」と考えていきます。いずれは、国内の場合と同じように性別・年齢等の属性に区切って、より細かく対応していくことが理想ですが、まずは「国単位」で考えてみるのが現実的だと思います。


【今日のマーケティング・ワンポイント】

自社または自社の商品(製品・サービス)が持つ「独自の強み」のこと。
1940年代に米国のテレビ広告のパイオニア、ロッサー・リーブス(Rosser Reeves)によって提唱された。

野田 彩子(のだ・あやこ)

野田 彩子(のだ・あやこ)

ブルームーン・マーケティング株式会社代表。鉄道会社、米国でインターンシップを経て総合旅行予約システム(GDS)や旅行会社のIT部門等でのマーケティング職として勤務。その後、PRコンサル ティング会社でIT企業を中心に担当。2010年7月にブルームーン・マーケティング株式会社を設立し、旅行・IT関連業界や海外向けマーケティング活動支援を展開している。立教大学院ビジネスデザイン研究科(MBA)を修了。