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観光ビジネスを取巻く経済キーワード、JATA経営フォーラム2015の基調講演から読み解く

千葉千枝子の観光ビジネス解説

「JATA経営フォーラム2015」が、去る2015年2月18日、東京・六本木で開催された。本フォーラムの基調講演に登壇したのは、公益社団法人経済同友会の代表幹事で武田薬品工業代表取締役会長兼CEOの長谷川閑史氏。国際派で知られ、タケダイズムを旗印に同社のグローバル化を推し進めた。

経済同友会では、数々の政策提言を行っている。その代表幹事には司令塔の役割も求められる。同氏はスクリプトも見ずに朗々とした語りで、「持続的経済成長に向けた日本の課題」と題した講演を行った。講演内容をもとに、観光ビジネスを取り巻く経済キーワードをピックアップして解説する。



▼選択する未来と長期ビジョンの重要性

「女性」と「地方創生」がキーワード

「日本は、あとに続く国々の良きモデルとならなくてはならない」。難題に直面しつつも長らく放置されてきた日本の負の現状とこれからを、長谷川氏は経済人の立場から、そう語った。「企業は3年、長くて10年先の中長期計画を定めて経営を行うものだが、国家としてのあるべき姿は最低でも20年、30年先を見据える必要がある」。確たる長期ビジョンをリーダーが指し示し、それをどう実行実現していくのか。長谷川氏は、「じっとしているのが、最大のリスク」と語り、守りに徹する経営者への警鐘と強力なリーダーシップの必要性を説いた。

50年後の日本を見据えた「選択する未来」こそ、現政権が描く国家ビジョンのベースとなるものである。政府の経済財政諮問会議に2014年、設置された有識者委員会・選択する未来委員会は、8600万人へと減少が予測される2060年の我が国の人口を1億人に維持する絵図を描いた。

また、これまでの東京一極集中、すなわち中央で富を集めて地方へ再配分する画一的な手法を脱却して、地方分権をはかる。権限、財源、人材の移譲を進めて、伸びるところから伸ばすとする地方創生こそが、日本再生に必要な取り組みであると語った。

今、女性や地方が大きなキーワードになっているのは、50年後の未来を見据えてのことなのである。


▼法人税率引き下げなど構造改革を断行

日韓関係の改善も

JATA経営フォーラム2015に登壇した経済同友会代表幹事の長谷川閑史氏

日本経済団体連合会(経団連)、日本商工会議所(日商)、そして長谷川氏率いる経済同友会を、経済3団体という。政策に影響力を持ち、国益にかなうベクトルには力をあわせた活動を行ってきた。近年では、経済界からの要望や提言に観光関連事項も珍しくない。

こじれた日韓関係の改善を求める声は、経済3団体からいち早く寄せられた。隣国・韓国との民間交流は、旅行業界の課題でもある。JATAは2014年暮れに、韓国観光公社(KTO)と協力して1000人規模のメガファムを行ったばかりで、販売成果も見え始めている。

世界で一番、法人税率が高いといわれる日本だが、米英独韓と比較をすると、欠損法人の割合が極めて高い。日本には、法人税の課税対象となる法人が約257万社(2011年)あるが、利益法人は全体のわずか3割弱と少ないのが特徴だ。欠損法人とは、すなわち赤字会社のことだが、益金から控除しきれない損失が生じたとき、それを将来、損金として計上することができる。そのため、あえて赤字決算を行う中小の会社も少なくない。

長谷川氏は、「納税は社会的使命であり、納めることができなければ合併ないしは廃業をすべき」と明言した。耳が痛い言葉と感じる経営者も多いことだろう。 法人税率は2015年度以降、段階的に引き下げられることが決まっている。


▼国家戦略特区の活用でイノベーションを創出

起業や新規事業のワンストップの先を

地方における起業や新たな事業のスタートアップを支援する仕組みづくり、イノベーションを創出するための国家戦略特区の活用についても言及がなされた。特区活用は、地方創生の大きな目玉でもある。

イノベーションとは、経済成長の原動力となる技術の革新や経営革新を意味する用語だが、言うほどたやすいものではない。米国・シリコンバレーやイスラエルといったイノベーション先進事例をもとに、アジアで起業するならココと言われるようなスタートアップ都市を国内に定めて、創業推進を先駆的に行う必要があると語った。

スタートアップ都市づくりに先進的に取り組む自治体は、福岡市、広島県、横須賀市、三重県、千葉市、浜松市、奈良市、佐賀県。規制緩和や外国人労働者の雇用特例などが盛り込まれた特区都市もある。

日本は、アントレプレナーへの支援が手薄いと言われてきた。設立支援や税制優遇策などを講じると同時に、たとえ失敗してもリベンジできる風土をもたせて、中小の企業誘致や経営安定化に特典をもたせるなど、特区ならではのアドバンテージが求められる。

筆者も起業して今年で創業20周年を迎えたが、会社は興すことよりも維持継続、発展させることのほうが難しい。地方ならではの優位性あるビジネス環境を整備して、移住も含めた若い企業誘致につなげる仕組みづくりが急がれる。

長谷川氏の講話には、イノベーションにおけるGAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾンの頭文字、通称ガッファ)の事例や、セカンド・マシン・エイジ(第2次機械化時代)と人工知能の台頭など、グローバルかつ旬なキーワードが頻出した。

観光が21世紀のリーディング産業を標榜するのであれば、日本はもとより世界の経済事情へと、視野をさらに広げる必要があることを、本フォーラムが物語っている。