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観光ビジネスで「AI」と「ロボット」の活用はどうなる? IBMとソフトバンクがホテルなどの導入事例を発表

あらゆるシーンで導入が進むAI(人工知能)とロボット。変なホテルをはじめ、旅行やホテルの世界にも活用事例がみられるようになってきた。そんな変化を踏まえ、ホテルシステムベンダーのタップは先ごろ開催した導入施設向けの講演会で、「AIとロボットがもたらすホテルの未来」をテーマにしたセッションを設定。AI「Watson(ワトソン)」を提供するIBMと人型ロボット「Pepper(ペッパー)」のソフトバンクが、事例とともに未来の姿を語った。

ホテル・観光にも導入進む

日本IBMのコグニティブソリューション事業部長の樋口正也氏によると、ワトソンはすでに金融から流通、製造など幅広い産業で導入されている。ホテル・観光関係ではヒルトンやハウステンボスなど、主にテキストや音声での自動対話によるコンシェルジュや受付対応などで活用される例が多い。ワトソンを搭載した自動運転バス「Olli(オーリ)」で、バスが自動で行き先をリコメンドするなど、会話をする様子の動画も紹介した。オーリはワシントンDCで先行運行されているほか、マイアミやラスベガスでも予定されている。

一方、ソフトバンク主席エヴァンジェリストの中山五輪男氏は、ハイアットリージェンシー東京の導入事例を紹介。同ホテルでは、館内改修の影響で増加したエレベーターの待ち時間の解消を図る目的で、挨拶や館内案内などを行なうペッパーをエレベーターフロアに設置した。すると、利用客のストレス軽減のほか、同ホテルに関する情報周知力も向上。ペッパーを介して利用客同士のコミュニケーションが発生するなど、想定以上の効果があったという。

上:日本IBMの樋口氏とAIワトソン搭載の自動運転ミニバス「オーリ」
下:ソフトバンクの中山氏とハイアットリージェンシー東京の導入の様子

今、なぜAI/ロボットなのか

以前から存在していたAIやロボットがこの数年、注目される理由について樋口氏は、スマートフォンやロボットなど、関連テクノロジーがこの数年で進化していることを指摘。なかでも「LINEもこの5年のことだが、その他のSNSを含め、ライフコミュニケーションはもう手放せない状況になっている」と、そうした技術を活用したサービスが生活に深く浸透していることを強調。

消費者とのタッチポイントが、ロボットやドローン、AR(拡張現実)やVR(バーチャルリアリティ)の専用デバイスなど多様化するなか、「その裏側にAIが入り、化学反応が起こる」と、さらに進化する流れにあることを説明する。

中山氏は、インターフェースの多様化のみならず、通信環境や半導体チップなど、技術を動かす基盤の性能向上も進化を早めた要因と説明。iPhoneが最初に発売されたのが2007年であったことにも言及し、「今では当たり前に使うようになった」と、AI/ロボットが一般化する必然性を語る。

では、ホテルでAI/ロボットが本格稼働するのはいつ頃になるか。樋口氏は「今年の残り数か月間から来年初頭にかけて様々な事例が出る」と期待を込めて予想。今年は旅行関係を含む200社以上のスタートアップが、ワトソンを活用した商品開発を進めているのがその理由。「アナログな業態ほどAIの領域がある」とホテル・観光業での可能性を示した。

ただし中山氏はロボットは早いものの、AIについては開発後から実用までには、半年から1年はかかるとも語る。人と同じ精度にするには、テストとリトライを繰り返す必要があるのがその理由。「成功事例が出始めるのが来春ごろ、本格稼働は来年末。2020年の東京五輪には多くのホテルで活躍している」と展望した。

タップ、商品開発でトリプコンやトラストユーと連携へ

ユーザー会ではタップ代表取締役社長の清水吉輝氏が、活動報告として現状と今後の開発予定を発表した。現在、タップのシステム導入施設数は約650施設で、順調に推移。特にこの数年の増加が顕著で、2013年と比べると倍増している。

タップ代表取締役社長の清水氏

最近の商品開発では自動釣銭機やパスポート対応など、周辺機器との連動を強化。客室係用のタブレットを活用したソリューションの提供も開始した。

今後はさらなる商品開発に向け、連携先を従来のサイトコントローラーからメタサーチのトリプコン、レピュテーションマネジメントのトラストユーとも開始。トリプコンはインバウンドチャネルの強化、トラストユーはクチコミ評価分析支援の強化を目的とするもの。これまでタップの外部連携は、ホテルの販売管理に直結するサイトコントローラーのみだったが、今後は関連業者とも積極的に取り組んでいく考えだ。

さらにタップでは今年度から、専門学校に対して無償でのシステム提供も開始。実際に使用されているタップのシステムを授業で使用してもらうことで、ユーザー施設の即戦力となる人材採用のサポートに繋げるのが目的。まずは2校からのスタートだが、今後も増やしていくとしている。

取材:山田紀子