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アトキンソン氏「2030年には世界トップ5の観光大国になるだろう」 -UNWTO記念講演より

国連世界観光機関(UNWTO)日本事務所は、奈良県奈良市の本部に加えて、新たに東京の国連大学内に東京事務所を開設した。これを記念して講演会を実施。二階俊博自由民主党幹事長、タレブ・リファイUNWTO事務局長、小西美術工藝社デービッド・アトキンソン社長がそれぞれ持続可能な観光について講演を行った。UNWTOでは2017年を「持続可能な観光国際年」と定め、観光が担う役割を果たすべく取り組みを進めている。

二階氏、日本は防災で持続可能な観光に貢献を

二階俊博自由民主党幹事長

二階氏は「持続可能な観光と防災」をテーマに講演。スマトラ沖地震や東日本大震災で多くの外国人観光客が津波の犠牲者になったことに触れ、「内陸国を含め世界中の人々に津波の恐ろしさを伝えることが大事。防災は持続可能な観光において日本が貢献できること」と主張した。

また、2015年に国連総会で11月5日が「世界津波の日」と定められたことについて、「国際社会がしっかりと津波に対峙していくことが必要」と強調した。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは世界から多くの旅行者が日本を訪れると予想される。そんななか、「その期間、万が一災害が起こっても、誰ひとりとして犠牲者を出さないこと。日本には大きな責任がある」とし、それは、2015年9月の国連総会で採択された『持続可能な開発目標 (SDG: Sustainable Development Goals)』の精神である『no one left behind (誰も置き去りにしない)』にも合致すると強調した。

また、そのSDGの重要な構成要素が観光であるとし、「日本は観光客の安心安全を守るためにno one left behindの精神でしなやかな国づくりをしていく。そして、その取り組みを世界に発信していく使命がある」と主張した。

リファイ氏、国境に壁を造るべきではない

タレブ・リファイUNWTO事務局長

リファイ氏は、「持続可能な観光国際年のはじまり」と題した講演で、観光の政治的な側面について触れ、「国境に壁を造るのではなく、旅行を進めていくべき。観光は人々の相互理解を深め、否定的なことを取り除く」と主張。昨今の人の移動を制限する保護主義的な傾向に警鐘を鳴らした。

安全保障の面では、「さまざまな危機は観光にとって大きな打撃になるが、その危機に対して、ただ恐れるだけでなく、迅速に対応できる準備を整えておかなければならない」とする。

そのうえで、パリやブリュッセルでのテロの事例を挙げ、「行かないことよりも、行くことが現地のサポートになる。グローバルに協力していかなければならない」と強調した。

また、デジタル技術の発達によりホテルのオンライン予約が急増していることにも言及。「既存の観光関係者は、それに対して戦うのではなく、受け入れて必要な技術力をつけていくべき」との考えを示した。

このほか、持続可能な観光国際年でのUNWTOの取り組みについても説明。包括的で持続可能な経済成長、雇用創出と貧困の削減、CO2削減をはじめとする環境保全、文化遺産の保護、平和・安全・相互理解において世界に貢献していくとした。

アトキンソン氏、訪日外国人4000万人は心配ない

小西美術工藝社デービッド・アトキンソン社長

アトキンソン氏は、「日本の観光業について」をテーマにした講演で、「2030年には世界の旅行者は18億人なると予想されており、観光は最も成長が期待できる産業」と述べ、そのなかで「日本は観光先進国になりうる」と強調した。

その根拠として、日本は文化、自然、食の基本条件をすべて満たしている観光資源国10カ国のうちのひとつとし、「例えば、スペインではスウェーデンでできることは体験できない。逆も同じ。しかし、日本はその両方が体験できる」と日本の多様性を高く評価した。

一方で、世界のメディアでの高い評価と実績にギャップがあることから、「それを埋めていくことが必要」と主張。そのためには、日本遺産、国立公園、食などの観光資源を、国をあげて整備し、世界に向けて発信していく必要性を説いた。

また、政府が掲げる2020年までの訪日外国人数4000万人については、欧州からの誘客が課題と指摘するとともに、関係省庁の縦割り行政についても疑問を投げかける。そして、「そろそろ文化、スポーツ、観光をとりまとめる省が必要なのではないか」と提言。同氏は4000万人は心配なく到達するとみており、「2030年には世界トップ5の観光大国になるだろう」と予測、講演を締めくくった。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹