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エアアジアの中国市場戦略とは? 中国・北アジア社長キャサリーン・タン氏が語る本気の取り組みとこれから

世界のLCC業界を牽引してきたエアアジア。その中国・北アジア地域社長を務めるキャサリーン・タン氏は、業界内の有名人のひとりだ。中国のSNS微博(weibo)のフォロワー数は40万人を超え、旅行業界で最も影響力のある女性リーダーのひとりとして知られている。

そのタン氏がWIT Japan 2017に登壇。15分の短いセッションではあったものの、そこで語られた中国市場の見方や社内の取り組みはとても興味深い。その中身をまとめた。

タン氏は、2004年から2013年までエアアジアの要職を歴任。その後、2015年までエアアジア・エクスペディア(AAE)のCEOとしてアジアでのエクスペディアの成長を牽引してきた。その後、1年間ビジネス界から距離を置き、昨年6月にエアアジアに復帰した。

「トニーに言われたのは、ただ『中国を変えろ』という短い指示だけだった」。タン氏は、3年ぶりにエアアジアに復帰したときのことをそう振り返る。

エアアジア 中国・北アジア地域社長のキャサリーン・タン氏

エアアジアCEOのトニー・フェルナンデス氏とタン氏は、同社のLCCビジネスをともに成長させてきた仲。しかし、久しぶりに戻ってみると「組織がさらに拡大し、カルチャーも変わっていた」と言う。現在エアアジアグループは9つのエアラインを展開し、アジアに22空港のハブを持っている。年間の輸送量は1,600万人にも及ぶ。

エアアジアは2017年5月、中国でLCCを設立するために、中国光大集団と河南省当局とMOUを締結。河南省の鄭州市を拠点とする合弁会社を設立し、中国国内線への進出を目論んでいる。中国への国際線については、2005年から運航。現在は他社が運航していない路線を中心にネットワークを広げているところだ。

「中国市場は複雜なので、どのように参入するか難しいところはある。一軒一軒ドアをノックしながら尋ねるような地道な仕事。しかし、私が戻ってきたことで、エアアジアは本気で中国に取り組んでいく意志を示した」と覚悟を語る。

たとえば、中国人旅行者向けのアプリの開発。「グローバルなアプリを中国語にローカライズするのはダメだと思う。中国人の開発者を使って、中国人に親和性の高いもの、中国人に刺さるようなものを開発していかなければいけない」と意欲を示す。

一方、機内で車も売る日本のLCCピーチ・アビエーションについて感想を求められ、「ピーチの成功は、従来の考え方にとらわれない人がいたから」と持論を展開。「トニーや私はエンターテイメント業界出身なので、エアアジアをライフスタイルの航空会社にしたいと思っている」と明かした。そのひとつの取り組みとしてオンラインでの免税ショッピングの展開を挙げる。「エアアジアの付帯サービスの売上は全体の25%ほど。まだまだ低い」という。非航空事業での収益拡大は、LCCであるエアアジアにとっても大きなテーマであるようだ。

デジタル化については、社内的にはトニーCEOのビジョンを社員が共有できる仕組みをSNSで展開。カスタマーサポートでは、AIを使ったチャットボットを広げていきたい考えだという。

このほか、タン氏は新たな長距離路線戦略として、エアアジアXによるクアラルンプール/関西/ホノルル線の就航(6月28日に就航)について言及。「関西に新しい市場を作るだけでなく、たとえばシンガポールやインドの人たちにとってもクアラルンプール経由でハワイに行ける機会が増えることになる。アジアにおいてハワイは富裕層のデスティネーションだったが、エアアジアの就航で若い人でも行けるようになるだろう」と話し、この新規就航は新しいデスティネーション開発の意味合いも強いことを付け加えた。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹