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旅行の現地手配ツアーオペレーターの実態調査、下請法抵触「ほとんどない」は後退で悪化、インバウンド参入の意欲高く

日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA)は、6年ぶりに実施した「OTOA会員の実情に関する調査結果」を発表した。

ツアーオペレーターとは、旅行会社が実施するパッケージツアーや団体旅行の宿泊や移動など、旅行の地上手配を担うBtoB事業者のことで、OTOAは海外手配の事業者を中心に構成。中小事業者が多く、今回の調査に回答した会員102社(全会員数は現在143社)のうち、社員数10人未満が58%、20人未満が約80%、100人以上はわずか2.9%となっている。

この時期に調査をした理由について、OTOA顧問の速水邦勝氏は「昨年、海外旅行需要は4年ぶりにプラスとなったが、オペレーターの実感は大変苦しく、旅行会社も同様だと思う。今後、OTAなど手配手段が増えるなかで事業継続のために何ができるのかを検討したい」と説明。また、来年1月に国内の地上手配を行なうツアーオペレーターを対象に登録制度が始まることも踏まえ、会員のインバウンド事業に対する意向を把握することも意識したという。

調査は2007年、2011年に次ぐ3回目の実施。この間、世界的に旅行の取引環境が大きく変わり、国内ではコンプライアンスを重視する社会的風潮や、業者間取引の適正化に向けた行政の取り組みも強化された。今回の調査では以前に比べ、改善が見られる項目もあるが、変化がなかったり、悪化した項目もあった。そこには、オペレーター自身が事業継続のためにあえて苦しい判断を選択している姿もうかがえた。

理不尽な取引要求は「ほとんどない」42%、が、実は…

例えば、旅行会社との取引について。「下請法に抵触するような、或いは理不尽な取引/条件などを要求されたことはありますか?」の質問では、42%(43社)が「ほとんどない」と回答したが、そのうち19社が、取引状況を聞く具体的な項目で「該当あり」を選択。

この項目は「該当あり」の場合、下請法に違反・抵触する内容であることから、速水氏は2つの可能性を指摘。1つは、オペレーター自身に下請法の詳細が認知されていないこと。もう一つは、(取引確保や事業継続のために)「この程度はいいか」と甘受したことも考えられるという。

「OTOA会員の実情に関する調査結果より:OTOA提供

「旅行会社との取引に関して、公正取引委員会、中小企業庁、かけこみ寺などに相談したことがありますか?」でも、「相談するようなことは発生していない」が65%(66社)と半数以上で、こうした数字の矛盾にはオペレーターの苦悩が見える。「発生したが相談しない」も24%(25社)で、その半数以上(14社)が「後の取引に影響するから」、5社が「自分で解決できる」と回答するなど、我慢をして要求をのんでいることがうかがえる。

なお、「下請法に抵触するような取引条件を要求されたことはありますか?」についてだが、「ほとんどない」(42%)の回答は、前回の62.4%から大きく減少。企業はコンプライアンスを強化しているが、この実態は悪化していたようだ。

「OTOA会員の実情に関する調査結果より:OTOA提供

改善点はデポジットに対する認識、費用立替は変わらず

また、調査ではオペレーターによる支払いの「立替え」は変わらず、対応に苦労している実態も浮き彫りになった。

例えば、デポジットに対する旅行会社の対応で、「条件通り支払われる」が前回の34%から47%に改善したものの、「いつも立て替えて支払う」は35%で、前回の38.7%とほぼ同じ。

また、「海外取引先の手配代金支払期日と旅行会社からの入金期日」については、「海外への支払期日の方が早い」が48%と前回よりも9%増加。海外への支払いがさらに厳しくなっているなか、ほとんどのオペレーターが「立替払いをする」(94%)と回答した。

こうした支払いの「立替え」は、オペレーターの資金繰りに影響。金融機関等からの融資状況について、「恒常的に受けている」と「一時的に受けている」があわせて52%と半数に上るが、その理由は「デポジットなどの費用立替のため」が75%、「旅行会社の支払いが遅いことによる、海外取引先への支払費用のため」(50%)が圧倒的に多かった。

なお、旅行会社との取引のなかで、「手配代金の支払いは契約書通りになされている」は96%だが、「取消料が発生した場合、契約書に基づいて支払われるか」については「支払われない」が35%という結果も明らかに。そのうち「実費を含む減額を求められる」ケースが29%でほとんどだ。これは下請け法違反に当たるが、この傾向は前回調査とほぼ変わらず、改善されていない。

「OTOA会員の実情に関する調査結果より:OTOA提供

会員の半数がインバウンドに参入見込み

OTOAは海外手配をメインに扱うオペレーターが中心。しかし、勢いづくインバウンドに対し、「主たる事業」で3社、「行っている事業」では28社がインバンドに取り組んでおり、関連会社を含めると43社(42%)がインバウンドに参入していることが判明した。アンケート未回答の会員ですでにインバウンドを扱う7社をあわせると50社にのぼる。インバウンドの扱いは前回の30社(25%)と比べ、広がりを見せている。

さらに、「今後、新たに手掛けたい/計画している事業」で、22社が「インバウンド」と回答。参入済みの43社とあわせると65社、アンケート未回答社の7社をあわせると72社が今後、インバウンドを扱うことが見込まれる。これは、OTOA全会員(143社)の半数を占める。

OTOA顧問の速水邦勝氏

なお、来年1月に開始される改正旅行業法(「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律」で、国内のツアーオペレーターは旅行サービス手配業としての登録制度が始まる。国内事業者が対象であるものの、旅行業法にツアーオペレーターが明確に位置付けられるようになることで、速水氏は「監督官庁の見方や旅行業界の振る舞い方が変わるかもしれない」との期待を語った。

同調査の実施期間は2017年3月16日~4月17日。3月31日時点の会員140社を対象に行なった。調査結果は会員間で共有し、啓蒙活動で活用するほか、観光庁や日本旅行業協会(JATA)に参考として提出し、業者間取引の実態や会員の悩みなどを伝えるとしている。

記事:山田紀子