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中国市場攻略のカギは「WeChat(ウィーチャット)」活用がポイント、中国のモバイル事情と観光マーケティングを専門家が解説【外電コラム】

Minh Tang (c) stock.foto

旅行関連各社やデスティネーションが、中国人旅行者の争奪戦を繰り広げている。中国の送客市場は巨大で、2017年実績では1億3050万人。さらに今後7年間、年平均10%増の勢いが続くと予想されている。

旺盛な消費意欲があり、まだまだ拡大基調にあるこの有望な旅行マーケットを攻略するには何が必要か。これまで西欧市場で展開されてきたものとは異なる戦略が求められている。第一に、情報流通のインターフェースではモバイルが圧倒的に強い。Eマーケター社の予測によると、2018年、中国で大人が1日にモバイル上で費やす時間は、前年比11%増の2時間39分に達し、テレビ視聴時間を初めて上回る見込みだ。

スマホなどモバイルで何を見ているのか。

中国の消費者がよく使うプラットフォームは、欧米各国で人気のものとは異なる。フェイスブック、ツイッター、インスタグラムはいずれも中国では利用禁止。オンライン検索の最大手はグーグルではなくバイドゥ(百度)で、全検索数のほぼ80%を占める。グーグルのシェアは10%にとどまっている。

中国の消費者がよく使うのは「WeChat(ウィーチャット、微信)」。テンセント傘下のプラットフォームで、あらゆる分野を網羅したアプリ。月間アクティブユーザー数は10億人。インスタントメッセージから写真共有、ショッピング、旅行の検索・予約・決済まで、様々なサービスが利用できる。

WeChatをもっと深く理解し、中国アウトバンド旅行市場にリーチしたい旅行関連各社にとって、どのような活用方法がおすすめなのかを知るべく、フォーカスライトは、ブランドストーリー社の創業者兼マネジングディレクター、リーネ・ホウファン氏に話を聞いた。同社は観光マーケティングエージェンシーとして、中国およびアジア全域の旅行者向けキャンペーンのマネジメントを手掛けている。

質問:最初に中国のモバイル市場全般について教えてください

中国は、今や世界最大の送客市場。誰もが有望視するようになり、あらゆる旅行ブランドが進出してきている。最近の注目すべきトレンドをいくつか挙げると、まず、急速なデジタル化だろう。おかげで中国では、物理的なインフラよりもデジタルインフラのほうが先に整備が進む結果となっている。国民の大半が携帯電話を利用していて、デジタル化の完成度は高い。

日常生活でも、お財布や現金、クレジットカードは持ち歩かない。なぜって必要ないからだ。携帯電話さえあれば、タクシーの手配、ランチの注文、旅行の予約、レストランの評価レビュー、ショッピング、テレビの視聴、日用品の購入や請求書への支払いなど、何でもできる。

中国の地方行政区には第二層、第三層と呼ばれるところがある。第三層の都市はかなり山奥で、道路や病院などの施設が十分整っていないエリアもある。しかしこういった場所でも、携帯電話は誰もが持っていて、モバイルネットワークを通じて中国中の人々とつながることができるようになった。

こうした地方の町では、テレビがない家庭もあるが、それも今では大した問題ではない。携帯端末で何でも見られるようになったからだ。まずテレビ、次に携帯端末を買う、という地域もあるだろうが、中国の場合、デジタル化があまりに急速に普及し、そういう時代を飛び越えてしまった。

質問:現在、WeChatのアクティブ月間ユーザー数は10億人。なぜそこまで圧倒的に支持されるモバイルプラットフォームになったのか?

WeChatは本当にパワフルで、多種多様なことに役立つメッセージングプラットフォーム。中国では皆、このアプリが大好きだ。なかでも最大の利用目的は、自分の交友関係の輪をモバイル上に形成すること。中国では、内輪の仲間に入れてもらうこと、エクスクルーシブな扱いを受けることには、とても大きな意味がある。そうしたネットワーク作りに便利だったことが、WeChat人気に火が付いた一因だろう。

写真やコメントを仲間と共有できるほか、もう一つ、非常に人気がある機能が「電子ウォレット」。ソーシャルメッセージング機能のすぐそばに用意されていて、簡単にアクセスできる。ウォレット内には、企業各社が提供するミニプログラムが格納されていて、こちらも手軽に使える。

例えば、ウォレットにアクセスしてから、自分のお気に入りのショッピングモールに移動し、買い物ができる。他にも、ウォレットサービスで品物を検索したり、レンタカーやタクシー会社を探して予約したりと、色々なことができる。公的機関やガス、電気、水道会社などを探し、各種の支払いもできる。あまりに便利で、今やすっかり中国の消費者にとって日常生活の一部になった。

質問:旅行・観光マーケティングでは、WeChatはどのように活用されているのか?

旅行ブランド各社は、WeChatを活用すればさまざまな手法で消費者にリーチできる。ビジネスモデルに依存するので、これがベストな方法だ、と一概には言えない。例えば、サブスクリプションアカウントを作るという手法がある。最近、中国の消費者は、メールで送られてくるニュースレターを読むことはあまりしなくなった。メールではなく、自分用の購読ページをチェックしている。企業各社に申し込むと、自分のWeChatにニュースなどが配信されてくる仕組みだ。

当社のクライアントは、例えばラスベガス観光局、ハワイ観光局中国支局、米国ワシントンD.C.、メリーランド州、ヴァージニア州の組織「キャピタル・リージョンUSA」など。こうした顧客のニュースレターを当社が毎週アップデートし、旅行アトラクションの最新情報などを届けている。他の国では、メールマガジン(編集部注:メールマガジンは和製英語で、英語では「eニュースレター」と呼ぶ)が主流のようだが、中国ではWeChatマガジンが購読希望者のアカウントに配信されている。

内容も充実していて、動画あり、テキストあり。本物の雑誌みたいな仕上がりだ。

質問:他にはどんな手法がありますか?

WeChatでは、企業が消費者に向けたホットライン的な窓口を開設し、顧客サービスに活用することもできる。例えばデスティネーションマーケティングをおこなう組織なら「旅行するのに一番よい時期は?」といった質問を受けられる。

WeChat内に「ミニアプリ」を作ることもできる。AndroidやiOSのアプリは、利用者がわざわざダウンロードしなければならないが、ミニアプリはWeChat組み込み型なのでその必要がない。例えば、旅行先の天気や安全情報のように、常に変動する内容を扱うアプリが提供できる。

WeChat内でキャンペーンを展開することも可能で、ネイティブ広告も挿入できる。これも、旅行各社が潜在的な旅行者層にリーチする一つの手法と言える。

WeChatの特徴は、周りから切り離された単独のツールではなく、キャンペーン全体と連動して活かせるところ。例えばハワイのイベントなどでは、WeChatのQRコードを表示したり、中国人向けの地図をスキャンしたり、会員手続きを行ったりと、様々なところで役立つ。

質問:中国人消費者から支持されるブランドを目指す企業に対し、WeChatの使い方のアドバイスは?

クリエイティブなコンテンツマーケティング戦略を展開する上で、最も効果を発揮するのではないか。潜在的な旅行者が探しているであろうコンテンツを届けたり、他社とは違う面白いフォーマットを工夫することができる。小さな長方形のスクリーン上で見栄えが良くなるようにする、というレベルの話ではない。フレキシブルで持ち歩き可能なコンテンツという特性を生かした試行錯誤が必要だ。インタラクティブなゲームが楽しめるなど、体験型のコンテンツもよいと思う。

例えば、みなさんよくご存じのハワイは、言うまでもなくすばらしいデスティネーションだ。ただ、アジアにも魅力的なアイランドリゾートは多く、競争は激化していて、差別化は必須。そこで我々はハワイを「他とは格が違う、アイランドリゾート界のダイヤモンド」と位置付けたキャンペーンに着手した。

「ダイヤモンド」というコンセプトが、消費者が抱くイマジネーションや欲求をうまく捉えてくれた。中国宝飾店の最高峰である「周大福(Chow Tai Fook)」の協力を得て、WeChat上で楽しめる宝探しゲームを共同で開発した。ハワイ州の各島に隠された宝物のダイヤモンドを探すという内容で、ユーザーは夢中になり、美しい画像を楽しみながら、ハワイのそれぞれの島についても詳しくなる。豪華なダイヤモンドの賞品も用意した。

同キャンペーンのパートナー企業は、中国ナンバーワンの宝飾店で約2000店舗を展開し、WeChatのアカウントは数百万人分を保有していたため、顧客ベースの拡大にもつながった。

最近、中国で人気があるのはショートビデオ、特に6~15秒程度の長さのものだ。デジタル関連やeコマースサイトでは、マーケティング目的で頻繁に使われている。テンセント、アリババ、ニュースアプリの「今日頭条(Toutiao)」なども、過去2年間でショートビデオ制作に膨大な金額を投じている。

質問:WeChatは決済にも使われている?

旅行関連サービスの購入で携帯電話を利用するケースは非常に多く、支払いには「WeChatペイ」が利用可能だ。例えば航空会社であれば、WeChatにアプリを作り、WeChatペイで決済できる航空券の各種オプションを提供することも考えられる。質問に答えるカスタマーサービスのページの開設も可能だ。

以上は、あくまで参考例に過ぎない。成功の秘訣は、まず自社のターゲット顧客層についてよく理解し、何が必要なのか想像すること。そして購買に至る過程が楽しいものとなり、シームレスな使い勝手になるよう心掛けること。

質問:西欧の旅行ブランド各社が最近、WeChatを使ったマーケティングに乗り出していますが、どう思いますか?

急激なカーブを描く学習曲線のようだ。テクノロジー進化に伴い、既存ビジネスモデルの変革がすさまじい勢いで進んでいる。これは、オンライン旅行プラットフォーム、旅行会社、メディアなど、あらゆる分野で共通している。

消費者の生活や習慣も急速に進化しているので、変革の波はますます広がっていくだろう。中国はなかなか興味深いマーケットで、一度人気が出ると、あっという間に人々の話題になり、浸透していく。なにしろ人口規模が巨大なので、「クリティカルマス(爆発的に普及するために必要最低限とされる規模)に達するのも非常に速く、結果につながりやすい。

変化のスピードが速いのだ。

質問:今後2~3年間で、WeChatでのマーケティングはどうなると思いますか?

消費者の嗜好が変化するなか、従来以上にテイラーメイドな旅行プラン作りが求められるようになり、画一的な内容では飽き足らなくなる。カスタマイズに対応できる旅行プラットフォームが、次の勝者になるだろう。そうした傾向は、すでに見えている。

※編集部注:この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事について、同編集部から承諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。

※オリジナル記事:Q&A: How brands are using WeChat to attract travelers


著者:ミトラ・ソレルズ(Mitra Sorrells、シニアレポーター)