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今話題の航空の新流通規格「NDC」とは? 旅行会社へのメリットは? トラベルポートLIVE2018で語られた識者の議論を取材した

先ごろ、バンコクで開催された「トラベルポートLIVE 2018」では、今話題のIATA(国際航空運送協会)が推進する新流通規格NDC (New Distribution Capability)についてのセッションも開かれた。トラベルポート・エア・コマース・プロダクト&マーケティング担当VPのイアン・ヘイウッド氏が同社の取り組みを説明したほか、航空会社を交えたパネルディスカッションも行われた。

業界一体となってNDCの推進を

NDCとは航空券の予約・発券・決済などの機能に加えて、その他の航空に関わるサービスを個別販売したり、航空とは異なる商品販売に対応する新たな通信規格。ヘイウッド氏はセッションの中で「2020年末までにはNDC認証を受けた20の航空会社が取り扱う全流通のうち20%がNDCのAPI接続を通じた予約になる」というIATAの見込みを紹介し、そのなかで、同社としてはレベル3認証を受けたアグリゲーターとして、旅行業界に積極的に関わっていると強調した。

現在、各航空会社は「アメとムチ」の両面から試験的な取り組みを実施しているところ。たとえば、ルフトハンザ航空は、GDSでの1発券あたり16ユーロのDCC (Distribution Cost Charge)を徴収することで、同航空が用意するNDC規格のダイレクトコネクトへの乗り換えを促す施策を実施している。逆に、アメリカン航空は、同航空のNDC接続での発券には2米ドルの「NDCコミッション」を支払っている。

ヘイウッド氏は、各航空会社がNDCの導入と普及に向けて試行錯誤を続けているが、「しばらくは旧来型のATPcoやSITAでの発券とNDCとの併用が行われ、旅行会社にとっては辛い状況が続くかもしれないが、パニックを起こしてはならない」とコメント。一方で、IATAが主要な旅行会社を集めた「Global Travel Executive Council」を立ち上げたことも紹介し、「最適なソリューションを開発するためには旅行会社からのフィードバックが必要」との立場を明確にしたうえで、「IATA、航空会社、旅行会社、アグリゲーターを含め業界全体でNDCに取り組んでいくべき」と強調した。

トラベルポートのヘイウッド氏がNDCの取り組みを説明

コンテンツの充実で旅行会社にも消費者にもメリット

パネルディスッションはヘイウッド氏がモデレーターを務め、以下の5名が参加した。そこでは、ヘイウッド氏から主に6つの質問が投げかけられた。各人のコメントを以下にまとめる。

Q1、NDCの現状は?

CAPAソビエ氏:  NDCの取り組みは6年目に入るが、多くの航空会社が導入を決めかねている。中小の航空会社のなかには、投資が必要なため「必要ない」と考えているところもあるようだ。旅行会社サイドでも中小の会社はトレーニングどころか、認知も進んでいないのが状況だろう。NDCを推進する万能薬はないのではないか。

QFスメルダー氏: 我々はNDCのリーダーボードの一員として、NDCの普及を積極的に進めている。旅行会社とも前向きな関係を築いているところだ。今後はコンテンツのボリュームを増やし、IATAの目標達成に貢献していきたい。

SQコー氏: 我々もリーダーボードの一員として積極的にコミットしている。現在は、マーチャンダイズ・プラットフォームの構築に力を入れているところ。旅行業界と対話を続け、協業関係を築いていきたいと考えている。

Q2、NDCは旅行会社にとってどのようなメリットがあるのか。

HRGロリメアー氏: NDCはオープンなもの。IATA会員でなくても、新しい運賃を販売することができる。TMC (Travel Management Company)として、航空会社との関係が深まり、ビジネスの効率性も改善できるのではないか。

Flightroute24ゾー氏: NDCは強みになると考えている。予約クラスが増えることで、運賃の競争力だけでなく、我々のプラットフォームの力も向上させられる。我々としては航空会の戦略について行くことが大切になってくる。ただ、旅行会社のコストは上がる可能性はある。

Q3、NDCによって航空運賃は上がるか?

SQコー氏: それは需給関係の問題だろう。

QFスメルダー氏: より広い価格帯を提供できるようになるが、それは運賃が上がるという意味ではない。

CAPAソビエ氏: 運賃はずっと下がり続けている。それは今後も続くのではないか。一方で、航空会社にとってはアンシラリーの販売で収益機会が増えることになる。

Q4、NDCで提供されるコンテンツについては?

QFスメルダー氏: GDSでは旅行会社がオファーをするが、NDCでは航空会社が提供するものを管理するため、旅行会社はワンストップでさまざまなオプションをユーザーに提案できることになる。

HRGロリメアー氏: 法人でもレジャーでも、顧客のタイプに合わせた運賃やサービスを提供できるようになるだろう。

Flightroute24ゾー氏: 航空会社がどのような運賃やコンテンツを流通させるのか、旅行会社も学ぶ必要がある。

(左から)ヘイウッド氏、QFスメルダー氏、HRGロリメアー氏、Flightroute24ズー氏、SQコー氏、CAPAソビエ氏

Q5、NDCによって組織体制は変わるか?

QFスメルダー氏: 大きな投資案件だ。組織の中で流通が果たす役割は大きくなっている。

SQコー氏: 組織体制は変わっている。組織内のいろいろな部門と協力していかなければならない。

Flightroute24ゾー氏: NDCに対応する新しいチームを立ち上げた。

Q6、最後に業界に向けたメッセージを。

CAPAソビエ氏: NDCが一般化するまでは長い道のりになると思う。どのような選択肢があるのか、よく検討していくべきだろう。

Flightroute24ゾー氏: テクノロジーの進化に合わせて、次のトレンドになると思っている。

HRGロリメアー氏: 販売サイドとしては、航空会社と手を組んで進めていきたい。

SQコー氏: 業界内の認知度と理解度を深めていくことがまずは大切。

QFスメルダー氏: 旅行会社は顧客の立場にたってNDCを考えてほしい。そして、NDCの能力をできるだけ早く身に着けて欲しいと考えている。

記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹