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いま熱いタビナカで取り組むべきことは? 成功事例や、データで読む旅行者の実態とニーズまで

トラベルボイスLIVE特別版:開催レポート

トラベルボイスはナビタイムジャパンと共催で、「タビナカビジネスの現在~未来を考える」をテーマに、観光産業に関わる事業者向けのイベント「トラベルボイスLIVE特別版」を開催した。

スマホの普及とテクノロジーの進化で、旅行中の旅行者が現地で観光施設や観光事業者の情報にアクセスして旅行商品を購入したり、事業者側が旅行者にリーチすることもできるようになってきた。しかし、それは本当にタビナカで旅行者が求めるニーズに合致しているのか。タビナカで活躍する事業者を招いて開催したイベントで、注目を集めた事例や議論をレポートする。

出発してからのタビナカで初めて出る需要がある

まずは、ナビタイムジャパンのインバウンド事業部部長・藤澤政志氏が、同社のアプリやプランニングツールのデータをもとに、タビナカの旅行者の行動を解説。「タビマエに行きたいと思う定番ニーズに大きな変化はない。目的地に行った後で変化が起こっている」と、タビナカで初めて旅行者の思考に変化が生じることを指摘した。

例えば、ナビタイムが北海道開発局との連携で、レンタカー利用の訪日外国人に提供しているドライブアプリ「Drive Hokkaido!」の検索データと訪日前の検索ワードを比較。すると、タビマエは目的地となりうるメインの観光地の検索が多いのに対し、タビナカでは現地を見てイメージが沸いたからこそ出てくるワードや、休憩や食事などの必要性で調べられる「道の駅」などの施設などがあがってくるという。

これについて藤澤氏は、「例えば訪日前は『美瑛の青い池』と知っていればいいが、そこに来たら初めて、次に何をしようかという考えがでてくる」と解説。「メインの観光地に来たけど、次にやることがわからないのが、タビナカでの課題」と指摘した。

ナビタイムジャパン 藤澤政志 インバウンド事業部部長

 

実はこれは日本人でも同様の傾向があり、旅程計画が可能な予約サービス「NAVITIME Travel」でも、タビマエでプラニングされる場所は寺院や神社、ホテル、駅、歴史的建造物など従前からの定番スポットがあがる。藤澤氏は、「タビマエは大まかに、タビナカはその時の雰囲気や感覚で決めるのが今の流れ」と述べ、その情報が今の日本のタビナカに不足していることを指摘した。

これを踏まえ、タビナカのピンポイントの情報発信が集客に繋がった例を紹介。渋谷区立千駄ケ谷小学校の総合学習で訪日観光客向けの地域マップを制作し、原宿などの街頭で直接配布したところ、該当エリアの訪問者が渋谷区全体の増加率63.6%増を大きく上回る151.1%増に増加した。マップには、児童が家族とともに利用する商店街の店舗などが紹介されており、藤澤氏は「明治神宮の近くにこんなにローカルな場所があると認識されて来てもらえた。事前の予定はなくても、求めるものがあると分かれば訪問される事例になったのでは」と話した。

タビナカでポジションを確立する切り口

次に、訪日外国人向けの体験プランを販売するBOJとエクスペリサスの2社が登壇。タビナカ市場でオリジナリティある商品企画や独自の市場を捉え、地位確立に成功した両社がその取り組みを語った。

始めに、元力士との相撲のデモンストレーションや両国散策などができる「朝稽古見学ツアー」など独自の体験プランで人気を博すBOJの代表取締役社長・野口貴裕氏が、企画に他の追随を許さないオリジナリティを加える同社の要点について講演。

まず野口氏は、タビナカ商品が「日本の朝食体験」「農業体験」などすべてに「体験」という言葉が使われていることに対し、「それら一つ一つのコンテンツが体験。ただ体験という言葉を使えばいいのではなく、整理する必要がある」と、体験に対する意識変革を促した。

その上で、同社ではターゲットを日本の文化や体験に興味を持つ欧米人に設定し、彼らの目線を常に意識した商品企画を行なうことを説明。海外の旅行会社に要望される「Something unique」「Something different」「Something new」に付加価値を載せ、オリジナリティを加えるには「ストーリー仕立てとエンタメ要素」がポイントだとアドバイスした。その際には、「外国人を案内すると『なぜ?』と聞かれることが多いが、それは歴史文化的な背景に興味があるから。そこに応えるために自分も『なぜ?』の目線で視察をし、企画に盛り込む」という。

例えば、宮城県・松島を訪れるツアーでは、一般的な遊覧船と海鮮丼の食事、円通院などの寺社仏閣観光で終わらず、利き茶の機会を提供。煎茶やほうじ茶のなど様々な種類がある日本茶の奥深さを紹介すると同時に、銘茶「伊達茶」が生まれた背景として、伊達政宗と茶の湯のストーリーを伝える。さらに、伏見桃山城の茶室を移築した観瀾亭での茶道体験や、漁師民宿での宿泊と漁体験も盛り込み、震災と復興の話もする。本物であること、そして「このプランだけ」といったオンリーワンの要素も、重要な切り口であるという。

BOJ 野口貴裕 代表取締役社長

また、超富裕層旅行をターゲットとするエクスペリサスの代表取締役社長・丸山智義氏の講演では、ターゲット設定の理由や取り組みの説明から同社の事業やタビナカ市場の意義にまで及んだ。

丸山氏は、競合市場を避けた事業展開を目指し、大手資本が参入していない最後のホワイトスペースとしてタビナカの「高単価×体験」市場を見出した。「旅行業で利益率が高い唯一のスペース」であり、「日本の人口は減少するが、世界の富裕層は増えている。対象人口の増加と高利益率が達成できる領域」として参入を決めた。

しかし競合がいないため、事業展開をする上で未解決な部分があり、難しさがあると丸山氏。例えば、富裕層旅行の場合は世界遺産などの文化的な施設や希少な場所を貸し切り、プライベートのコンサートやミュージアムといった特別な体験を提供することが多いが、それらはクローズドだからこそ価値があるため、商品のPRができない。べニュー等の提供者も露出を好まないので、「マーケティングの観点では非常にやりにくい」と丸山氏。これ以外にも、事業拡大の難題となる様々な障壁があるという。

ただし、丸山氏は同社のビジョン「100年先へ文化を継承する仕組みを作ること」を紹介し、人口減の日本が直面している危機にも言及。「人口減少は文化資産が減ること。文化を残すためには、外国人に支えていただく。新しい経済圏を作ることを使命に取り組んでいる」と話した。

目指すのは、文化的資産を活用したイノベーティブな体験価値の創造。体験価値を最大化することで、そこに共感するお客様の来訪を促す。その際、商品の値付けでは「価格を不当に下げることは文化を下げることに繋がる。50万円の値付けをしたら、その理由を作る。そしてその50万円を100万円にするためのマーケティングを打ち、価値を上げ続けていくことが大切」と考えている。

エクスペリサス 丸山智義 代表取締役社長

タビナカの現状と未来展望

最後のトークセッションでは、トラベルボイス代表取締役社長の鶴本浩司の進行のもと、ナビタイム藤澤氏、BOJ野口氏が登壇。

まずはトラベルボイス鶴本が、タビナカの注目が高まった背景と現状動向を整理。タビナカが隆盛する3つの要因として、スマートフォンの浸透とシェアリングエコノミーの台頭、SNSの影響を提示した上で、タビナカの販売事業者が世界大手ビアターのみならず、新興の香港発クルック(Klook)がグローバル展開をはじめ、米老舗のピークとグーグル(Google)が資本提携するなど、世界規模で動きが活発になっていることを説明した。

また、従来の旅行サービスと違うタビナカ独自の動きとして、プランを一括比較できる大手メタサーチの存在がないことも指摘。これに加え、エアービーアンドビー(Airbnb)の体験など個人のサービス提供者の台頭も、タビナカの変化として説明した。

トラベルボイス 鶴本浩司 代表取締役社長

これを踏まえ、BOJ野口氏はタビナカ商品の流通について、各OTAへの在庫管理の手間に言及。単価が安い上に直前キャンセルもあり、「タビナカの事業者が販売できる体制であっても、流通に載せたくないというのはそういう点だと思う」と、オンライン上の流通の課題を示した。同時に、同社では「旅行業登録をし、DMCとしてタビナカをツアーに組み込み、販売できるようにしている」と、事業拡大に向けた工夫を話した。

また、野口氏はコピーされない商品づくりのキモとして、人の繋がりの重要性を強調。「付加価値は、地元の協力を得るからこそできるもの。地域のキーマンに、我々のビジネスのパッションに賛同していただけるかどうかが大きい」と話した。

これに対し、トラベルボイス鶴本は「ストーリーやエンタメ要素はセンスが問われるところ」とし、地元キーマンとの関係の強い自治体やDMOなどが取り組めるものか、JNTOでインバウンド戦略部調査役を務めるナビタイム藤澤氏に質問すると、藤澤氏は自治体やDMOだけでは難しいとの考えを示し、「地方でネームバリューのある事業者が作る商品は売れると思う」とコラボを推奨。その根拠として、JNTOが紀伊国屋書店と行なった仮説検証事業の結果を紹介した。

同事業では、訪日旅行中に日本の本を購入する人は日本のマニアックなファンと見て、紀伊国屋書店が配信する周辺のディープな情報を見たら、その場所に行くのではないかという仮説を検証。すると「紀伊国屋書店の紹介だからこそ行く価値がある」と思った人が54%もあったという。

トークセッションの様子

このほか藤澤氏は、現行のタビナカ商品は日本人向けの設計で、訪日外国人の行動軸とのズレから機会損失が生じていることも指摘。例えばレンタカーを利用する外国人は、早朝から移動を開始するが、北海道では朝市くらいしかアクティビティがなく、満足に朝食を食べられる店もない。

そして、「タビナカは日中の観光が多いが、日中は移動も多く時間が限られる。地方ほど朝や夜などのアクティビティのニーズが高く、その時間ならではの体験ができることが滞在時間を伸ばす」と提案。「満足度を上げて現地の消費を促す。これがタビナカの考え方であり、未来にかかってくる」と訴えた。

また、BOJ野口氏は、今後の展望のなかで、現状以上のスマホシフトを予測。タビナカでの判断がますます流動化し、「買いたいときにタビナカ商品を買う時代になる。それを促すのはSNS。コンタクトポイントが増加する中、ダイレクトなデジタルマーケティングに注力するばもっと集客できるようになる」と期待を示した。

トラベルボイス鶴本は、「モノ消費、コト消費の次に来るのはトキ(時)消費。この時間、この瞬間に来店するニーズを捉えて開発をすることで、イールドを上げることができるのでは」と話し、議論をまとめた。