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2年ぶりの旅行テック国際会議「WiT JAPAN 2022」開催、日本のOTA各社の状況、タビナカからオンライン予約の動向を取材した

テクノロジー×旅行の国際会議「WiT JAPAN & North Asia 2022」が開催された。2年ぶりとなった今年のイベントは、東京会場と世界各地をオンラインでつなぎ、ハイブリッド形式で実施。自由な移動に制限がかかったこの2年間、日本、および北アジア地域のオンライン旅行分野では、何が起こっていたか。どこに活路を見出し、来るべき時への準備をしているか。マーケットの変化から各プレイヤーの事業状況までが議論された。

マーケットと消費者の変化、オンライン旅行の早い回復

コロナはアジア太平洋地域(APAC)のオンライン旅行に、どのような影響を与えたか。

ノーススタートラベル メディアシンガポールによると、世界の旅行市場はコロナ以前の2019年と比べ、2020年は6割減に落ち込んだ。2021年は少し回復傾向を見せたが、依然として5割減程度だ。これはオンライン予約に限っても、減少幅は若干小さくなるものの、同様の傾向。APACでも同様に2020年は全旅行市場、オンライン予約とも5割以上減少しているが、オンライン予約は2021年には2019年の6割強程度に戻り、早い回復を見せている。

同社グローバルトラベルテクノロジーグループのバイスプレジデントであるキンバリー・ニューベリー氏は、「APACではオンライン予約のシェアがさらに伸びる」と説明。旅行市場がコロナ以前の2019年の規模を超えるのは2024年になるとの見通しがされているが、オンライン予約は年平均27.5%増で推移し、全旅行市場の年平均25.5%増を上回るスピードで成長するとの予測を立てている。この推移の中で、APACのオンライン予約比率は2022年には米国(54%)を超え、2024年には58%に拡大する見込みだという。

APACの旅行市場推移。コロナ禍でオンライン予約が半数強にシェア拡大

では、このようなマーケットで、消費者にはどのような変化が生じているか。

グーグルのAPACトラベル&バーティカル・サーチのセクターリードであるハーマイオニー・ジョイ氏は、同社の消費者に関するデータから2021年に起こった変化として(1)ウェルネス・ウェルビーングを優先する思考のシフト、(2)人との関係構築の欲求、(3)さらなるデジタル化、を説明。イベントに参加する旅行事業者に、(1)ウェルネス・ウェルビーングの明確な提供、(2)個人の嗜好に即した顧客との有意義な関係構築と顧客体験、(3)ビジネスの中心にデジタルを据える、ことを提案した。特に(3)デジタルの影響について、人々が積極的にデジタルを日常に取り入れ、多くの決済がデジタル化することで、(1)(2)を含め、「消費者はデジタルを使って体験するようになる」と指摘した。

こうしたトレンドが旅行に与える影響としてジョイ氏は、旅行頻度は減少するが旅行期間は長期化し、一定期間、同じ場所に滞在する傾向が強まると分析。「アジア太平洋の消費者はターゲットを定め、目的地をより長く滞在して深堀する体験を求めている」という。これに対応するためには、(1)モニタリング、(2)デジタル対応の準備・投資、(3)コミュニケーション、の3つが重要だと指摘。特に(3)のコミュニケーションでは、「自社の差別化とメッセージを明確に打ち出し、インテリジェンスが反映されたコミュニケーションが大切」とアドバイスした。

消費者はより細かく計画をして旅行をするようになると指摘

日本のOTAの状況は?

WiT恒例の日本のOTAが勢ぞろいするセッションには、リクルート(じゃらん)、楽天、一休、JTBの4社が出演。まずはモデレーターの柴田啓氏(ベンチャーリパブリック CEO、WiT JAPAN & North Asia共同創設者)の質問に応じ、日本の国内宿泊における2021年のオンライン予約高の規模を、各登壇者が予測した。

すると、4者全員が2019年比で「60~70%」と予想。2020年比では「60~70%」と「80~100%」での2つに分かれた。オミクロンの影響が少なかった2021年12月に限ると、リクルートの宮田道生氏(ディビジョン・オフィサー)は「100~110%」、JTBの盛崎宏行氏(執行役員ツーリズム事業本部Web販売部長Web戦略担当)は「110~130%」(いずれも2019年同月比)と予想し、予約がかなり盛り返してきていたことがうかがえる。

また、各社への質問の中では、楽天の髙野芳行氏(執行役員コマースカンパニーヴァイスプレジデント・トラベル事業長)が、同社の国内宿泊の流通総額におけるマーケットシェアについて、予約泊数をベースに「20%以上」になったとの社内の推計を明かした。コロナ禍で、楽天グループはECと金融サービスが好調に推移したことで、「そこの顧客からトラベルに流れるエコシステムができているので、シェアが飛躍的に増えた」(髙野氏)。

現在、世界のオンライン旅行分野では、「トラベルフィンテック」を活用したカナダのホッパーの躍進が目覚ましいが、髙野氏もクレジットカードや銀行などを有する楽天グループとの連携で、フィンテックの活用を検討しているという。

このほか、GoToでの飛躍が記憶に新しい一休では2021年、UIとUXそしてパーソナライズドマーケティングに力を入れたことを説明。これまで、「エリアを細かく検索できていなかったが、他のサイトと同様にピンポイントで検索できるようにしたことが多かった。また、フリーワードでの検索に対し、ユーザーが気持ちよく利用できるような提案をできるようにした」(執行役員第二宿泊事業本部長の巻幡隆之介氏)など、ユーザーのニーズである検索への対応に注力したという。

日本のOTAセッションの様子

訪日にも通じる国内タビナカ、導線で磨き上げを

タビナカのセッションでは、世界的経営コンサルタントのカーニー日本法人会長で、政府の観光戦略実行推進会議をはじめ、観光庁や文化庁の委員として富裕層観光や文化観光の提言をしている梅澤高明氏も出演。日本のタビナカの長所・短所を話した。

良い点では、文化と自然それぞれにおける品ぞろえの多様性。一方で、短所は「販促が古い。素材はよいが、カスタマージャーニーがいけていない」と指摘した。「コンテンツにたどり着く導線が考えられているか。アクティビティの後の食事はどうか。良い体験ができてもそのあとに泊まる良質な施設がないと単価が上がらない。体験と施設はある程度セットで考える必要がある」と、導線を考える重要性を説明する。

同セッションに登壇した、ベルトラの二木渉氏(代表取締役社長兼CEO)とアソビューの山野智久氏(代表取締役CEO)も、梅澤氏の意見に同意。山野氏は今後、テック分野ではUX改善のため、生体認証技術の活用も検討しているという。一方、二木氏はタビナカにおける体験として「旅×食」の重要性も指摘。「日本の旅行は食べ物なしで思い出を語るのは難しい。しかし、旅のシーンで(既存の)飲食予約でよかったという感想を、私は見たことがない」と述べ、この分野にも進出していく考えを示した。梅澤氏も「日本はどこに行ってもそれなりのクオリティのものがある。一番単価が取れる部分」と太鼓判を押した。

タビナカセッションの様子

国内観光の開発が進む台湾

WiT JAPANでは日本のほか、韓国や台湾の旅行市場の現状をシェアするセッションも用意。国際往来が難しいコロナ禍だからこそ、海外の動向に注目したい。台湾のセッションでは、コロナの影響が少なかった市場の動きを興味深く聞くことができた。

台湾では感染を低水準に抑えたことで、域内の経済は盛況。Daniel Cheng氏(Founder and President, RTM Association)は、トラベルやライフスタイルの分野で、テクノロジーを使った新サービスが誕生したことを紹介し、「パンデミックは台湾に素晴らしい契機になった」と話す。

台湾では海外旅行から国内旅行へのシフトにあわせ、国内の観光コンテンツが拡充。例えば、パネルディスカッションに出演したCreative Tourism and Community Design Association in Taiwanでは、先住民などのコミュニティの歴史文化を尊重し、エコシステムを構築して、地域活性化につなげる取り組みを推進。台湾の人々は海外旅行が好きなことで知られているが、「海外旅行をするのと同じくらい、もしくはそれ以上の体験をできる国内の興味深いコンテンツを提供する。地域と旅行会社や観光客の橋渡しをして、サステナブルな形で推進する」(PresidentのGina Tsia氏)という。

また、台湾最大手のLion Travelではコロナ以降、観光資源の開発に投資を実施。その一環で、政府が所有するプロパティの運営を開始した。「政府は高品質な体験を作り出すような運営はしないが、我々はマーケティングをおこなう(のでそれができる)。Win×Winのシチュエーションになっている」(Head of Strategic InvestmentのRyan Seng氏)と話す。

台湾では市場経済の強さを背景に、観光の磨き上げが進んでいる。日本では、コロナ後に真っ先に訪れたい目的地に日本が選ばれていることが1つの光になっているが、周辺地域でも海外旅行の目の肥えた消費者に叶うような、観光振興が進んでいることを忘れてはならない。

台湾のセッションの様子