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大阪・関西万博がもたらす観光産業への好影響とは? 会場をめぐって、その効果を考えた【コラム】

こんにちは。永山久徳です。 

いよいよ、「大阪・関西万博」が開幕しました。早速、私も開幕直後の会場に足を運んでみました。海外への関心が薄れつつあった日本人が、再び世界に目を向け、次世代に向けて開かれた日本であり続けるための、大きなきっかけになるイベントであると感じました。もちろん今後のインバウンド、アウトバウンドを含めた、観光産業全般に与える好影響も期待できます。

万博を日本の未来にどう生かしていくべきか? オリンピックに並ぶ、人類の平和の祭典、世界最高の文化イベントである国際博覧会の本来の意義を振り返りつつ考えてみました。

万国博覧会の本来の意義

国際博覧会、いわゆる「万博」は、博覧会国際事務局により認定される国際的イベントで、テーマに基づいて世界中の国々が技術、文化、社会のビジョンを展示・発信する「人類の知の祭典」です。その始まりは、1851年のロンドン万博に遡り、「人類の活動の進歩」「将来の展望」などを示すため「公衆の教育」のために催すという理念のもと、時代とともに、その役割を広げてきました。

BIE(博覧会国際事務局)承認の「登録博覧会」が開催されるのは、5年に1回。日本では1970年の大阪万博、2005年の愛知万博に続く登録博として3回目の万博です。「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマのもと、日本開催の万博で最多となる約160の国・地域、国際機関が参加し、世界各国がそれぞれの課題・強み・価値観を提示する“対話の場”としてスタートしました。20年ぶりに、日本に世界中の文化が集まっているのです。

もちろん、国内企業やアーティストのパビリオンも魅力的ですが、万博本来の魅力はその名の通り「万国」が一堂に会することでしょう。

「世界を知る」場として

関西万博の最大の特徴は、史上最多の国・地域が参加し、我々に対して自国を紹介してくれる場であることです。世界の情報は、ネットで検索すれば済むという方であっても、例えばセントクリストファー・ネービスやサントメ・プリンシペ民主共和国、カーボベルデ共和国などの国を、理由なく調べるという方は少ないでしょう。

日本と縁遠く思える国であっても、実は、馴染みの食材で貿易があったり、日本人が一人も住んでいない国なのに、私たちが何となく知っている文化があったりするものです。昔、教科書で学んだ後、分割されたり名称が変更されている国があったりと、少し歩くだけでも新しい発見が怒涛のように押し寄せてきます。その意味では、各国がブース単位でまとまって出展している「コモンパビリオン」は、万博の意義を最も表しているともいえます。

写真:トラベルボイス編集部

世界各国が大きな予算を投じて建設された海外パビリオンも、どれも力が入っています。それらの展示は、単に、その国の観光案内や物産紹介ではありません。例えば、ベルギーは医学の領域で世界に貢献している国であること、イタリアは工業製品の特許を多数持っていること、ポーランドはスマホゲームの開発を多く手がけていることなど、知っておくべき知識が自然に頭に入ってきます。それが、リアルに訪れることによって得られるメリットでしょう。

その一方で、万博で見えるものは“光”だけではありません。例えば、台湾は国としてではなく、民間企業ブース「World Tech」として出展しています。イスラエル国とパレスチナ、セルビア共和国とコソボ共和国など、紛争中、または過去に関係悪化があった国・地域のパビリオンやブースは、配置に配慮がなされているようです。ジブチ共和国のパビリオンでは、現地の日常生活への理解が深まり、日本の自衛隊が拠点としている意味も伝わってきます。

ロシアが参加を辞退した一方で、ウクライナは出展しています。ブースでの政治アピールは禁止されているので、その展示物は日常的な生活用品でしたが、そこに付いたタグのバーコードを貸し出される端末で読み込むと、国内報道では見えないウクライナ国民のリアルな生活や願いが映像で流れる仕組みでした。

写真:トラベルボイス編集部

世界は決して平和ではなく、そういった影の部分も存在し、そのような中で万博が開催される意義、世界中の人たちを招くことのできる平和な日本に、あらためて感謝したくなります。

数日で世界をめぐるチャンス

外務省の発表によると、2024年末時点で有効なパスポートを持つ日本人は人口の16.8%。年間の発行数も20年前と比較して3割以上減っています。自由に旅行ができる先進国の中では著しく低い水準です。学生旅行や留学もこれに比例し、日本学生支援機構による調査でも日本人の海外留学はコロナ前と比べ半減しています。若者の海外体験が減ってしまうことは、その後の文化やビジネス交流にも悪い影響を与えることとなり、将来の日本にとっては大きなマイナスです。

万博は、海外に興味があっても行けない人に交流の機会を与え、海外に興味の無かった人にも世界への関心を呼び起こす、またとない機会です。それぞれの国が用意した、本場の料理を味わえるレストラン、現地から来日したアーティストや職人との交流、来場者が参加できるワークショップやライブパフォーマンスなどは、通常の物産展や観光案内ブース、もちろんインターネットでは決して味わうことのできないライブ感があります。海外ブースには基本的に現地のスタッフと通訳のできるスタッフが常駐しているので、現地語でのコミュニケーションを試みることもできます。

万博における海外パビリオンの工夫の数々は、単に情報提供ではなく、来場者に対する「私たちの国をもっと知ってほしい」というメッセージの集まりです。それに応え、来場者が他国の文化に心を開くことこそ、万博の本質的な価値なのです。これを私たちが国内旅行の予算で味わうことができる機会は、人生で何度もあるものではありません。

万博をきっかけに海外への関心が深まれば、海外旅行はもちろん、海外で学び、働くといった行動に繋がります。そうやって世界との交流機会が増えることは、今後の日本の経済や文化にも大きく貢献することになります。もちろん、今後のインバウンド受け入れでも、国民の理解が深まること、事業者の対応がアップデートされるなどの良い効果が生まれるはずです。55年前、海外に出るハードルが高かった日本人が、大阪万博をきっかけに異国の文化に触れ、憧れを持ったことで日本は大きく成長しました。再び、日本人が世界に興味を持ち、世界中でチャレンジできるようになるために、このチャンスを子どもたちや若者たちに1人でも多く味わって欲しいと願ってやみません。

永山久徳(ながやま ひさのり)

永山久徳(ながやま ひさのり)

ホテルセイリュウ監査役。全旅連青年部長、日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長など歴任。旅館業界の課題解決を数多く手がけ、テレビ出演、オンライン媒体での執筆多数。岡山県倉敷市出身、筑波大学大学院修了。