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国土の3.6%に3700万人が密集する日本、データが示す東京一極集中と、地方の「関係人口」という打ち手を考察した【図解】

1990年から2020年。この「失われた30年」に、日本の国土で何が起きていたのでしょうか。

地図作家Milos氏(@milosmakesmaps)が製作した「日本の人口変化地図」は、私たちが直視すべき「日本の人口ポートフォリオの再編」の実態を映し出しています。

緑色は「増加」、ピンク色は「減少」。

この一枚の地図と統計データから、ビジネスパーソンが読み解くべき「日本の生存戦略」を紐解いていきましょう。そこから見えてくるのは、国土の3.6%に3700万人が密集する日本、そして地方が取り組むべき、「関係人口」という打ち手です。

地図作家Milos氏(@milosmakesmaps)が製作した「日本の人口変化地図」

1. 3.6%の土地に3割の人口、「東京一極集中」というハイリスク・ハイリターン

まず注目すべきは、関東平野における「緑色の集積」です。

Miros Makes Maps氏制作の地図より一部抜粋

2020年の国勢調査によると、1都3県(東京圏)の人口は約3691万人に達しました。これは日本の総人口の約3割(29.3%)にあたります。

驚くべきは、この巨大な人口が、国土面積のわずか3.6%程度しかない関東平野に凝縮されているという事実です。

ビジネスの観点で見れば、これは極めて効率的な「集積の経済」と言えます。しかし、リスク管理(BCP)の観点で見れば、「すべての卵を一つのカゴに盛っている」状態に他なりません。

日本全体が人口減少フェーズにある中で、首都圏は依然として転入超過(2023年は約12.6万人の転入超過)を続けています。

このデータは、ここが全国から「若年労働力」というリソースを吸い上げ続ける巨大な「ブラックホール」であることを証明しています。

2. 地方中核都市のM&A、「ストロー現象」の実証データ

ピンク色(減少)の広がりの中に浮かぶ、札幌・仙台・福岡といった地方中核都市の「緑色」。

Miros Makes Maps氏制作の地図より一部抜粋

これを単純に「地方創生の成功例」と読み違えてはいけません。統計を見ると、ここで起きているのは「地域内における人的資本のM&A(吸収合併)」であることが分かります。

例えば、福岡市の人口は1995年から約28%も増加し、政令市トップの成長率を誇ります。

しかし、九州全体で見れば人口は減少傾向にあります。

新幹線や高速道路網の整備は、地理学でいう「ストロー現象」を加速させました。地方においても、薄く広く展開する支店経営から、拠点都市への「機能集約」へと、構造改革が進んでいるのです。

3. 「災害列島」におけるBCP、不可避な「撤退戦」

地図上のピンク色のエリア(減少地域)と、灰色(山岳・非居住区)の関係性も重要です。

日本の国土における可住地面積(人が住める平地)の割合は、わずか27.3%に過ぎません。残りの7割強は山地等が占めています。

Wikipedia「日本の地理」より引用

地図上でピンク色が濃いエリアは、半島部や中山間地域、すなわちインフラ維持コストが高く、災害リスクの高い「非可住地に近いエリア」と重なります。

2024年1月の能登半島地震が突きつけたように、広大な地域のインフラを維持するコストは限界に達しつつあります。

最新の国勢調査では、47都道府県中39道府県で人口が減少しました。

この地図が示唆しているのは、日本人が無意識のうちに進めている「国土の損切り(撤退戦)」です。

リスクの高いエリアから、安全で効率的な平野部へ。これは、日本は既に土地への愛着など受け継がれてきた価値観を変えてでも、災害列島で生き残るための合理的な「適応行動」をとらざるを得ない状況にあるとも言えます。

4. 移住ブームの幻想、数字で見る「ゼロサムゲーム」

では、ピンク色のエリアに勝ち筋はないのでしょうか。ここで陥りやすいのが、「移住促進(定住人口増)」というKPI設定です。

コロナ禍を経て「地方移住ブーム」と言われましたが、データを見ると現実はシビアです。

2023年、東京圏の転入超過数は再び10万人台へと回復しました。地方への移住者は存在するものの、東京という磁場に吸い寄せられる数十万人規模の流れを覆すほどの「量」には至っていません。

自治体間で限られたパイ(移住者)を奪い合うのは、「縮小市場でのシェア争い(ゼロサムゲーム)」に過ぎません。統計的に見て、移住だけで地方全体を「緑色」に戻すことは不可能なのです。

5. 「所有」から「アクセス」へ、関係人口というサブスクモデル

ビジネスにおいて「モノの所有」から「利用(サブスクリプション)」へとモデル転換が進んだように、地域との関わり方もアップデートが必要です。

それが「関係人口」という考え方です。

「定住(Stock)」というハードルの高いコンバージョンを目指すのではなく、二拠点居住やワーケーションを通じて、継続的に地域に関わる「フロー」を増やす。

地図上では「ピンク色(定住減)」のままでも、経済圏としての活力は維持できます。これこそが、人口データが示す現実的な「勝ち筋」と言えるでしょう。

ビジネス・インプリケーション

この地図が示す「構造変化」を、ビジネスはどう活かすべきか

この人口マップが示唆する、企業経営者が取るべき3つの戦略的視点を提示します。

1. マーケティング:「量」から「LTV(顧客生涯価値)」への転換

39道府県が縮小する市場において、「新規顧客数(人口)」をKPIにするビジネスモデルは限界を迎えています。

地方ビジネスにおいては、定住者数に依存しない、域外からの「関係人口」をファン化し、LTVを高めるサブスクリプション型モデルへの転換が急務です。

「住んでいないが、その土地の経済圏に属する」顧客層をいかに可視化し、囲い込むかが勝負となります。

2. 採用戦略:「東京一極集中」の逆張り採用

東京圏(緑色)での人材獲得競争は、レッドオーシャン化の一途をたどります。一方で、地方(ピンク色)には、働く場所がないために東京へ流出しようとしている優秀層が潜在しています。

フルリモートやサテライトオフィスを活用し、「地方に住み続けたい優秀層」を現地価格(あるいは東京水準)で採用することは、人材不足に対する極めて有効なアービトラージ(裁定取引)となります。

3. リスク管理:BCPとしての「多拠点化」

国土の3.6%に資産と人材の30%を集中させることは、経営上の最大のリスクです。

首都直下地震等のリスクヘッジとして、本社機能の一部を地方中核都市(札幌・福岡など)へ分散させることは、単なるCSR(企業の社会的責任)ではなく「事業継続のための必須投資」です。

地図上の「緑色の飛び地」は、バックアップオフィスの候補地マップという視点で捉えることもできます。

結論:GDPからQOLへ。評価軸の転換

この地図は、日本が「量(人口拡大)」を追求するフェーズを終え、「質(一人当たり生産性とQOL)」の追求へシフトしたことを示しています。

全ての集落を維持するのではなく、「小さな拠点」に機能を凝縮し、ネットワークでつなぐという戦略は有効です。

「東京一極集中」を嘆くのではなく、この歪なデータと構造を直視した上で、いかに効率的かつ幸福な「縮小ニッポン」をデザインするか。ビジネスリーダーたちに求められているのは、この地図が示す「不都合な真実」を直視した上での、希望のある決断なのではないでしょうか。

※引用・出典・クレジット:本記事で紹介したデータマップは、以下の作成者の使用許可のもと、一次情報に基づき筆者が解説を加えたものです。

※この解説コラム記事は、ニュースメディア「NewsPicks」に初出掲載されたもので、著者の承諾のもと、トラベルボイス編集部が編集・掲載しています。

※初出掲載記事ページ:【地図分析】国土の3.6%に3700万人が凝縮する国。データが突きつける「撤退戦」と「勝ち筋」(NewsPicks  2026年1月17日掲載)

瀧波 一誠(たきなみ いっせい)

瀧波 一誠(たきなみ いっせい)

一般社団法人 日本地域地理研究所 理事長 / World-Building Analyst(世界観分析家)。「地理とは生存戦略の記録である」を信条に、ビジネスや社会課題を地理学的視点から読み解く活動を展開。防災士。著書に『ゼロから学びなおす 知らないことだらけの日本地理』(WAVE出版)。