訪日インバウンド数が過去最高を更新する一方、「利益が出ない」「単価が伸びない」といった観光の現場からの声も多く聞かれる。訪日旅行市場に向け、地域資源を効果的にマネタイズするにはどうすればよいのか。
日本旅行業協会(JATA)が先ごろ開催した「JATA経営フォーラム2026」の基調講演では、旅行会社がアドベンチャートラベルを通じて地域資源の再定義や高付加価値化をおこない、収益性を高める手法について講演がおこなわれた。
アドベンチャーツーリズム(AT:アドベンチャートラベル)とは、「アクティビティ」「自然」「異文化体験」の3要素のうち、2つ以上で構成される旅行のこと。欧米を中心に時間をかけて楽しむ旅行スタイルが浸透しており、富裕層による参加が多いことから経済波及効果が見込まれている。
収益を生み、地域に還元することが核
基調講演に登壇した日本アドベンチャーツーリズム協議会のグローバルマーケティングディレクター高田健右氏は、約3万人の個人ガイドやツアーオペレーター、観光局などで構成される世界最大のアドベンチャーツーリズムの団体、ATTA(Adventure Travel Trade Association)のアンバサダーを務めている。アンバサダーは世界で46名、日本では3名が選出されている。その1人が高田氏だ。
高田氏は「ATTAの理念は、経済的価値を創造しながら自然と文化資源を保護し、デスティネーションに利益をもたらすこと」として「重要なのは自然を守るだけでなく、活用して得た利益を地域に還元すること」と強調した。
「高付加価値」は地域資源を再定義することが第一歩
高田氏は地域資源をマネタイズするには、「体験価値を付与しやすいATの手法が効果的」との考えだ。鍵となるのは「高付加価値」「少人数での体験」「深い体験」の3点。「高付加価値化は高コストを意味するのではない。今あるものを見直し、見せ方の角度を変えることで実現可能」と語った。
そして、ATを通じた地域資源の高付加価値化の、日本国内の具体的事例を挙げた。一つが、北海道・知床の流氷ダイビングだ。高田氏は、「流氷を見るだけでなく、流氷が浮かぶ海をダイビングするのはまさに土地の特色に根ざした唯一無二のユニークな体験。当然危険も伴うが、ガイドが同行することによる安全担保が価値を創り出す」と紹介した。もう一つの事例が長野県王滝村の滝行だ。「山岳信仰という文化的背景をガイドが伝えることで、単なる肉体的な体験ではなく、精神的な挑戦としての価値が高まる」と語った。
日本アドベンチャーツーリズム協議会のグローバルマーケティングディレクター高田健右氏
「続きを体験したい」、リピート訪問を促す仕組みを
次いで、地域資源をマネタイズする3つのポイントが挙げられた。
1つ目は「地域資源の再定義」。高田氏は「新しく何かを作るのではなく、日常の仕事、暮らし、自然、歴史といった既存の資源をストーリー、文脈、体験として捉え直すことが必要」との考えを示した。
2つ目は「高付加価値の設計方法」。重要な役割を果たすのがガイドであり「単なる通訳ではなく、文化や歴史の解釈者(インタープリター)と位置付けることが大事」。人数、時間、季節を絞り、希少性を生むことも必要として、参加者を1日10名に限定し、3時間で3万円の価格を設定した阿寒湖温泉の「光の森ウォーキング」の事例を紹介した。
3つ目に挙げたのが「持続的なビジネスモデルの構築」だ。高田氏は「1回の訪問で終わらせず、何度もリピートを促すための設計が不可欠」と述べ、具体例として全長600キロに及ぶヨルダン・トレイルや四国八十八ヶ所巡礼を挙げた。また旅行会社が地域の事業者と共に価値を育て、利益配分の透明性を確保することも重要と語った。
最後に提示されたのが「体験 × 魅せ方 = 価格」という関係式。「体験という素材はすでに地域にある。それを見せる編集力が重要であり、旅行会社が果たすべき役割は、単なる手配業にとどまらず、旅の『編集者』になること」という言葉で、講演を締めくくった。