オーストラリア政府観光局と各州・準州の観光局が、日本市場の回復状況と今後の誘客戦略を明らかにした。日本人訪問者数がコロナ禍前の水準に近づくなか、各観光局は航空座席の拡大、旅行会社との連携、地域への旅行者分散、高付加価値旅行の促進を重点課題に掲げる。
旅行者の情報収集や旅行計画に生成AIが使われる機会が増えていることを受け、AIや検索エンジンが観光情報を発見しやすいコンテンツへ移行する動きも進む。ウェルネス、自然、先住民文化、食、ワイン、スポーツイベントなど、地域固有の観光資源をどのように日本市場へ届けるかが共通のテーマになっている。
2026年5月にアデレードで開催された「ATE26」で聞いてきた。
オーストラリア政府観光局:日本市場はコロナ前の91%まで回復
オーストラリアへの日本からの訪問者数は、2026年3月時点でコロナ禍前の約91%まで回復した。直近の年間実績は前年同期比約9%増。オーストラリア政府観光局・総局長のロビン・マック氏は「ほぼ2桁の成長であり、非常に良い結果だ。日本には今後も大きな可能性がある」と語った。
中東情勢や燃料価格など市場環境の変化に対しては、消費者心理や航空座席数のデータを注視し、必要に応じて施策を調整する。一方、日本を重点市場とする方針は変えず、グローバルブランドキャンペーン「『グッデイ!』ではじめよう、オーストラリア」(英語では「Come and Say G’day」)を継続し、広告、旅行業界とのパートナーシップ、人材育成を進める。
日本市場の課題として挙げたのが、旅行の早期予約だ。オーストラリア人旅行者が早い段階で日本行きの航空座席を予約するため、日本発の旅行者が利用できる座席を確保しにくくなる場合があるという。日本局長のデレク・ベインズ氏は、旅行会社やホールセラーに対し、早期割引商品などの導入を働きかけていると説明した。
航空座席については、カンタス航空が羽田空港の発着枠に応じた輸送力の拡大を検討しているほか、ANAの成田/パース線が10月末から毎日運航に戻る予定だとした。ベインズ氏は「いくつかの輸送力拡大が予定されている。航空会社には、さらなる増便を働きかけていく」と話した。
旅行業界向けの教育では、日本国内の「オージー・スペシャリスト」有資格者が約3500人に達した。マック氏は「オーストラリアは国土が広く、旅行者にとって複雑に感じられることもある。旅行会社は旅行先を分かりやすく伝え、個々の旅行者に合わせて提案する重要な役割を持つ」と強調した。
オーストラリア政府観光局・総局長のロビン・マック氏
西オーストラリア州政府観光局:成田/パース線の毎日運航を日本市場回復の追い風に
西オーストラリア州への日本人旅行者はコロナ禍前の約90~92%まで回復した。州政府観光局日本局長の吉澤英樹氏は、2027年6月までの会計年度に日本人訪問者数約4万人を想定し、コロナ禍前の規模への回復を目指す考えを明らかにした。
回復の鍵となるのが、日本とパースを結ぶ直行便だ。ANAの成田/パース線が毎日運航に戻る予定で、年間を通じた直行便の効果を日本市場の拡大につなげる。吉澤氏は、航空会社と連携して日本市場向けの座席を確保することが「4万人に戻すためのカギになる」と説明した。
直行便の増便だけでなく、共同キャンペーン、メディア向け視察旅行、旅行会社向け研修旅行で利用できる座席の確保も重要になる。航空会社の機内誌などを活用できれば、パースと西オーストラリア州の認知拡大にもつながるとみている。
観光プロモーションでは、ブランドキャンペーン「Walking On A Dream」の次の段階として、地域の物語を伝える「ドリーマーズ」を日本市場でも展開する。
今後は、先住民が自然の変化をもとに一年を捉える「6つの季節」も活用し、季節ごとの旅行提案、旅行商品、メディア向け視察旅行につなげる方針だ。ワイルドフラワーなど既存の人気商品に加え、年間を通じて販売できる商品造成を促す。
クイーンズランド州政府観光局:ゴールドコーストの生活文化とケアンズの滞在長期化を訴求
クイーンズランド州は、クイーンズランド州政府観光局日本局長のポール・サマーズ氏、ゴールドコースト観光局マネージャーの小林芳美氏、ケアンズ観光局マネジャーの坂本サム氏が取材に応じた。
クイーンズランド州では、ゴールドコーストをビーチだけでなく、ウェルネス、カフェ、レストラン、ショッピングを楽しめる都市として発信する。トラムの延伸を見据え、バーレーヘッズやマイアミ地区のカフェ文化、スパ、バスハウスなどを日本市場に紹介する。
ゴールドコーストでは、ビーチで過ごすことに加え、自然の中で心身を整える体験や、トラムを使ってカフェや商業施設を巡る滞在スタイルを提案する。ビーチから離れつつある若い世代に対しても、食、買い物、ウェルネスを組み合わせることで新たな魅力を訴求する。
ケアンズでは、2025年の日本人訪問者数が約8万9000人と前年比17%減少した。一方、ホリデー客の平均滞在日数は5.1日から7.9日に伸び、法人旅行は5%増、学生旅行は18%増となった。旅行会社によるツアー比率も回復しており、研修旅行や現地事業者との交流を通じて、販売担当者の「ケアンズのファン」を増やす方針だ。
旅行者が利用するAIから観光情報を発見しやすくするため、ウェブサイトの情報構造を見直すプロジェクトも進める。
タスマニア州政府観光局:自然とウェルネスを軸にAI検索へ対応
タスマニア州政府観光局のディレクター、アン・グリーンツリー氏は、日本を今後の成長が期待される市場と位置づけた。日本人旅行者には、野生動物、自然景観、ハイキング、新鮮な食材などの人気が高いという。
グリーンツリー氏は「日本とタスマニアには、自然の中を歩き、楽しむ文化に共通点がある」と話した。ウェルネス分野では、冷水浴やサウナ、海辺で自然とつながる体験を拡充する。自然の中で日常から離れる旅行は、ラグジュアリー旅行や高付加価値旅行との親和性も高いとみている。
今後3年間の重点分野には、国際市場とAI・テクノロジーを掲げた。FAQなど簡潔で明確な情報を増やし、AIや検索システムがタスマニアの独自性を把握しやすいコンテンツを整備する。現在約14%の国際旅行者比率を20%まで高める考えだ。
ニュー・サウス・ウェールズ州観光局:日本人訪問者16万6000人
ニュー・サウス・ウェールズ州の2025年の日本人訪問者数は16万6000人、消費額は4億3400万豪ドル(約490億円)だった。日本市場では、オーストラリアの州別で最多になったという。
同州観光局のCEOカレン・ジョーンズ氏と日本局長の新堀治彦氏は、シドニーがオーストラリアへの主要な玄関口であることに加え、州内の観光商品や大型イベントが旅行者を引きつけていると説明。「2035年までに州の観光経済を910億豪ドル(約10兆3000億円)へ成長させる目標において、日本は重要な役割を担う」と述べた。
新たな西シドニー国際空港については、アジアを中心に航空会社との協議を進める。日本の航空会社とも新規路線の可能性を話し合っているが、現時点で具体的な就航決定はない。ラグビーワールドカップ、ウェルネス、MICEも日本市場の重点テーマとする。
ノーザンテリトリー政府観光局:ウルルから州内各地へ分散
ノーザンテリトリーでは、2025年末までの日本人訪問者数が17%増、旅行消費額が35%増となった。ホテルブランドの進出や、ラグジュアリーロッジ、ウォーキング商品などへの投資も相次いでいる。
日本人訪問者数は約1万4000人、消費額は約1800万豪ドル(約20億3400万円)で、平均滞在日数は7.6日だった。従来はウルルを目的とする旅行者が多かったが、現在はダーウィン、カカドゥ国立公園、アリススプリングスなどへの分散が進んでいる。
ノーザンテリトリー観光局CEOのスザンナ・ビショップ氏とCMOのステイシー・メルマン氏は、ノーザンテリトリーについて「アルゴリズムによって最適化された世界に対する解毒剤だ。息をのむ景観や星空が、旅行者をその瞬間に引き戻してくれる」と表現した。自然とのつながりや、日常の情報過多から離れる体験を訴求していく。
ビクトリア州政府観光局、日本人旅行者の消費額が大幅増
ビクトリア州を2025年に訪れた日本人は約8万4000人で、このうちレジャー目的は約6万4000人だった。訪問者数はコロナ禍前を約8%下回るものの、前年からは7%増となった。
日本市場の旅行消費額は約4億1500万豪ドル(約469億円)。訪問者数の市場順位が9位であるのに対し、消費額では5位となり、高い消費力を示している。レジャー客だけをみても消費額は前年比47%増となった。
ビクトリア州政府観光局・日本局長の高森健司氏は、訪問者数と消費額の双方が「順調に回復している」と説明した。2030年に向けて日本市場は年平均約4%で成長し、訪問者数は10万人近くに達するとの予測を示した。航空会社との共同キャンペーンや、旅行会社向け研修を通じて需要を取り込む。
南オーストラリア州政府観光局、消費額20%増、ラグビーW杯を誘客機会に
南オーストラリア州の2025年の日本人訪問者数は約1万人で、前年からほぼ横ばいとなった。一方、旅行消費額は20%増えた。州観光局は、個人旅行者や家族旅行者を中心に、質の高い宿泊施設、ワイン、食などを楽しむ高付加価値層が増えているとみている。
同州政府観光局では、今後は、オーストラリア政府観光局のオージー・スペシャリスト・プログラムや、東京で開かれる旅行業界向け商談会を活用する。現地を訪れた日本の旅行会社に対し、12~24カ月にわたり継続的に情報を提供し、商品造成につなげる。
またラグビーワールドカップでは、アデレードで日本代表戦も予定されており、日本でのチケット販売も好調だという。州観光局は「今後12カ月における日本市場最大の機会」と位置づけ、渡航者の誘致に加え、試合中継を通じた地域の認知向上にも取り組む。
※豪ドル円換算は1豪ドル113円でトラベルボイス編集部が算出
取材・文:鶴本浩司