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世界ホテル大手の成長軸は「客室数」から「1室あたりの稼ぐ力」へ、中東リスクを吸収した2026年上半期決算を分析【コラム】

本コラムでは、3カ月ごとに世界ホテル大手5社(マリオット、ヒルトン、IHG、アコー、ハイアット)の決算を定点観測しています。

今回は、2026年第2四半期(Q2)および上半期(H1)の横断分析をお届けします。

中東リスクを吸収する「地域 × ブランド」の分散力

パンデミック後の爆発的なリバウンド需要というボーナスステージが終わり、業界が平常運転に移行した現在、各社のQ2決算を直撃したのが中東の地政学リスクです。2026年2月下旬から激化した衝突は、各社の数値に容赦なく爪痕を残しました。

最大手のマリオットは、Q2の中東地域単体でRevPAR(販売可能な客室1室当たりの売上高)が前年同期比で43%減少しました。この影響が響き、北米以外のインターナショナル市場のRevPARも同0.5%減とマイナスに引きずられています。また、アコーでも、中東・UAEに展開が集中していたライフスタイル部門のQ2のRevPARが同11.3%減と大きく下振れしました。ハイアットも、中東情勢がグローバル全体のRevPAR成長率を約110ベーシスポイント(1.1%pt)押し下げる要因になったと公表しています。

ここで注目したいのは、こうした局所的な逆風を受けても、各社の全体業績が大きく崩れていない点です。

マリオットは北米市場が前年同期比5.0%増と再加速したことで、世界全体のQ2 RevPARを前年同期比3.4%増とプラスで着地させました。アコーも、中東エリアを除くライフスタイル部門のRevPARは同10.3%増と絶好調で、グループ全体の上半期RevPARも同2.2%増(中東除くと同4.6%増)を達成しています。ハイアットも、オールインクルーシブ事業では一部デスティネーションへの航空便減少などを背景にNet Package RevPAR(客室1室あたりのパッケージ純客室売上を示す指標)が同1.2%減となったものの、他地域・事業の成長で補い、全体のQ2 RevPARは同5.9%増と力強く伸びています。

背景にあるのが、特定の地域に依存しない「地域×ブランド」のグローバル分散です。そのうえで各社はいま、客室数の新陳代謝とフィー効率の最大化に力を移しつつあります。

「ただ部屋数を増やす」時代の終焉

世界大手のホテルチェーンは、商標ライセンスや運営管理に特化して手数料(フィー)を得るアセットライトモデルへの移行を着実に進めてきました。アコーが今回の上半期にエッセンディの保有株式売却で最終契約を締結し、「シンプルで明確かつ予測可能なアセットライトモデルへの変革を完成させる重要な節目」と位置づけたのは、その象徴的な一例と言えるでしょう。

各社が最も重視してきたのが、チェーン全体の規模を示す客室純増率でした。部屋数が増えればそれだけ手数料が積み上がるという思想のもと、競うように物件のオープンと契約を急いできたのです。

しかし、今回アコーが公表した決算データを見ると、競争の軸が単純な量の拡大から、客室1室あたりのフィー(手数料)効率へ移っていることが分かります。

アコーは2026年上半期(H1)に109ホテル、約1万4000室を開業し、純客室成長率(ネットシステム成長率)は3.2%となりました。同時に、ブランド基準を満たさない不採算ホテルをチャーン(契約解除)によってチェーンから離脱させています。ポイントは「1室あたりの想定手数料」です。

アコーによれば、新規開業ホテルが安定期(cruise speed)に達した際に生み出す1室あたりの想定年間手数料は約1700ユーロ(日本円で約27万円)であるのに対し、離脱(churned)したホテルの年間手数料は約900ユーロ(日本円で約14万円)に過ぎませんでした。

同じ1室でも、新しくポートフォリオに入る客室は、出ていく客室の約2倍の手数料をグループにもたらす計算です。低効率なエコノミー物件を整理する一方、単価の高いラグジュアリー&ライフスタイルセグメント(「エニスモア」などのライフスタイルブランド群)や、高収益な新世代のミッドスケール・プレミアム物件の比重を高めていることが数字から読み取れます。客室数を増やすだけでなく、1室あたりの収益性を高める方向へ、ポートフォリオの中身を変えているのです。

コンバージョン(ブランド転換)とマイクロターゲット(ニッチ)が主役

この質の向上と入れ替えを迅速に進める手段として、世界各社が力を入れているのがコンバージョン(既存ホテルのリブランド・ブランド転換)です。

新築ホテルの開発には、時間と高騰する建設コストが立ちふさがります。一方で、すでに稼働している独立系ホテルをリブランドするコンバージョン戦略であれば、数ヶ月の改装期間で自社の巨大なネットワークに組み込めます。

このコンバージョンを急速に拡大しているのがIHGホテルズ&リゾーツ(以下、IHG)です。同社の2026年上半期(H1)の決算資料によると、新規開業した客室数の43%がコンバージョンであり、新規契約では49%をコンバージョン案件が占めました。

いかに早くオーナーを自社プラットフォームに引き込むか。ブランドの選択肢(ポートフォリオ)の多さと、リブランドを可能にする柔軟な設計支援が、手数料収入を他社に先んじて取り込むうえで重要になっています。

さらに、コンバージョンによる拡大と並行して、各社は稼ぐ力(フィー効率)の多様化を狙い、細分化された需要に対応するマイクロターゲット(ニッチ)ブランドの創設にも力を入れています。その代表例が、ヒルトンが6月に発表し、Q2決算でも成長戦略の一つとして取り上げた新ライフスタイルブランド「アンダーグラデュエイト・バイ・ヒルトン」です。大学街の文化やコミュニティとのつながりをデザインに取り込みつつ、「グラデュエイト」より標準化・効率化した開発モデルを採用していきます。

同ブランドは、米国の大学・キャンパス周辺市場という、きわめて特異で、しかし確実な需要が存在するニッチ市場に特化したアッパーミドルスケールのライフスタイルブランドです。アメリカの著名な大学周辺では、卒業式や大学スポーツのリーグ戦、研究学会、OB会、親の訪問など、年間を通じて非常に底堅い宿泊需要が発生します。これらの地域はこれまで、大手ホテルチェーンが標準的なブランドをそのままあてはめるには市場の個性が強すぎ、独立系のブティックホテルが乱立するエリアでした。

ヒルトンはここに「アンダーグラデュエイト(Undergraduate by Hilton)」を投入しました。各大学の歴史やアイデンティティをデザインに落とし込み、これまで自社ブランドでは十分に取り込めていなかったニッチ需要を開拓する狙いです。ヒルトンはこのブランドについて、「長期的には400ホテル以上の成長ポテンシャルがある」としています。

かつてのような全員向けの画一的なメガブランドを大量に出店するモデルは、成長余地が限られつつあります。ホテルの開発競争では今、宿泊客がなぜそのホテルを選ぶのかをブランド側がどこまで具体的に定義できるかが重要になっています。

日本のデベロッパーへの示唆

世界大手の競争軸は、部屋数の拡大だけでなく、1室あたりのフィー(手数料)効率をどこまで高められるかへと移っています。

こうした構造変化は日本のホテル市場、デベロッパーやオーナーに何を意味するのでしょうか。アコーが実証したように、新規開業物件の1室あたり想定年間手数料が1700ユーロに達するのに対し、脱落物件が900ユーロに留まるという現実は、日本のホテル開発に携わる方々にとっても他人事ではありません。これから新しく建てる、あるいは既存ホテルを再生するにあたって、とりあえず無難なブランドを冠しておくだけでは十分とは言えません。グローバルチェーン自身が、単なる客室数ではなく、ブランドや立地、価格帯を含めた「1室あたりの稼ぐ力」を重視してポートフォリオを入れ替えているからです。

日本のデベロッパーや地方のオーナーがホテルをリブランド・新規開発する際、グローバルチェーンが提供する「ガーナー」や「ヴォコ」、「ルビー」といったコンバージョンに適したブランドの機動力に加え、ロイヤリティ会員ネットワーク(マリオットは約2.95億人、IHGは1.6億人超)による送客力も無視できません。人件費やエネルギーコストが上昇するなか、こうしたプラットフォームをどう活用するかは、日本のホテルオーナーにとって収益性を左右する重要な選択になります。

中東の地政学リスクをグローバルなポートフォリオで吸収する一方、低収益ホテルを入れ替え、「1室あたりの稼ぐ力」を高めていく世界のホテル大手。彼らの決算書から読み取りたいのは、四半期ごとのRevPARの増減だけではありません。どんなホテルを加え、どんなホテルを外し、ポートフォリオ全体の収益性をどう高めるのか。世界のホテル大手は、規模と同時に中身を競う段階に入っています。

山川清弘(やまかわ きよひろ)

山川清弘(やまかわ きよひろ)

東洋経済新報社編集委員。早稲田大学政治経済学部卒業。東洋経済で記者としてエンタテインメント、放送、銀行、旅行・ホテルなどを担当。「会社四季報」副編集長などを経て、現在は「株式ウイークリー」編集長。著書に「教養としての三菱・三井・住友」(飛鳥新社)、「ホテル御三家」(幻冬舎新書)など。