楽天トラベルの事業戦略、海外展開からシェアリングまで担当者に聞いてみた

「システム」「人材」「マーケティング」の相互利用の強化を目的に、楽天のトラベル事業部となった楽天トラベル。「クロスユース(併用率)」を向上させながらその規模を拡大する「楽天経済圏」において、トラベル事業はどのような展開をしていくのか。この数年の市場動向や業界環境に対する見解とともに、今後の方向性を事業戦略部部長の神山一彦氏に聞いた。

楽天経済圏の中での楽天トラベルの役割は?

グループの様々なサービスが作用しあう楽天経済圏において、楽天トラベルは楽天経済圏を大きくする上でのエンジンのひとつになっているという。

これは、Eコマースの一般的な成り立ちからも見て取れること。黎明期からインターネットとの親和性が強い旅行が扱われ、物販が拡大してきた。楽天においても、楽天トラベルとともに楽天市場が成長しており、神山氏は「これを日本で同時に行なってきたのは楽天であり、それを繋げているのが楽天スーパーポイントや楽天カード、その入り口でユーザーを取り込みやすいのが旅行サービス」とアピールする。

楽天がグループで力を入れる海外展開でも同様だ。物販に比べて旅行はフットワークの軽さがあり、「海外展開で高いシナジーをもって拡大していける」と見る。現在は多言語化を推進しており、先ごろにはタイ語のサイトをリリースしたところ。2016年中にはマルチリンガルサイトを整える。訪日旅行(インバウンド)が中心だが、早い段階で海外to海外(現地での国内旅行含む)の展開を進める方針だ。

ただし、その際には「グローバルIDの連携が必要。ポイントシステムは日本では機能しているが、海外ではこれから」と、グループ全体で対応を要するものもある。すでに楽天では、世界で普及するViberやVikiなどのメディアも買収しており、「デジタルコンテンツなどのコミュニケーションが浸透してユーザーが世界的にがっちり繋がった時には、ユーザーの楽天経済圏の使い勝手が上がり、離れられなくなる」と期待している。

なお、トラベル事業の海外展開でも、業務提携やM&Aなど幅広い可能性を視野に入れている。特にインバウンドでは現地の集客力を補うものとして積極的に考えていく意向だ。2013年に業務提携をした出張経費管理サービスのコンカーもその一つで、法人需要の拡大と同時に、コンカーの持つ全世界2000万人規模の顧客を訪日旅行で取り込む狙いがあったという。


▼市場動向と業界環境への認識、

シェアリングには参画するのか?

現在の国内契約施設数は2万9000軒。これは日本国内における一般的な宿泊施設をカバーする数だという。楽天トラベルが拡大したこの10数年の変化について神山氏は、旅行会社と宿泊施設のパワーシフトをあげる。以前は旅行会社主体で宿泊施設を販売していたが、楽天がプラットフォームを作り、そこで施設がマーケティングをしてユーザーを取り込んでいくことが、消費者にも受け入れられた。そういう意味で、「弊社を含めOTAが旅行や宿泊予約に対する根を広げたという自負心がある」と、市場を活性化した役割を強調する。

施設数を増やして成長してきたOTAに対し、最近のオンライン旅行ビジネスでは、掲載施設のセグメントをフォーカスしたり、掲載の仕方に特徴を持たせた宿泊予約のキュレーションサイトが増えてきた。この動きについては「施設数のボリュームを持つOTAが増えたからこそ発展したもの。ユーザーの使い分けが出てきた」と見る。

楽天でも高級旅館の特集などテーマ別のコーナーを設けているが、あくまでも「宿泊施設に対して、公平にリアルタイムでプラットフォームを提供し、販売機会を創出する」というミッションを貫く考え。細かなキュレーションはしない代わりに、マーケティングの中でさまざまな体験を提供し、対応していく。

Airbnbといったシェアリングエコノミーなどの新サービスに対しては、第1種旅行業である楽天トラベルのスタンスとして「旅行会社の範疇は超えない」(神山氏)と明言。しかし、そういう動きがある中で「インバウンドを倍増していく時に、現状にフィットしない部分は改正することも必要」との考えで、業法改正などの必要性も指摘した。

さらに、外資系OTAについても「日本での活動に対して日本の旅行業法がかかっていない」と指摘。「旅行会社として同じ土俵で戦えていない。このまま日本の旅行業界が弱くなっても良いのか」との問題意識も示す。


▼今後の展開

拡大施策に欠かせない対面営業の存在

0491今後のトラベル事業の展開では、まずは基盤である国内旅行の足元固めを最重要に取り組む。その次はインバウンド。2万9000施設の国内契約施設に対して、インバウンド受入可能な施設を増やすことが命題だ。そして最後に海外展開。中国・韓国との外交的な影響が続く中、新しいデスティネーションに取り組むタイミングにあるとも見ている。例えば、台湾はすでに物販のEコマースで先行しており、可能性が高いと見る。

ただしインバウンドでは、必要性を感じていても「英語が話せない」などを理由に踏み込めない施設も多いという。そこに楽天の強みとしてインターネット・トラベル・コンサルタント(ITC)の果たす役割がある。施設側の気持ちに沿いながら、楽天のプラットフォームで稼ぐための適正なアドバイスをしていく。これは海外展開時の施策としても重視しているという。

規模とバラエティを拡充する楽天経済圏において、楽天トラベルもさまざまな発展の可能性を有している。しかし神谷氏は「今後もコンセプトである“エンパワーメント”は変わらない」と強調する。「楽天のプラットフォームで宿泊施設が主役となってビジネスを展開していただく」、この関係性は今後も不変で、そのために必要なことはより一層、強化する方針だ。

聞き手:トラベルボイス・プロデューサー 山岡薫


文:山田紀子

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