民泊新法に向けた「最終報告書」をやさしく解説、観光庁の元担当官(弁護士)が3つの規制と新制度を整理  【コラム】

こんにちは。弁護士の谷口です。

観光庁と厚生労働省による「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」で、民泊に関する新たな制度についての最終報告書がとりまとめられました。

前回のコラムでは、現行制度を整理しましたが、今回は、この最終報告書で示された新制度の概要について、ご紹介したいと思います。

1. 本検討会の位置付け

本検討会は、2015年(平成27年)11月、観光立国の推進や地域活性化、さらに民泊サービスの安全性の確保といった観点から、民泊に関するルール整備に向けた検討を行うために立ち上げられ、これまでに13回にわたり検討会が開催されてまいりました。

政府内では、規制改革会議等、複数の会議体において並行して民泊が議論されてきましたが、その中で、本検討会は、旅館業法を所管する厚生労働省が、観光庁とともに共同事務局となり、学識経験者や弁護士の他、旅館業、不動産業等の業界団体等、民泊サービスと深く関連する様々の立場の方が有識者として参画の上、政府における検討の本丸として機能してきました。

本年3月以降、観光ビジョン(3月30日とりまとめ)、規制改革実施計画(6月2日閣議決定)等において、民泊サービスに関する政府の検討状況が整理されてきましたが、いずれも本検討会での議論を踏まえたものであるため、今回の最終報告書も、規制改革実施計画等と概ね同内容のものとなっております。

規制改革実施計画を読まれた方においては、あまり新しい情報はないかもしれませんが、政府による現時点での最新の検討状況を示すものとして、以下、最終報告書の詳細をご紹介したいと思います。

2. 新制度の基本的な考え方

最終報告書では、新制度における「民泊」を「住宅を活用した宿泊サービスの提供と位置付け、住宅を1日単位で利用者に利用させるもので、『一定の要件』の範囲内で、有償かつ反復継続するもの」と定義し、これを旅館業法とは異なる新たな法制度で整備するとしています(なお、所管行政庁は、国土交通省〔観光庁は国土交通省の外局に当たります。〕及び厚生労働省を検討)。

上記の民泊の定義によると、新制度では、旅館業法に基づくホテル、旅館、簡易宿所(以下「ホテル等」といいます。)と同様、「1日単位」で、有償かつ反復継続して施設を提供することを認めるもので、国家戦略特区の特例のような連泊要件(最低でも6泊7日以上)はありません。また、「住宅を活用」することが大前提となりますので、ホテル等が原則立地できない住居専用地域に立地する物件についても、原則として実施可能とする方向で検討が進められています

このように新制度では、民泊に、ホテル等と同様の施設提供行為(1泊2日から可能)を認めつつ、用途地域規制のような関連する規制において民泊を「住宅」と同様に取り扱うことで、旅館業の許可を取得しにくい物件であっても、適法に施設提供ができるようにすることが検討されています。

一方で、無条件に、ホテル等と同様の施設提供行為ができるということになれば、当該行為はまさしく旅館業であり、民泊について旅館業法の適用を除外する理由がなくなってしまいます(前回コラムでご説明したとおり、利用する施設が住宅であっても原則として旅館業法は適用され、利用施設が「住宅」であることそれ自体は、旅館業法の適用を除外する理由にはなりません。)。また、旅館業に当たるものを、住宅と同様に取り扱うこともできなくなってしまいます。

そこで、新制度では、民泊について旅館業法の適用を除外し、かつ、ホテル等とは異なる「住宅」として取り扱うため、「民泊」と「旅館業」との間に合理的な線引きを設けることとし、「一定の要件」を設けることが検討されてきました。この「一定の要件」について、最終報告書では、規制改革実施計画と同様、「年間提供日数上限による制限を設けることを基本として、半年未満(180日以下)の範囲内で適切な日数を設定すべき」と記載されるにとどまり、具体的な要件設定については、今後の課題として持ち越されることになりました

以下、最終報告書が提示する新制度の具体的な内容を説明します。新制度では、民泊を「

家主居住型(ホームステイ型)」と「

家主不在型」に区別した上で、「

住宅提供者」、「

管理者」、「

仲介事業者」それぞれに規制を設けることを検討しており、これらについて、順に説明いたします。

3. 家主居住型(ホームステイ型)に対する規制

「家主居住型」については、住宅提供者が、「住宅内に居住しながら(原則として住民票があること)、当該住宅の一部を利用者に利用させるもの」と定義され、これについては、後述の登録管理者を介在させることなく、民泊として住宅を利用することが可能とされています。

後述の家主不在型と異なり登録管理者の介在が不要とされるのは、居住者がいれば、利用者の滞在期間中も居住者による管理が可能であり、騒音、ゴミ出し等に関するトラブルが生じるリスクが低く、また利用者や近隣住民等からの苦情の申入先が明確であるためです。居住者による管理の可否が家主居住型と家主不在型を区別する根拠となっていますので、普段、住宅提供者が居住する住宅であっても、出張やバカンスにより不在とする期間中に民泊を実施するものについては、家主居住型には当たらず、家主不在型に当たると整理されています。

家主居住型については、住宅提供者が行政庁に「

届出」をすることで、民泊を開始できるとされています。

届出とは、書式等の形式上の要件が充足されている限りにおいて、申請が行政庁に到達した時点で、目的とする法的効果が生じる手続のことです。許可制や登録制の場合、行政庁が、施設の構造や営業者の属性といった実質的な要件を審査の上、許可や登録といった行政処分を講じることでようやく目的とする法的効果が得られることとなります。

新制度においても、後述するとおり、管理者や仲介事業者については、これらについて一定の適格性を有する者に限定する必要があることから登録制をとることとされています。他方で、住宅提供者については、特段、その資格を限定する必要性がなく、また、その数的規模が極めて多数にのぼることが予想されることや行政庁の組織体制を踏まえ、許可制、登録制のように、住宅提供者にとっても行政庁にとってもコストがかかる事前規制を極力排除することが望ましく、「届出制」とすることが検討されています。

もっとも、新制度では、民泊の実施にあたり当事者が遵守すべき義務を定め、同義務違反があった場合には、行政指導、行政処分、刑事罰の対象となり、事前審査はないものの、問題のある者を事後的に規制、取締りができるルールが検討されています。

住宅提供者に課される義務内容として、最終報告書では、利用者名簿の作成・備付け、住宅の見やすい場所への標識掲示、苦情への対応、最低限の衛生管理措置、無登録の仲介業者(プラットフォーマー)の利用の禁止、行政庁への情報提供義務等について、「規定すべき」とされています。

また、民泊に利用できる施設については、戸建や持ち家に限られておらず、共同住宅や借家の利用も可能とされていますが、これらの物件を家主居住型民泊として利用する場合には、住宅提供者において、マンション管理規約や賃貸借契約との適合性を確認する必要があるとされています。さらには、「一定の要件」に違反しないことも求められます。

なお、本検討会では、民泊の実施により、利用者や近隣住民に生じた損害を補償するための損害賠償責任保険をかけることを住宅提供者等に義務付けるべきとの意見も示されておりましたが、この点については、法令上の措置とはせず、ガイドラインによる保険加入に向けた行政指導を行うことについて検討するとされています。

4. 家主不在型に対する規制(管理者規制)

「家主不在型」について、最終報告書では特段の定義はありませんが、文字どおり、家主が居住しない住宅を民泊に利用する類型を指し、家主がまったく居住していない住宅に加え、出張やバカンスによる家主の不在期間中に住宅を貸し出すものについても、家主不在型と位置づけられています。

家主不在型民泊については、トラブル防止等の観点から、管理者に管理業務を委託することが求められます。これは、現在も事実上普及している、いわゆる民泊代行業者を正面から法制化したものと言えます。

そして、管理者は、管理業務を受託する住宅について、家主居住型民泊の場合に住宅提供者に課される義務内容を負担し、管理者がこれらの義務に違反した場合には、行政指導、行政処分、刑事罰の対象となります。

上述のとおり、管理者については、行政庁による「

登録」が必要とされています。現時点では、具体的にどのような登録要件が設定されるのかは未定ですが、最終報告書において、住宅提供者自らが管理者としての登録を受けて、その自宅を家主不在型民泊として提供することについて言及があることからすれば、法人に限定するものではなく、個人による登録も可能となる要件設定が検討されているものと思われます。

なお、家主不在型の場合でも、住宅提供者において行政庁に届出をする必要がありますが、管理者による手続代行も可能とすることを検討すべきとされています。

5. 仲介事業者規制について

家主居住型、不在型を問わず、インターネット等を通じて民泊サービスを仲介する事業者(プラットフォーマー)については、行政庁による「登録」が必要とされ、取引条件(代金額やキャンセル条件等)の表示義務や、行政庁に対する情報提供義務等を課すことが検討されています。

この仲介事業者に対する情報提供義務により、行政庁は、義務違反の疑いのある民泊について、その所在地等の情報や、当該サイトを通じた成約泊数等の情報の提供を求める(「一定の要件」として年間提供日数上限を設定する場合)ことで、民泊に利用される住宅(極めて多数に上ることが予想される)を個別的、網羅的に調査していかなくても、プラットフォーマーから必要な情報を効果的に取得することができます。そして、義務違反が確認された物件については、行政庁が、プラットフォーマーのサイトから削除する旨の命令を発することが検討されています。

このとおり、仲介事業者規制は、新制度に基づく取締りに当たって肝となりますので、かかる規制については、国内に拠点のない外国法人にも適用することが検討されています。もっとも、日本国の行政権限は領土内にしか及ばないことから、国内に拠点がない海外法人に対して立入検査を実行したり、業務停止命令等の命令を遵守させることは困難であり、海外法人による違反行為を抑止するための措置が課題となります。この点、最終報告書では、事業者の所在地にかかわらず国内で完結して行える、違反者の名称等の公表処分について検討されています。

6. おわりに

最終報告書では新制度の骨格が示されたに過ぎず、「一定の要件」の具体的内容や、管理者及び仲介事業者規制の登録要件、仲介事業者規制と旅行業法との関係整理等、各論的なテーマについては、具体的な制度の作りこみにあわせて検討されることとなりました。

規制改革実施計画では、本年度中(2017年3月末日まで)に民泊にかかる法案を提出することとされておりますので、政府では、上記スケジュールに向けて急ピッチで検討が進められることになると思われますが、大きな動きがあれば、また本コラムで取り扱いたいと思います。


谷口和寛(たにぐち かずひろ)

谷口和寛(たにぐち かずひろ)

弁護士法人御堂筋法律事務所 東京事務所所属弁護士。2014年5月から2016年4月まで任期付公務員として観光庁観光産業課の課長補佐として勤務。旅行業、宿泊業、民泊など観光産業の法務を担当し、「民泊サービスのあり方に関する検討会」の事務局、「イベント民泊ガイドライン」、「OTAガイドライン」、「障害者差別解消法ガイドライン(旅行業パートのみ)」、「受注型BtoB約款」の企画・立案を担当。2010年3月東京大学法科大学院卒業、2011年12月弁護士登録。

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