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宿泊施設は需要予測ができているのか? 日本のレベニュー・マネジメント普及を考えた

ホテルコンサルタントの堀口洋明です。

昨年も多くのホテル・旅館関係の方とお話しさせていただく機会があったのですが、そういった機会を通じて

「 レベニュー・マネジメントは国内では広く普及した 」と感じています。レベニュー・マネジメント(RM)とは、「需要予測を基に 販売を制限することで 収益の拡大を目指す 体系的な手法」です。

▼日本では広く普及したといわれているレベニュー・マネジメント

レベニュー・マネジメント(RM)が日本国内に入ってきてから既に15年以上経っているかと思います。インターナショナルホテルチェーンから導入が進んだRMも、そこで学んだ方から徐々に広がっていったようです。

当初は「 RM?それなに? 」という感触だったものが、徐々に「 RMっていう増収に役立つものがあるのだってね 」と変わり、最近では「 RM?やってるやってる! 」という具合です。実際に多くのホテルでレベニュー・マネージャーの肩書を持つ方とお会いするようになりました。

ところで日本国内でRMを習得するには概ね以下の方法が考えられます。

  1. インターナショナルホテルチェーンのトレーニングプログラム
  2.  コンサルタントによるRM導入
  3.  独学
  4. 上記を経て導入した後のホテル内トレーニング

最も内容が充実しているのはインターナショナルチェーンのトレーニングプログラムでしょう。「RMアカデミー」といった名称で、主にアジア圏のチェーンホテルから条件を満たしたRM候補を集めて研修するという完成度の高い教育プログラムがあるようです。

RMの導入支援ができるコンサルタントには、その会社のRMシステム導入を前提としたところと、システムに依存せずにエクセルなどを用いてRMトレーニングを行うところがあります。

独学で学んだ方は、コンサルタントなどが実施したRMに関するセミナーやWEBなどから情報を得て、試行錯誤しながら形を作ったという方が多いようです。そういう意味では、RMを知る機会は確実に増えており、導入のハードルは大きく下がっていると言えます。

また、2014年は多くの国内のホテル・旅館にとって訪日外国人客の増加による高需要の年となりました。それまでの稼働率重視の戦略から、高需要を背景とした客室平均単価重視の戦略をとるホテル・旅館が増えたこともRMの普及を後押ししたのではないかと思います。

※ RMの効果は主に単価上昇となって表れやすい

▼国内宿泊産業のRMのレベルはまだまだ低い

しかし以前にもお話させていただいたことがありますが、ワールドワイドで活躍する方から見ると、日本国内の宿泊産業のRMのレベルは、残念ながらまだまだ低いようなのです。

実際に私もあるインターナショナルホテルチェーンのアジアエリアのレベニュー・マネージャーから「日本は韓国や中国よりもRMのレベルが低い」と言われたことがあります。

例えばRMでは正確な予測を行うために、Reservation Status(予約区分)を重要視しています。予約を主にキャンセルのリスクに応じて区分するものですが、国内で団体に不十分な区分がみられる程度です。

さらに海外では個人予約についても予約区分を設けています。ホテル・旅館側のRMの理解度が低い為か、国産PMSではこのReservation Statusを管理できない状態となっています。

また、販売調整についても「価格の変動」が大きく取り上げられていますが、実際には様々な方法を取ることができます。

例えばMinimum Length of Stay(最低泊数)の制限は、高需要日の前後の稼働率低下を予防する方法なのですが、国内ではあまり実施しているホテルは少ないようです。高需要日に価格のみに注目して販売調整を行うと、出張などの連泊需要を取りこぼしてしまいますので、結果としては月全体の収益が伸びにくくなってしまいます。

上記2つの事例からもわかるように、国内では体系的なRMが十分に普及しているとは言いがたい状況なのです。

▼これからはレベルアップを目指そう

とはいえ、RMの「需要を基に販売を調整する」という考え方を基に試行錯誤されているホテル・旅館の中には、大きな成果を収めているケースもありますので、一概にレベルが低いからダメ、ではなく「さらに伸ばす余地がある」と考えたほうが良いのではないでしょうか。

RMは「需要予測を基に販売を制限することで収益の拡大を図る体系的な手法」のことです。次の質問に答えられない場合は、「RMを体系的に理解できていない=レベルアップの機会がある」と考えてよいでしょう。

【需要予測編】

【販売調整編】

さて、皆さんのホテル・旅館ではさらにRMをレベルアップさせることができそうでしょうか?この機会にぜひご確認ください。

【解説編】

**予約経路(例:需要が高い予測の場合は手数料が高い予約経路を絞る)
**マーケットセグメント(例:需要が高い予測の場合は団体予約を受注しない
**Minimum Length of Stay(最低泊数)

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

ホテルコンサルタント。長崎大学卒業後、国内のリゾートホテル、シティホテル、ファンド系ホテルチェーン本部勤務を経て2007年に株式会社亜欧堂を設立。国内系・外資系、シティホテル・ビジネスホテル・リゾートホテルといったホテルの業態を問わない経験を持ち、「ホテルマネジメントをサポートする」をコンセプトに、国内ホテルを中心にコンサルティングを提供中。著書に「ホテルの売上倍増実践テクニック100(オータパブリケイションズ)」など。