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トラベルボイス座談会、「観光×IT」有識者6人が今年のオンライン旅行を振り返る

2015年も活発な動きが見られたオンライン旅行市場。2016年もこの傾向は続き、さらにダイナミックにマーケットは動くと予想される。トラベルボイスでは、「インターネット」と「観光」に携わる6社からキーパーソンを招き座談会を実施。2015年を振り返ってもらった。

参加者(順不同):

進行:トラベルボイス編集部 山岡薫

*以下、敬称略

変化に対応しながらダイナミックに事業展開をした各社の2015年

山岡 まず2015年を振り返っていただき、この一年がどのような年であったか。新しいトピックスなどを含めて教えて下さい。

香川(以下、敬称略) グーグルの2015年旅行業界関連の検索キーワードから見る傾向は、「モバイルシフト」「インバウンド」「国内旅行の多様化」ですね。日本だけでなく世界でモバイル検索が増えている。訪日外国人旅行者の急増にあわせて、日本関連の検索も増加しています。世界の旅行関係検索の伸び率が前年比11%だったのに対し、日本関連は同30%になっており、日本への関心の高さが伺える一年でした。

また、海外旅行市場の低迷が検索動向にも表れており、検索の成長率は、国内旅行の方が海外旅行を上回った。そのなかでも、旅行の多様化が進んでますね。特に2015年後半には、体験や民泊など旅行の充実を求める傾向が検索からも垣間見られました。

木村 2015年の特長は、FIT層の増加とその層のニーズの多様化ですね。これまでは海外の主要な都市が売れていましたけど、安近短の一歩先に行きたいニーズが増えている。データを見ても、たとえばベトナムのダナン、台湾の高雄などが2倍から2.5倍の売上増になっています。この傾向をふまえて、エクスペディアでは「安深短」という新しい言葉を作ったくらいです。宿泊で言うと、スタンダードなホテルというよりもB&Bやコンドミニアムのような現地での体験を求めるFIT層が増えているのも特長です。

また、モバイルからのトラフィックが増えているところも大きな変化ですね。すでに5割から6割のトラフィックがモバイル経由になっており、PCからのシフトが進んでいます。

インバウンドについては、2015年は東京と大阪に加えて、福岡(9月)、名古屋(10月)にも支社をオープンしました。アジア、特に香港と韓国からの予約が増えています。おもしろいのは、欧米人とは好みは明らかに違うこと。欧米人は六本木、赤坂、銀座などが人気で、日本の伝統文化に関心が高いですが、アジア人は池袋や浅草が多く、ショッピングやグルメが観光の中心になっているようです。

西田 Yahoo! トラベルとしては、自前での契約の開始やダイナテックの買収など大きな出来事があったいい年でした。Yahoo! Japanとして、トラベルに力を入れた一年といえますね。

西村 ベンチャーリパブリックとしても2015年はダイナミックに動いた年。旅行コンテンツ「トラベルjp たびねす」を展開していますが、400名以上のクオリティーの高いブロガーが集まり、記事数も1万以上に成長、かなりのトラフィックになっています。2016年はマネタイズの実現に移っていきたい。特長的な傾向としては、スマートフォンからの流入が増え、コンテンツによっては7割に迫る勢いになっていることですね。

また、海外展開も開始し、シンガポールではガイドコンテンツサイトを8月にソフトオープン、韓国では、ホテル・メタサーチのアプリの提供を始めました。

松濤 エボラブルアジアについて言うと、オンライン旅行事業では、スカイマークとLCC4社の取り扱いを始めて、年間の取扱高も200億円を突破しました。また、航空券サービスを多言語展開、アジアからの訪日旅行事業にも参入しました。今後ますます伸びていくと期待しています。

ITオフショア開発事業では、ベトナム人500名のITエンジニアを擁し、エンジニアリソースをIT企業に個別に提供しており、この分野では東南アジアにおける日系オフショア開発会社の中で最大手の企業となっています。

山口 エストニアへの日本人旅行者数は、ヨーロッパ市場が苦戦する中で2015年は35%以上の伸びを残しています。エストニアはスカイプ発祥の国であり、マイナンバーについても15年ほどの経験がある国。IDを活用したプラットフォームで社会を変えているエストニアの成功例を踏まえ、旅行を含めた各分野でデータの利用法について政官財の方々と意見交換させてもらっています。

マイナンバーカードのようなIDを、日本のような1億3000万人の超大国で無償配布することは、実は壮大な実験で、成功した事例はないんです。これが成功した時に何が起こるのか。それは、エストニアの事例から見ることができるかもしれません。

インバウンド拡大が "確信" に変わった2015年 ―外資系OTAが存在感を増す

山岡 毎年オンライン旅行市場はダイナミックに変化を続けていますが、2015年の変化の特長としてはどのようなことが挙げられますか。

松濤 訪日市場が拡大するということが確信に変わった年だったと思いますね。2014年までは増加する事実はありましたが、それが確実にそうなると。

西村 ただ、ドン・キホーテやラオックスなどの企業は儲かっていますが、日系のOTAで利益を挙げているところは少ないのではないかと感じるんですが、どうなんでしょう?

香川 日系のOTAでも、多言語化などの対策ができているところは、売上を伸ばしているし、利益率も高いと聞いています。

西田 一方で、エクスペディアなど外資のプレイヤーが日本に根づいた年でもあったという印象があります。

香川 今後、日本の宿泊予約に占める外国人の割合がさらに増えた時に、外国人向け販売に強い外資が在庫を抑えていることになると、競争環境はかなり変化するのではないかという話が旅行業界から出ています。

山岡 現在の状況は "日本ブーム" なのでしょうか。それとも安定的に訪日市場は伸びていくのでしょうか。

山口 現状では、日本の魅力がうまく発信できていることと、他国の経済状況がいいことが大きいでしょうね。でも、これが果たしていつまで続くのかは注視していく必要があると思っています。このままのペースで訪日市場への投資を続けていいものかどうか。もっと現実的な視点を持つことも必要かなと思いますね。

木村 為替の影響も大きいと思いますよ。日本の視点では、2020年のオリンピックがひとつの目安になっていますが、海外の人たちにとっては、あまり関係ない。大きな要因は円安ですよね。そこにズレを感じることがあります。

西村 為替については、米連邦準備理事会(FRB)の利上げの幅とタイミングが重要になってくるんじゃないですか。日銀の対応も含めて。

木村 エクスペディアのグローバルな視点でいうと、円安と同時に地方へのLCCネットワークの拡大が進んだここ数年は、日本での仕入れに注力する姿勢を出しています。おそらく、長期的にもそうなると思います。

香川 これまで観光デスティネーションとしての日本の地位が低すぎましたよね。本来あるべき姿になりつつあるんじゃないでしょうか。個人的には、2000万、3000万人あたりまでは非現実的な数字ではないと思いますね。

松濤 まだ外国人が訪れている地域は限定的なのが現状でしょう。これが日本全国に波及していくといいんですが。

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グーグルの日本関連検索から見えてくるものとは?

山岡 訪日外国人旅行者が急増しているわけですが、グーグルが最近、2015年の日本に関する検索結果を発表しましたね。

香川 日本に関連する英語での検索キーワードでは、5つの分野のうち最も検索ボリュームが大きいのは「食」ですが、増加率でいうと、「観光」関連のキーワードが一番高くなりました。

地名の検索については、東京、銀座、広島、大阪、京都がトップ5。なかでも銀座の伸び率が217%と急増しました。これは、中華圏の旅行者の爆買いの影響が見られると思います。観光地・イベントについては、富士山が2014年に続いて1位。続いて、東京ディスニーランド、東京タワー、東京スカイツリー、鎌倉。成長率では大阪人気も手伝って、2014年に引き続きUSJが前年比93%増となり、嵐山も同102%増となっています。

地名では埼玉が上位に入っていますが、おそらく東京でホテルが見つからない場合に、埼玉で探す観光客もいることが反映していると思われます。

そのほか、急上昇したインバウンドキーワード検索では、宿泊施設の名前など宿泊関連が約50%を占めたほか、東京以外の検索も増えたという結果になりました。

木村 新宿が上位に入っていないのが意外です。エクスペディアでは国籍問わず、カプセルホテルからシティーホテルまでさまざまなホテルが集まっている新宿の人気は高いんです。ただ、日本人と外国人が使う検索キーワードは違いますよね。日本人の検索は、たとえば駅名など細かいキーワードを入力する傾向がありますけど、外国人はもう少し一般的なキーワードを使う。しかし、その傾向もどんどん変化しているのが現状で、テクノロジーがその変化に追いついていない面もあると思います。

松濤 この結果からすると、現時点で、訪日市場でオンライン旅行業がマネタイズできるのは宿泊中心ということになりますか。

山口 宿泊に関する検索が増えているというのは、リピート率が高くなってきたのかと感じますね。ファストタイマーはまず「行き方」から検索する傾向がある。宿泊が増えているということは、FIT化が進み、宿泊施設をまず調べているということでは。

木村 香港では、訪日経験のある10%の香港人が10回以上日本に来ているようです。驚きですよね。それから、リピーターのなかには旅館に泊まりたいという需要も高くなってきているようです。

香川 グーグルの検索でも「Ryokan」というキーワードは伸びていますね。「Ryokan Kyoto」というふうに。徐々に「Ryokan」という日本独自の宿泊スタイルの認知度も上がっているようです。

西田 訪日市場では外資系OTAの伸びに注目が集まっていますけど、個人的にはJTBやHISなど既存の旅行会社も強くなった気がするんです。在庫、海外支店、ツアー造成力など、単品で売っているOTAにはできないことができるから、インバウントで存在感が増しているんじゃないでしょうか。

西村 JTBはリアルとオンラインを繋げて予約に結びつけるオムニチャンネルを展開していますよね。それも既存旅行会社ががんばっているひとつの例でしょうね。

山口 OTAと既存の旅行会社とでは、これからどんどん棲み分けが進むような気がしています。個人的には、既存の旅行会社が生き残る理由のひとつは添乗員さんだと思っているんです。売る現場ではなく、アウトでもインでも添乗員さんにもっと投資をしていったほうがいいと思うんですけど。顧客の囲い込みという視点からも。

山岡 リアルとオンラインとの関係は今後も目が離せませんね。それぞれの企業が、その特徴を時代にあわせていくことで生まれる新たな形があるのかもしれません。

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2015年の振り返りは、ここまで。「観光×IT」の有識者6名の発言には、今後のオンライン旅行事業や日本の観光を展望するヒントが詰まっている。次回の記事では、こうした2015年を踏まえ、2016年を展望する話題を紹介する。

トラベルボイス編集部