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旅行料金比較の世界大手「スカイスキャナー」の日本戦略を聞いてきた - ヤフーと合弁会社を作った経緯から拡大するBtoB事業まで

航空券・ホテル・レンタカーの横断比較サイト(メタサーチ)「スカイスキャナー」がヤフー・ジャパンとの合弁会社「スカイスキャナー・ジャパン」を設立して1年になる。メタサーチの巨人がシンガポール拠点の日本チーム体制から、日本法人を設立に舵を切った背景とは――?

このほど来日したスカイスキャナーB2B事業「スカイスキャナーforビジネス」のディレクター、フィリップ・フィリポフ氏と、絹田義也スカイスキャナー・ジャパン最高経営責任者(CEO)に、日本での事業展開について聞いた。

フライト検索の対象範囲は「ライバルの誰よりも広い」

2003年のスコットランド創業時からの看板商品である航空券の比較検索(メタサーチ)は、今や全世界での月間ビジター数5000万人を誇る。メタサーチ機能を提供するライバルも増えているが、フィリポフ氏は競合他社と比較して「航空券の選択肢が幅広いこと」、「膨大なデータを一括検索できるテクノロジー」の2点の優位性があることを強調する。

「スカイスキャナーforビジネス」のディレクター、フィリップ・フィリポフ氏

「現在、フライト検索対象となっているパートナーは航空会社、旅行会社、OTAなど1200社以上。これは競合他社と比べて最大のカバー範囲だ」(フィリポフ氏)。この中には、GDSでは取り扱いがない格安航空会社や、日本の都市発ではなく、海外都市から海外都市への路線なども含まれており、最安値のルートや日程を、数秒で叩き出して見せる。全世界の従業員770人強のうち、半数以上が技術スタッフというのも大きな強みだ。

日本市場での現在の目標は、「まずスカイスキャナーというブランド認知度の向上。同時に、日本人ユーザーにとって違和感のない使い勝手を実現し、リピーターを獲得すること」(絹田義也スカイスキャナー・ジャパンCEO)。

膨大な検索データの海の中では、探したい情報に辿り着く前に、泳ぎ疲れてしまうリスクもあるため、日本のユーザーを意識したローカライズが不可欠と指摘する。「目下、日本人にとってナチュラルでない検索結果が出てしまうところを順次、修正しているところ。細かい部分だが、リピート率向上にも不可欠だ」(絹田氏)。

日本法人を設立した2015年の日本人ユーザー数は、前年比62%増。またヤフー・ジャパンに提供している「航空券検索」の利用者数は、当初5カ月で300万人を突破した。絹田氏は「コアな旅行者層の間で、フライトの種類の豊富さ、それを一括で検索できる便利さが口コミで広がっている手応えがある」。さらに一般的な認知度を上げていくことで、利用者の増加をさらに加速し、リピーター率も高く維持したい考えだ。


日本進出には強力なパートナーが不可欠だった

スカイスキャナー本社は、日本市場をどのように捉えているのか。フィリポフ氏は「旅行市場の規模は、米国、中国に次いで大きく、アウトバウンドもインバウンドも期待できる。一方で、利用者のニーズは独特で、よく理解する必要がある。我々スカイスキャナーは技術者が多く、テクノロジーには圧倒的な自信があるが、日本のネット利用者全般について熟知している強力なパートナーが必要だった」と、シンガポールを拠点に日本市場も見ていく体制から、ヤフー・ジャパンとの合弁会社設立へと舵を切った経緯を振り返る。

航空の分野では、すでに優位性があるスカイスキャナー社だが、グローバルでの課題は、ホテル取り扱いの強化。絹田氏は、日本でもヤフー・ジャパンのグループ各社も含め、「主要なホテル取り扱いサプライヤーと連携していきたい。メタサーチを提供する立場なので、ホテルについても、中立性を保つことと、利用者の使い勝手に留意しつつ、品揃えの拡充を進める」としている。


検索データ活用で、航空需要の「今」が見える

スカイスキャナー・ジャパンCEO 絹田義也氏

「航空券取扱の利幅は薄い、とよく言われるが、本当に薄い」と認めるフィリポフ氏。一方で、スカイスキャナーの成長を支えている強力な武器ともなるのが航空分野のビッグデータだ。現在、スカイスキャナーが扱うフライト検索件数は、全世界で月間2億件。「この圧倒的な規模が、成長の原動力。検索データを解析することで、消費トレンドや需要がどこにあるのかが把握できるからだ」とフィリポフ氏は話す。

「2つの活用方法がある。自社内で、ユーザーを理解し、新しい商品開発や、マーケティングの最適化に役立てている。もう一つは、当社のパートナーである航空会社、旅行会社、空港運営会社などに役立ててもらうこと」(フィリポフ氏)。顧客とのビジネス関係や、必要としているデータにもよるが、航空会社や空港向けには、ある程度、パッケージ化した商品もすでに用意している。

これまでに、欧州ではダブリン空港やエディンバラ空港、スコットランド観光局、スペイン・ポルトガルの空港運営会社、ブリティッシュ・エアウェイズ、イベリア航空、そのほかアジアや欧州のローカル航空会社などが、同社のビッグデータ解析サービスを利用してきた。

「実際に航空会社向けにあった事例を紹介すると、北京/コペンハーゲンのフライト検索数が、年間12万件あったとする。直行便がない路線なので、同ルートの乗り継ぎ便の利便性をアップすれば、利用客が増えるのではないか、といった分析や提案につながっていく」(フィリポフ氏)。


音声やチャット機能によるフライト検索も実用化

スカイスキャナーのグローバルでのB2B事業は、ほかにも幅広い。中小の旅行会社が多数を占める欧米市場では、スカイスキャナーが大小の旅行サイト向けに、APIやカスタマイズ可能なホワイトレーベルを提供している。

注目が集まるAIの分野でも、音声やメッセンジャー機能によるフライト検索をいち早く実用化。今春、米国市場向けに、アマゾンの音声サービス“アレクサ”に対応した世界初の音声によるフライト検索サービスが登場したほか、今年5月26日から、フェイスブックでも、同社のメッセンジャー機能を使った“フェイスブック・メッセンジャー・ボット”でのフライト検索サービスが利用可能だ(英語版のみ)。

こうした様々なB2B事業の取り扱い規模は、「2年半ほど前と比較して、30倍に拡大。航空券、ホテル、レンタカーと並び、大きく成長を続けている」(フィリポフ氏)。

絹田氏は「日本の旅行関係各社にも、スカイスキャナーの技術力に裏打ちされた、幅広いプロダクトを知ってもらいたい。日本の旅行業界全体が盛り上がるためのテクノロジー提供が我々の役割」と抱負を語った。

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫

記事: 谷山明子