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独立系ホテルの直販予約サポートの世界大手「ファストブッキング」、その強みを経営トップに聞いた

OTAやメタサーチなどが入れ乱れ、ますます複雑化するホテルのオンライン流通。そのなかで、ホテルの直接予約をサポートする「ファストブッキング(FASTBOOKING)」が存在感を高めている。

2000年にフランスで誕生した同社は、欧州とアジアでビジネスを拡大。日本でも2010年にオフィスを構え、独立系ホテルを中心にバックオフィス・ソリューションを提供している。同社が提供するサービスの強み、日本市場での取り組み、アコーによる買収などについて、WIT Japan 2016に参加した共同最高経営責任者のジャン=リュック・クレティン氏に聞いてみた。

ビジネスの柱は予約エンジンとオンラインマーケテイング

ファストブッキングのソリューションは大きく分けて2つ。ひとつは、主に独立系ホテルの自社サイトでの直接販売をサポートする予約エンジン。「複雑化するオンライン流通で、ホテルの収益性を最大化する手助けをしている」とクレティン氏は説明する。

現在提供している「ATTRACTION」はシンプルで効率的な次世代予約エンジンとして、ホテルのバックオフィス機能の強化に貢献していると自信を示す。

もうひとつが、小規模な独立系ホテルやホテルチェーン向けのオンラインマーケテイング。自社サイトの開発を自ら行うには時間もコストもかかることから、効率的なサイトの構築、予約エンジンとの接続などをサポートしている。

インバウンド市場拡大で日本でもクライアント増加中

ファストブッキング共同最高経営責任者 ジャン=リュック・クレティン氏

ファストブッキングはフランスで設立されたが、現在は欧州とアジアを中心に40カ国で事業を展開している。同社にとって日本はアジアで最初の市場。2010年にオフィスを構えた。現在までのところ、プリンスホテル、東急ホテルズ、ホテルオークラ、ホテルモントレイ・グループ、センチュリー・サザンタワー、阪急阪神ホテルズなど約400社と契約があるという。

クレティン氏は日本市場の成功について、「インバウンド市場の拡大によるところが大きい」と話す。日本のホテルが訪日外国人旅行者の取り込みに力を入れるなか、世界中で共有され、多言語化も進む予約プラットフォームを提供している同社の強みが受け入れられた。「同時に、ローカライゼーションにも力を入れている。それぞれの地域のプレイヤーに接続させることができるのも我々の強みのひとつ」と話す。

旅館の取り込みは「チャレンジ」

一方、日本市場でも課題はある。旅館の取り込みだ。クレティン氏は「訪日外国人の旅館への需要は高まっているが、旅館は部屋数が少ないところが多く、タイプもさまざま。アプローチがなかなか難しい」と話し、「日本市場でのチャレンジのひとつ」と認める。

旅館は日本独自のプロダクト。クレティン氏はAirbnbを例に挙げ、「その成功の背景には、シンプルで効率的なプラットフォームを構築したことと、地域のユニークな宿泊体験を提供していることにある」と分析し、「旅館のユニークな宿泊体験を維持しながら、稼働率と収益性を上げるうえで、ファストブッキングのシンプルなソリューションテクノロジーは役に立つはず」と強調した。

ファストブッキングは6月初旬、東京と大阪でトラストユーなどのパートナー企業と共同でホスピタリティ業界向けにセミナーを開催した。東京で74名、大阪で47名が参加。オンライン流通の構築、ウェブサイト・コンテンツ、カスタマー・マネージメントなどの重要性をアピールした。「参加者の反応はよかった」とクレティン氏。同社のテクノロジーとソリューションのメリットを今後もアピールし、日本市場での知名度をさらに上げていきたい考えだ。


アコーによる買収でAccorHotels.comにファストブッキング・クライアント

ファストブッキングは2015年4月、フランス最大のホテルチェーン・アコーグループに買収された。アコーは将来に向けたデジタル戦略を推進しており、2014年にはモバイルプラットフォームを提供するWipoloを買収。ファストブッキングの買収もその戦略の一環だ。

アコーは、大手OTAに対抗するマーケットプレイスとしてAccorHotels.comを展開しているが、ファストブッキングを買収することで、アコーブランドのホテルだけでなく、同社がクライアントとして持つ独立系ホテルも取り扱えるようにした。ファストブッキングが契約しているホテルは現在のところ世界で約4,000社。そのうちの多くがAccorHotels.comで予約が可能になるという。直接販売の予約エンジンを提供するファストブッキングだが、対大手OTAという点でアコーと利害が一致した形だ。

ただ、クレティン氏は「ファストブッキングとアコーはそれぞれ独立した経営。システムも別々に動いている。両社の間には『万里の長城』のような壁がある。今までどおりファストブッキングのクライアントの情報は保護される」と強調する。

一方、この買収によるファストブッキング側の最大のメリットは財務の安定だ。「技術開発にはそれ相当の投資が必要になる」とクレティン氏。また、世界的なアコーのブランド力を借りることによって、ファストブッキングの信頼性が高まることも大きいという。クレティン氏が「グレート・ウィン・ウィン」というパートナシップのもとで、ファストブッキングは世界でのビジネス拡大を加速させていく。

取材・記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹