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「変なホテル」の開業1年の成果を聞いてきた、ロボット数は倍増でスタッフ(人間)は3分の1に縮小、生産性は倍以上に

ハウステンボスは、ロボットが接客することで話題のホテル「変なホテル」オープン1周年記念記者会見を開催し、1年間の変化と成果、今後の展開を発表した。2軒目の千葉・舞浜、3軒目の名古屋での開業を計画し、1年以内には海外へ進出。全世界1000軒の目標に向け、まずは第1フェーズとして100軒の開業を目指す。代表取締役社長の澤田秀雄氏が「実証実験とテクノロジーを利用して、世界展開される都市を作っている」と語るハウステンボスで運営してきた、1年間の成果と今後の展望をまとめた。 ※写真は2015年7月開業時に撮影

ホテルのコンセプトと1年間の成果

まずは変化の前に、「変なホテル」がどういうホテルか、その基本コンセプトを押さえておきたい。「変なホテル」は2015年7月17日に開業。プロジェクト発表で澤田氏が「最も重視したのは世界一生産性の高いローコストホテルを作ること」と話したように、滞在の快適性と世界最高の生産性を両立し、3~4つ星ホテルのサービスでありながら宿泊料金の低価格化を目指すホテルだ。

世界初として話題となったロボットホテルや自動化システムはそのためのもので、このほかにも省エネルギー化を踏まえた特殊工法や水素エネルギー発電、輻射パネルによるエアコンなしの空調などを導入。正式名称「変なホテル~変わり続けることを約束するホテル~」の通り、常に新しいテクノロジーを取り入れ、ベストな姿に向かって絶えず変化していくことがコンセプトだ。そのため、ハウステンボスの「変なホテル」では実証実験の場として、あらゆるテクノロジー活用を進めている。

この1年の主な変化は以下の通り。

左上)客室ロボット「ちゅーりーちゃん」。英語対応のほかクイズなどエンタメ要素も拡充、右上)輻射パネル。現在はエアコンと両用、左下)踊りを披露してくれたコンシェルジュロボ、右下)客室の顔認証システム。※いずれも2015年7月当時

澤田氏が記者会見で最も強調したのは、生産性の向上。当初30人のスタッフ数は開業1か月後には16人に削減し、2015年内には10人と3分の1にまで削減した。2016年3月の第2期棟オープンで客室数が倍増してもスタッフ数は増やしておらず、「生産性は倍以上になった」とアピール。ほぼ9割の業務をロボット(テクロノジー)が行なっている。

9月には9人、半年以内には6人までに削減する予定で、シフトや休日を踏まえると実質のスタッフ数は1、2人となる。現在は人の手が必要なベッドメイキングや水回り清掃に関しても、対応できるロボットの開発を進めているところだ。

フロントシステムではロボットを2体から3体に増加。対応言語も日・英の2か国語から韓・中を含む4か国語に広げた。最大の変化は、日本人は音声認証を可能とし、宿泊者カードを紙から電子化したこと。また、客室のカードキー及び顔認証開錠の登録も、フロントエリアから客室前登録に変更した。これにより、チェックインの所要時間は1~2分程度かかっていたのが40秒に短縮し、4割程度効率化できたとする。

現在はパスポートデータを活用したチェックインシステムを構築中であるほか、スマートフォンでの予約時に顔認証登録することで、顔認証チェックインを実現する計画も明かした。実現すれば所要時間は10~15秒程度になる見込みで、必要業務の時間が短縮された分はフロントロボットとの会話など、チェックインが楽しくなるようなエンターテイメント性を高めていく。コンシェルジュロボットのAI(人工知能)対応実験も開始する。

一方、運営の結果、効果の少ないものは導入をやめたり、当初の構想から変えることもある。例えば空調は風通しの良い設計と輻射パネルで室温を快適に保つ試みであったが、現在はエアコンを設置し、輻射パネルとのハイブリッド運用にした。これが光熱費の削減と快適の滞在の実現にはベストと判断したからだ。

実際の予約状況は開業1年後も好調で、今夏はほぼ100%に近い高稼働。年間20%の高い利回りを実現している。この1年の実績と進捗状況から澤田氏は、「サービス、クオリティ、生産性は十分世界展開に耐えうるものになってきた」とし、ハウステンボス以外での本格展開に自信を示した。

ウユニ塩湖など世界の秘境に開業

デスティネーション開発とテクノロジー融合へ

今後の展開は、2017年3月の千葉・舞浜への開業のほか、同年夏の名古屋、さらに大阪を候補地として提示。1年以内には海外にも広げ、HISの現地拠点の多い地域から開始する。澤田氏は「ベトナム、インドネシア・バリ、タイ」と、具体的な地名をあげた。ハウステンボスでの実証実験を踏まえ、開業地域にあったテクノロジーや仕組みを導入していく。

世界展開にあたってはHISグループによる直営と、既存ホテルなどによるフランチャイズ方式を想定。直営の場合の開発コストは100~200室規模で平均20億円。100軒を直営する場合、単純計算で2000億円となるが、「HISの資力で十分可能」とアピールする。変なホテルの実績を踏まえると、5年で償却が可能と目論む。

一方、フランチャイズ展開も開業当初から引き合いが多かったといい、記者会見に出席したHIS代表取締役社長・平林朗氏によると、当面の目標の100軒についても「チェーンホテルがフランチャイズ展開すれば早々に実現する可能性もある」という。

将来的には、世界の秘境などへの開業も視野に入れる。ハウステンボスで自然エネルギーや蓄電システムの開発研究を進めており、「実現すれば配電が叶わず、就労人口が少ない場所にも建設できる。世界の旧所名跡、秘境に展開できるホテルにする。これは夢の夢だが、当初から目指していること」(澤田氏)と熱く語る。

平林氏も「より多くの地域に旅行者をお届けして、地域活性化に繋げられる旅行商品とデスティネーション開発、テクノロジーの融合を目指していきたい」と意欲を示した。その建設地を想定するため、平林氏にあくまでも例としてあげてもらうと「例えばウユニ塩湖は今、人気が高いデスティネーションだが、アクセスが不便で宿泊地も遠い。そういう場所に環境を壊さないホテルがあれば便利」との考えを語った。

ハウステンボスではエネルギー開発だけでなく農業の取り組みも行なっている。写真は「変なホテル」隣接の「変なレストラン」※2015年7月撮影

取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)