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数字で読み解く世界の「観光」、国連世界観光機関(UNWTO)の日本人職員がわかりやすく解説する「ツーリズムバロメーター」 【コラム】

こんにちは。国連世界観光機関(以下、UNWTO)アジア太平洋地域部門シニアオフィサーの熊田順一です。

観光業は私たちの社会にどのくらいの影響を与えているのでしょうか? 旅行カバンをもって道行く人は、私たちのまちに訪れてきた人でしょうか? それともこれから出かけて行く人でしょうか? レストランであなたの隣で食べている人は観光で来ている人でしょうか? それともこの地域で暮らしている人でしょうか?

UNWTOでは加盟国の統計を2ヶ月に1回のペースでツーリズムバロメーターという速報にして発行しながら国際ツーリズムの今を世界の皆さんにお届けしています。これらのデータの中で何点か観光業に携わる上で知っておくと、話題になるような国際ツーリズムにまつわる「数字の旅」をご紹介したいと思います。

1. 「10%」

UNWTO「ツーリズムバロメーター」表紙

全世界のGDP(国民総生産)の10%をツーリズム産業が担っています。つまり地球上の経済活動の約1割を「旅」が担っているのです。皆さんが住む地域での観光産業がもたらす地域への経済効果はどのくらいでしょうか? 地域の外から人を受け入れることで社会は活性化していくのです。

2. 「11億8400万人」

2015年に世界各国に到着した外国人客数です。2014年から5000万人(4.4%)増えています。上位から並べるとヨーロッパ6億900万人、アジア太平洋2億7800万人、アメリカ1億9100万人、中東5400万人、アフリカ5300万人となります。各地域の市場規模、これから可能性のある地域はどこなのか、数値に対する見方や角度で将来へのビジョンが変わってきます。

また、11億人という数値を見れば、旅行者の行動や倫理観が訪問地に与える影響が大きいことは明らかだと思います。SNSに掲載される情報や旅行会社から提供される情報が観光地を育てることもあれば、壊していく可能性もあるのです。観光業に携わる方々だけでなく一人ひとりが責任ある旅行者として、適切な情報に基づき、訪れ地域の自然や文化を尊重し保全していく倫理観を持っていくツーリズムにおける世界的な価値観を共有することが求められる時代なっています。

3. 「11人に一人」

ホテル、旅館、レストラン、エンターテインメント、移動手段、ショッピング店舗、空港や駅、旅行会社、エージェント等々。世界で働く11人に1人はツーリズム関連の仕事に支えられています。世界で働いている約1割の人々がツーリズムと関連しています。雇用創出の観点でツーリズム産業は重要な各国の経済や社会において大切な役割を担っています。

4. 「世界の輸出分野の7%・第3位」

ツーリズムの輸出額は1.4兆ドル・184兆円でこれは日本の国家予算97兆円の約2倍の規模になります。これは燃料、化学製品、に次ぐもので、第4位の食糧、第5位の自動車関連産業を凌ぎ、世界の輸出額ランキングの3位にツーリズム分野が位置しているのです。

UNWTO Webページ「WHY Tourism」イラスト抜粋

5. ランキング 「仏→米→西→中→伊」

この順位はここ最近馴染みの国際到着客数の2015年の順位で、ベスト5のメンバーは2014年と変わりません。フランスの8370万人(ほぼ前年並み)、アメリカ7500万人(2014年参考)、スペイン6820万人(+300万人)、中国5700万人(+100万人)、イタリア5100万人(+200万人)。6位トルコ、ドイツ、英国、メキシコ、ロシアと続きます。国境を長く接する中国とロシアの越境交流は相互の国際ツーリズムを活性化させています。島国である日本では想像し得ない、未知の交流が地球には沢山あるようです。その源泉は我々に身近なショッピングに拠っていたりもします。

6. ランキング 「米→中→西→仏→泰」

2015年国際旅行収入のランキングです。米国1,780億ドル(+0.6%)、中国1,140億ドル(+8.3%)、スペイン565億ドル(+4.0%)、フランス460億ドル(▲4.3%)、タイ450億ドル(+22%)。次いで英国、イタリア、ドイツ、香港、マカオと続きます。

イタリアの到着客数は伸びましたが順位を後退させました。欧州では2年連続でスペインがフランスを収入で抜いて1位を維持しています。スペインは6000万人を誘客している上に、300万人も前年から増やしていることは歴史的な快挙です。どんな誘致策をとっているのか日本も学ぶところがあるのだと思います。

アジアに目を向けると2015年のアジア太平洋地域の国際観光客到着数の1300万人という増加分のうち、約50%は日本の貢献分です。2015年前半に発生したMARSや、中国国内の汚職追求によるカジノ離れ等を背景に追い風が吹いた可能性も考え、今後の動向を注視するべきだと思います。

7. ランキング  「中→米→独→英→仏」

2014年の海外旅行総額消費の順位です。中国2,920億ドル(+24.5%)、米国1,200億ドル(+8.7%)、ドイツ763億ドル(▲2.1%)、英国630億ドル(+8.1%)、フランス384億ドル(▲5.5%)、ロシア350億ドル(▲30.7%)。その後にカナダ、韓国、イタリア、オーストラリアと続きます。アメリカドル高の影響による通貨価値の落ち込みによって欧州市場の消費額は前年割れとなっています。また、ロシア、ブラジルが政治情勢などを背景に前年数値を大きく落としています。一方で日本が上記市場からの需要を取り込めているかは検証すべきです。

いずれにしても海外市場が活発な国々ですので訪日インバウンド分野で売上を伸ばすヒントにしたい統計順位だと思います。一方で日本は2000年に350億ドルあった消費額が、2015年には160億ドルに半減しています。日本の人口を考えれば海外旅行市場はまだまだ成長市場です。世界も日本の海外旅行の復活を期待しています。

また、世界の海外旅行観光分野の消費額は1兆2,320億ドルで2013年の1兆2,360億ドル、2014年の1兆2950億ドルから減少に転じていますが、5年間連続して1兆億ドル以上を維持すると予測されています。

UNWTOツーリズムバロメーターで掲載している数値は、その推移を分析し、その背景にある事象を定期的に観察し、その状況にある国を日本に置き換えて考えたりする事で、課題や見えなかった大きな山の存在を気付かせてもくれることが多々あります。

これから日本においてもサービス業という大きな枠組みの中からツーリズム産業という分野の輪郭を明確にしていく為にも、UNWTOからツーリズム産業という分野の輪郭を明確にしていくためにも、UNWTOから提供している国際ツーリズムの数値の枠組み・観点も加味することで視野を広げ、まちづくり、ひいては日本の観光を今まで以上に活性化することに役立てて頂ければと思います。

前回コラム:

熊田 順一(くまだ じゅんいち)

熊田 順一(くまだ じゅんいち)

国連世界観光機関アジア太平洋地域部門シニアオフィサー。明治大学卒業後、株式会社日本交通公社に入社。訪日旅行担当、JTBワールドバーケーションズなどを経て、訪日旅行サイト「JAPANiCAN.com」開設・事業推進を行うなど一貫して訪日インバウンド事業に携わってきた。2014年7月から観光庁・JATAの推薦でUNWTOアジア太平洋部門シニアオフィサーに着任。マドリッド勤務は間もなく3年目。