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グーグルやフェイスブックは旅行予約に本格参戦するのか? 旅行ビジネスの新潮流から未来を展望 -電通OTAセミナー

先ごろ開催された、電通の観光ユニット会OTA分科会が主催する「第3回 オンライントラベル最新動向セミナー」では、旅行ビジネスで起こっている新たな動きについて、メタサーチ「travel.jp」を運営するベンチャーリパブリックCEOの柴田啓氏と、トラベルボイスの鶴本浩司代表が意見を交わした。海外の旅行カンファレンスにも毎年数多く参加し、国内外で起こっている事象に対する見識から注目すべきポイントをまとめた。

今回は、先日開催された米国の旅行ビジネス専門メディア「スキフト」の世界フォーラムでのキーワードと、世界最大の旅行商談会カンファレンスであるITBベルリンの今年のテーマをピックアップ。新たなステージがすぐそこに訪れている旅行の市場変化のなかでどう儲けていくか、そんなヒントを提示する対談となった。

グーグルの旅行展開

旅行関連のカンファレンスなどでも、旅行各社に脅威としてその名をあげられていたグーグル(Google)。先ごろには旅行支援アプリ「Google Trips」をリリースし、1週間で50万ダウンロードと上々の滑り出しとなっている。

この動きについて柴田氏は、「グーグルならでは」と評する。世界の情報をオーガナイズするというミッションに即した事業であり、メールやマップなどのインフラデータを持つグーグルだからこそ実現したとの認識だ。旅程管理系サービスはスケジュール作成上の論理チェックが難しいところだが、鶴本代表はマップなどのデータを持つグーグルはそれが可能であると同意した。

柴田氏によると、投資家の間では旅程管理系の新規ビジネスは(儲からないので)出資は「断れ」というのが共通認識。しかし、グーグルは投資期間が長くても他の事業で十分に賄える。他社にはできない独壇場のプラットフォームを構築しているといえるだろう。

さらに指摘されたのは予約支援への動き。「グーグルで検索すると、予約サイト上の価格が表示され、航空会社など直販サイトに行かなくても予約可能な仕組みの近いところまで来ている。これが今、起こり始めている」と、直販サイトが不要になる世界が訪れる可能性を示唆。実現すれば「OTAの主戦場にグーグルが参戦することになる」と、鶴本代表はいう。

これについて柴田氏は、クチコミのプラットフォームを構築してインスタントブッキングを始めた「トリップアドバイザー」を例に出しつつ、「旅行のみならず、プラットフォームを作った企業は必ずトランザクションにいく」と、ネットやテクノロジー関連のビジネスの動きを説明。「今はトランザクションの近いところでないと収益が入らない」というのがその理由だ。だから「グーグルですら、最終的にトランザクションにいきたいのだと思う」と展望する。

フェイスブックの参入がもたらす変化

ベンチャーリパブリックCEOの柴田啓氏

スキフトではフェイスブック(Facebook)も登壇。鶴本代表によると「単なるミドルマンになるつもりはない」と述べ、旅行予約支援への本格的な参入を匂わせた。「現在、フェイスブックは広告モデルでの展開だが、次のステージに入ろうとしている」と注視を促す。実はこのセミナーの当日(現地時間)、フェイスブックはフリマの物品購入の支援サービスを開始している

柴田氏も、この動きがグーグルのトランザクションへの流れと同じであることに加え、「業界として非常に重要度が大きい」と同調。グーグルへの依存度が高かったオンラインの世界で、「対抗できる大きな機軸を持っているのはフェイスブック。ソーシャルグラフを使って新たなエコシステムを作ろうとしているのは、業界にとってもプラス」とその影響を語る。

さらにフェイスブックによる変化として、これまでオンラインに自社の接点がなかった小規模事業者が、気軽にフェイスブック内に公式ページを持ち、ホームページのように使用していることを指摘。「そこがEコマースに入るようになると、グーグルとはまた違うバリューを提供できる」と語る。

これについて鶴本代表は「友人の投稿にあったホテル客室が気に入った場合、そこに予約ボタンがあればすぐ申込みできる。全く違う世界観が出てくる」として同調。セッションの最後に「今までにない旅行支援が本格化しつつある。グーグル、フェイスブックも広告モデルから次のレイヤーに入っていく」とまとめた。

AIやロボットが活躍する時代の勝者は?

トラベルボイスの鶴本浩司代表

また今回のセッションでは、スキフトでのキーワードとともに、世界最大の旅行展示会であるITBベルリンの今年のテーマ「トラベル4.0」でのキーワードについても意見が交わされた。

特に双方のカンファレンスで取り上げられたのが、AIやロボット、チャットボットなどのテクノロジーによる旅行支援について。スキフトではグーグルのセッション時に、メッセージングアプリ「アロー(Allo)」について発表した。レストラン探しをはじめや旅行全体の支援を音声で行なうというもので、“音声を使って何かをする”という取り組みは、グーグル以外のセッションでも言及されていたという。

これについて柴田氏は、「音声はもう少し先。その前にAI、チャットボットの世界が来ると思う」とコメント。しかしAIも利用できるサービスにするには、データを蓄積し、ディープラーニングを繰り返す必要があるため、時間がかかる。

こういう状況のなか、AI活用の旅行支援サービスで一歩先んじる動きがある。カヤックの共同設立者だったポール・イングリッシュ氏が立ち上げた「ローラ(Lola)」だ。柴田氏によると、徹底的にディープラーニングを行なうため、全世界の旅行会社にサービスの使用を許可し、データや経験値の収集をしようとしているという。

セッションの最後、柴田氏から会場に対し、「AIやロボットの分野で誰が儲かると思うか」と質問が投げかけられた。柴田氏は「ビッグデータを本当にいい意味で持てる企業がいいポジションに立てると思う」としながらも、「どうマネタイズするかは見えていない」と語る。進む方向は決まっているが、その先の景色はまだ誰も予想しきれていない。そのときもトランザクション周りのビジネスが強いのかどうか。その答えはそれぞれが見出していくしかない。

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記事:山田紀子