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統合型リゾート(IR)法の成立で日本の観光地がすべきことは? 海外のICT活用事例から考えた観光地経営への提言 【コラム】

こんにちは。エストニア投資庁の山口功作です。

国会で統合型リゾート(IR)法が通過しました。国内大手メディアではIR法を“カジノ法”と称し、賭博解禁に焦点を当てたギャンブル依存症のリスクなど不安を煽る報道が散見されます。本当のところは、どうなのでしょう? 私なりに考察してみたいと思います。

細かな議論を経て、レギュレーション制定へ

まず、一般的には基本法と個別法に関する理解が低いと思われます。私自身もITに関連する法制度に関心を持つまでは、恥ずかしながらその差に関心を持ったことがありませんでした。平たく言えば、基本法は「このようなことをやります」という基本姿勢を示したもの。その後の議論を経て実施法等の個別法でレギュレーションを制定する流れです。法案提出から5年、訪日外国人へのコンテンツの充実が求められる中、細かな議論に移りましょうという姿勢が今回、示されたということになります。

ここでは、これから議論が進むと考えられる、懸念事項への対処について紐解いてみることにしましょう。

ギャンブル依存症:高額入場料や入場禁止手続きで抑制が可能

メディアではIRのカジノがパチンコ、競馬、競輪等と同等に語られていますが、IR法ではこれら既存の遊戯、公営ギャンブルとは、依存症対策の面で明らかに一線を画しています。日本人からは入場料を取るとされているのです。二重国籍の問題もあるので、これは「日本人、および国内居住者」とされていくべきと考えられますが、例えば1万円の入場料が課せられた場合、明日の生活を賭けて臨む人がどれだけいるでしょうか。入場無料のギャンブルと比べ、元を取ることすら難しいもので、それでもやる人は自己責任の範疇なのではないだろうかと思ってしまいます。

私が勤めるエストニアのカジノ依存症対策はユニークです。カジノを訪れるには身分証明書が必要ですが、エストニアでは個人に紐付けされたIDカード(日本のマイナンバーカードに相当)を使用して、家族や医師がインターネット経由でカジノへの入場を禁止する手続きを行なうことができます。これは日本でも導入可能なのではないでしょうか。

マネーロンダリング:IR外でも利用できる地域通貨などICT活用を

3D closeup of casino table with roulette and chipsカジノのチップのやり取りの中で資金洗浄が行われるのではないかという懸念も取り上げられています。これはチップにICチップを入れるなどで、すべての突合が可能となります。その流れを人が覗くのではなく、暗号化したまま関数による処理を行なうことで、利用者のプライバシーが侵されることなく、無意識のうちに違法行為が取り締まられることになります。

また、電子マネーや仮想通貨の積極的な採用は、違法行為の防止ばかりでなく、カジノ外でのIR施設内通貨として、アナログとデジタルの融合により、地域通貨としての壮大な実証が可能となる可能性を秘めています。エストニア投資庁の一員としては、この分野ではPlaytech社(※)のような企業の活躍の場もあるのかなと期待しています。

※編集部注:本場カジノやオンラインカジノのゲームソフト製作の大手ソフトウェア会社。エストニア発祥で、現在世界のカジノ業界にソフトを提供するゲーミング関連企業。

民間主導・異業種連携で日本独自のIRを

昨年、エストニア政府観光局ではIR産業の本場、米国ラスベガスに視察旅行を実施しました。そこで、ホテルオーナーは「カジノだけでは、もう儲からない」と断言していたという事実があります。カジノの種類は世界ほぼ共通。カジノだけで勝負してしまうと、戻し率の競争になってしまいます。発展性や世界との競合的な観点からいえば、独自性の高い観光地経営が求められているのだといいます。

現在、国内ではカジノの可否に論点が集中していますが、国が統合型リゾートの環境を整備する方針が示し、実際にその運用を担うのは民間です。教育、食、レジャー、会議場など様々な施設を統合した観光地経営に、旅行・観光業界としても積極的な関与が求められています。そうしない限り、受益者になれない可能性を秘めているのです。

補助金に頼らない観光地経営が求められるため、海外には事例の無いIRを目指さなければならないでしょう。そこではこれまでの知見は役に立たず、異業種やクリエイターとのジョイントベンチャー(JV)などを模索する必要も出て来ると思います。

エストニア投資庁 日本支局長 山口功作