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仮想現実(VR)と本物の航空機材で旅行体験する新施設、日帰りニューヨーク旅行の約100分を体験してきた 【画像】

宿泊や移動はせずに、航空・海外旅行を疑似体験できるエンターテイメント施設「ファーストエアラインズ」が、2016年12月に東京・池袋にオープンした。

実際に航空会社が使用していた座席や内装で機内を再現。搭乗から着陸までの空の旅と海外の現地観光の体験部分を、元客室乗務員の指導による接客や機内食のように提供する食事、バーチャルリアリティ(VR)などを含む旅行先の映像といった、リアルのサービスとテクノロジーを掛け合わせ、約100分にわたり五感に訴えて提供する。

同サービスを開発・運営するのは、ウェブやITを通じたスタートアップとして新規事業やプロダクト開発を行なってきた阿部宏晃氏。今回はリアルの空間を舞台に、「利益や規模の拡大ではなく、ワクワク感を最大化することに指標をシフトし、まったく別のアプローチからサービス開発を目指した。それを体現できるのが、空港や航空、旅行の非日常的な感動体験だった」と、同事業の狙いと背景を説明。「単なるレストランやカフェ、映画館、アトラクションではない。こういう業態はこれまでになく、定義づける考えはない」と述べ、まったく新しい体験を作り出す場であることを強調した。

疑似旅行の開発には阿部氏のほか、JALやANAをはじめとする内外の航空会社の勤務経験者や元隈研吾事務所所属の空間デザイナー、ウォルト・ディズニーの演出を手掛けるアトラクション開発会社、海外経験の豊富なプロのシェフなど、多方面で活躍する40名以上の専門家が参加。本格志向を目指す一方で、「幅広いクリエイターの方が携わり、その方々が考える“ワクワク”の要素が集まることで斬新な体験にしたい」という期待もある。

左上:ファーストエアラインズの"機内”、右:東京メトロ池袋駅C3出口から約1分のビル8F。入口を開けると、チェックインカウンターと搭乗口が目の前に、左下:ファーストエアラインズの阿部宏晃氏

また、施設内には機内の再現空間のほか、お酒やソフトドリンク、スナックなどを出すラウンジを併設。オンライン上では予約客向けに当日の接客を担当するクルーとのチャット機能や、予約客同士が参加できるトークスレッドも用意した。タビマエ、タビアトにもアプローチして疑似体験への期待や満足感を高めるとともに、本物の旅行で得られるような人との交流の場を設けるのもポイントだ。「お客様が繋がることで、忘れられない体験を作っていきたい」と考える。チャットやトークスレッドの内容は当日、クルーの接客に活用し、オンラインとリアルを融合させたパーソナルなサービス提供を目指すという。

料金は約100分のフライト体験とラウンジ利用80分で、機内食や2ドリンクを含み、ファーストクラスが6600円、ビジネスクラスが6200円。1回の体験人数は最大12名で、平日は2便、土日祝日は夕方を加えた3便。まずはニューヨーク、パリ、ローマへの疑似体験旅行から開始。南極や北極など、なかなか体験できない旅行先への展開や、訪日客向けの国内旅行の可能性も視野に入れる。

現在の予約は情報感度の高い女性客が7~8割を占めるが、メインターゲットは全国40万人いるといわれる航空ファンを想定。ファーストエアラインズのファン化を促し、利用率として平均6~7割を目指す考えだ。

日帰りニューヨーク旅行、約100分の体験内容とは?

ファーストエアラインズの“機内”に入ると、大型ディスプレイを前方にファーストクラス(8席)とビジネスクラス(4席)のシートが並ぶ。独立タイプやフルフラット式の最新シートではないが、トルコ航空が過去に実際、使用していたシートだ。

シートポケットには機内案内と安全のしおり、ドリンクメニューが用意され、ウェルカムドリンクも配られる。離陸準備に入ると、クルーによるシートベルトや救命胴衣などのデモンストレーションも始まり、シートベルトを締めたら離陸開始。エンジン音や実際に羽田空港で撮影した空港滑走路の映像などが流れ、離陸直前の雰囲気が感じられるような演出が行なわれる。

安定飛行に入るとシートベルト着用サインが消灯。旅行先の現地体験となる。まずはVRでの疑似旅行。ディスプレイが配布され、VR映像でニューヨークの空中散歩が始まる。タイムラプスと動画の混じった映像で、ロックフェラーセンターやタイムズスクエアなど摩天楼を縫うように、ニューヨークの名所を眺めていく。実際の映像時間はVR酔いをされるケースも考慮し、説明時間をあわせて約10分程度だ。

左上:クルーは全4名のうち2名が搭乗。男性クルーもいる。右側のディスプレイは機内の窓をイメージ。滑走路へ移動する際に見られる景色も羽田空港で撮影。右上:シートポケットには機内案内と安全のしおり。小物からも疑似体験を演出。左下:VRでのNY遊覧観光体験。VRでの観光時間は約4分。右下:現地レポーターとの中継

VRの疑似旅行が終わったら、機内食の時間。座席テーブルを出してテーブルクロスを敷き、おしぼりの配布の後、前菜、スープ、メイン、デザートの4品を一つひとつ提供する。料理内容は、現地体験の一環として、旅行先の家庭料理など現地で親しまれているメニューを用意する。

さらに食事中には、現地との中継映像を放映。SNSで募集した現地在住の一般人がレポートする体裁で、観光名所よりも街の様子など現地の日常や雰囲気、リアル感が伝わる内容とする。中継内容は2週間に1回は更新し、今回放送された11月26日撮影の映像では大統領選挙がホットトピックだったことから、トランプタワーの案内もあった。

その後はブルックリン橋や自由の女神などの名所の映像を見ながら、機内でのコミュニケーションタイム。クルーも積極的に参加者とのコミュニケーションに参加していく。そしてファーストエラインズのオリジナルグッズの機内販売が終わったら、着陸体制に入り、フライト体験が終了となる。

左上:"機内食”は前菜とスープ、メイン、デザートを、旅行先の料理で提供。食前と食後のドリンク付き。右上:食事中は現地の観光名所の映像を放送。左下:最後にオリジナルグッズを機内販売。右下:搭乗客同士が旅行前後にコミュニケーションできるラウンジスペース。ドリンクやスナックも提供

なお、サービス開発にあたっては幅広い専門家が参画しているものの、現時点で旅行会社や旅行会社経験者の参加はなかった。ただし阿部氏は今後の展開や参加者の人的交流などで、旅行会社とのサービス開発に意欲を示した。

取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)