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民泊仲介サイトやホストの義務とは? 民泊新法の中身を元担当官の弁護士がわかりやすく解説(後編)

弁護士の谷口です。

前回のコラムでは、民泊新法、すなわち住宅宿泊事業法が対象とする施設・事業の内容について解説しました。後編となる今回のコラムでは、「住宅宿泊事業」のプレーヤーとなる【1】ホスト(住宅宿泊事業者)、【2】代行業者(住宅宿泊管理業者)、【3】プラットフォーマー(住宅宿泊仲介業者)に対する規制の概要について解説したいと思います。

1. 住宅宿泊事業者(ホスト)に対する規制

―民泊ホストは自治体に「届出」、管理業者への委託が必要

▼届出制:虚偽の届け出には100万円以下の罰金

住宅宿泊事業を行うためには、旅館業法に基づく営業許可の代わりに、都道府県(保健所設置市を含む)に届出を行う必要があります。届出にあたっては、1自らの氏名、住所等の情報、2管理業務を委託する住宅宿泊管理業者の情報、3住宅の図面等物件に関する情報、及び4省令で定める情報を一緒に提出する必要があります。

これまでの議論からすると、住宅宿泊事業者が、当該住宅を民泊に利用できる権利を有するのかどうか(所有者かどうか。アパートの場合、大家さんとの間の賃貸借契約で民泊としての利用が許されているか。分譲マンションの場合、管理規約上、民泊としての利用が許されているのか)を確認するための書面(不動産登記、賃貸借契約書、管理規約)の提出も求められるのではないかと思われます。

なお、虚偽の届出を行った場合には本法案に基づき6月以下の懲役・100万円以下の罰金が科される可能性があります。他方、届出を行わずに住宅宿泊事業を実施した場合には、本法案の違反ではなく、旅館業法違反として、旅館業法に基づく罰則等の対象となる可能性があります。

また、これまでの議論からすると、これらの手続きについてはインターネットを通じて届出できるように取り組まれると考えられます。

▼必要とされる住宅宿泊管理業者への委託

本法案では、住宅宿泊事業において行うべき管理業務が定められています。各届出住宅においてこれらの業務を実施しなければなりませんが、住宅宿泊事業者(ホスト)自身が実施できる場合は限定的で、多くの場合、住宅宿泊管理事業者(以下「管理業者」といいます)に委託して実施することが求められています。

具体的には、以下のいずれかの場合に当たれば管理業者への委託が必要となります。もっとも、住宅宿泊事業者(ホスト)自身が後述する管理業者の登録を持っている場合には委託は不要です。

つまり、住宅宿泊事業者(ホスト)自身が管理業者の登録を持っていない限りは、家主不在型民泊(一時的な不在等の場合は除く)であれば、管理業者への委託は必須ということになり、また、家主在住型(ホームステイ型)民泊の場合でも、その居室数が多ければ、管理業者に委託する必要が生じるということになります。

 

【管理業務の内容】

管理業者が行うべき管理業務の内容は以下のとおりです。1、2、3、5の各義務の具体的内容は省令で定められることになっており、本法案では簡単にしか定められていません。

  1. 宿泊者の衛生の確保を図るために必要な措置を講じる義務(定期清掃等)
  2. 宿泊者の安全の確保を図るために必要な措置を講じる義務(非常用照明器具の設置等)
  3. 外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保を図るために必要な措置を講じる義務(外国語表記等)
  4. 宿泊者名簿の備付義務
  5. 宿泊者に対して、周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関して必要な事項を説明する義務
  6. 周辺地域の住民からの苦情処理義務

▼ホストのその他の義務(仲介・標識・提供日数報告義務等)

上記の他、住宅宿泊事業者(ホスト)には、主に以下の義務が課されることになります。

これまで、宿泊サービスに関する仲介業は旅行業者の独占業務でしたが、住宅宿泊事業に関しては、旅行業者の他に、仲介業者においても実施することができるようになります。もっとも、仲介業者が実施できるのは手配旅行業務(宿泊契約の締結に向けた媒介・代理行為等)だけで、企画旅行業務(パッケージツアーの造成・販売)はできません。

また、各届出住宅の年間提供日数の報告義務が課されます。年間提供日数(180日)以内かどうかは、当該住宅を利用した宿泊サービスが旅館業に当たるのか、本法案が適用される住宅宿泊事業に当たるのかを決める分水嶺となりますので、住宅宿泊事業者(ホスト)は、同日数を適切に報告することが求められます。この報告を怠った場合、又は虚偽の報告を行った場合には30万円以下の罰金に処せられる可能性がありますので、ご注意ください。

 

2. 住宅宿泊管理事業者(代行業者)に対する規制

―管理業者は国交省に登録、行政庁への定期報告義務も

▼住宅宿泊管理業とは?

住宅宿泊管理業とは、定期清掃や苦情処理などの管理業務を報酬を得て実施する営業を指します。

住宅宿泊管理業を行うためには、国土交通大臣の登録が必要です。上記のとおり、家主不在型民泊や、家主在住型(ホームステイ型)民泊でも居室数の多い場合には、住宅宿泊事業者(ホスト)は、その管理業務を管理業者に委託しなければなりません。

管理業者の登録要件は、具体的には省令で定められることになっていますが、本法案を見る限り、登録に当たり、一定の財産的基礎、業務遂行体制を備えることが求められるようです。なお、営業保証金を予め供託することや、国家資格を有する者を選任することまでは求められていないようです。

【管理業者に対する主な義務】

管理業者に課される義務は、主には以下のとおりです。

管理業者には、契約書面交付義務に加え、契約締結前に説明書面を交付する義務を課されています。これらの書面に記載すべき内容は、法令にて定められることになっていますので、おそらく、当事者間で契約内容・条件を自由に設定することはできず、少なくとも契約内容・条件の重要な部分については、行政側のルールに従う必要がありそうです。

また、管理業者が本法案の義務に違反した場合には、行政指導、業務改善命令、登録取消・抹消等の処分、立入検査、罰則等の対象となる可能性があります。

 

3. 住宅宿泊仲介業者(プラットフォーマー)に対する規制

―観光庁への登録が必須、仲介サイトには違法民泊の掲載を禁止

▼住宅宿泊仲介業とは?

住宅宿泊仲介業とは、届出住宅についての宿泊仲介行為(宿泊契約の締結にあたり、住宅宿泊事業者〔ホスト〕又は宿泊者のため代理又は媒介等をする行為であり、旅行業者が実施する手配旅行と同質の行為を意味します)を報酬を得て実施する営業を指します。オンライン上でホストとゲストを結ぶプラットフォーマーの行為も、基本的にはこれに当たると解されます。

住宅宿泊仲介業を行うためには、観光庁長官の登録が必要であり、上記のとおり、届出住宅に関する仲介行為は、旅行業者か仲介業者にしかできません。また、仲介業者には、届出住宅を用いた企画旅行(パッケージツアー)の造成・販売はできません。

なお、住宅宿泊事業者(ホスト)自身が旅行者を募集する行為自体は禁止されていませんが、管理業者が住宅宿泊事業者(ホスト)のために旅行者を募集することはできないものと考えられます。

仲介業者の登録要件は、具体的には省令で定められることになっていますが、本法案を見る限り、登録に当たり、一定の財産的基礎、業務遂行体制を備えることが求められるようです。なお、旅行業者とは異なり、営業保証金を予め供託することや、旅行業務取扱管理者のような国家資格を有する者を選任することは求められていないようです。

【仲介業者に対する主な義務】

仲介業者に課される義務は、主には以下のとおりであり、旅行業法に基づく義務を少しずつ緩和したものになっていると言えます。

上記のとおり、仲介業者は、予め宿泊者との間の仲介契約に関する契約約款を作成する必要があります。旅行業者の場合には、約款を独自に作成する場合には「認可」を受けることが必要ですが、本法案では「届出」を行えば足りるとされています。

また、仲介業者は、旅行業者と同様、違法なサービスのあっせん・広告行為を行うことは禁止されています。したがって、本法案に基づく義務を遵守していない届出住宅や、180日を超えて宿泊利用されているにもかかわらず、旅館業法の営業許可を受けていない届出住宅の仲介行為やその広告(ウェブサイト上での情報掲載も含むと解されます)についても禁止されることになります。

さらに、書面の交付義務についてですが、仲介業者は、宿泊者に対して契約締結前に説明書面を交付することは求められていますが、契約時に契約書面を交付することまでは求められていません。この点は、管理業者に対する規制や、取引条件説明書面及び契約書面の交付を求める旅行業法とは区別されているようです。

また、仲介業者が本法案の義務に違反した場合には、行政指導、業務改善命令、登録取消・抹消等の処分、立入検査、罰則等の対象となる可能性があります。

おわりに

住宅宿泊事業法案の概要は以上のとおりです。

本法案により、民泊施設が遵守すべきルールが整理されることになり、特に、届出住宅における標識の掲示義務等が設けられたことで、民泊に利用されている施設が法令を遵守している施設かどうかを区別することができるようになります。その点では、ヤミ民泊の摘発が広がるという期待がもたれます。

他方、本法案では、年間提供日数の算定方法や、届出・登録に関する事項についても、多くが政省令で定められることになっており、まだその外縁が示されたに過ぎません。

本法案の成立・施行により、宿泊施設の供給量の増大、国内OTAも民泊を扱うことによる販路拡大が予想されますが、これが既存の宿泊市場にどこまでのインパクトを与えるのかについては、政省令による制度の具体化、行政による本制度の運用次第と言えますので、本コラムでは、行政による政省令の動向等にも引き続き注視していきたいと思います。

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谷口和寛(たにぐち かずひろ)

谷口和寛(たにぐち かずひろ)

弁護士法人御堂筋法律事務所 東京事務所所属弁護士。2014年5月から2016年4月まで任期付公務員として観光庁観光産業課の課長補佐として勤務。旅行業、宿泊業、民泊など観光産業の法務を担当し、「民泊サービスのあり方に関する検討会」の事務局、「イベント民泊ガイドライン」、「OTAガイドライン」、「障害者差別解消法ガイドライン(旅行業パートのみ)」、「受注型BtoB約款」の企画・立案を担当。2010年3月東京大学法科大学院卒業、2011年12月弁護士登録。