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JTB連結決算、過去最大の最終赤字、海外事業会社の業績不振とシステム開発中止で多額の減損処理 -2018年度

JTBが発表した2018年度(2018年4月~2019年3月)連結決算は、売上高が3.4%増の1兆3674億円、営業利益が23.2%増の63億円、経常利益は67.9%減の30億円で、当期純利益は151億円の赤字となった。JTBの最終赤字決算は、リーマンショックの影響で過去最大の赤字となった2009年度以来、9年ぶり。2018年度からスタートした「第3の創業」と位置付ける経営改革を加速するため多額の減損処理を行ない、特別損失と営業外損失で計165億円を計上したことが大きな要因。

代表取締役社長の髙橋広行氏は「大きな赤字決算だが、経営改革においては乗り越えなくてはならない壁。身軽になって前向きに、さらに経営改革を進めたいとの思いでこの決算とした」と強調。「これまでの旅行業からソリューションビジネスへと大きく転換し、安定的に収益をあげられる構造に変革させていく」とも述べ、構造改革を加速させる意思を示した。

減損処理の主な要素は、業績不振の海外事業会社ののれん代と、開発中の基幹系システムの中止に伴うもの。この数年にM&Aで取得した南米とアジアの事業会社で、その後の環境変化により、当初の採算が見込めないと判断した。例えば、ブラジルの事業会社はサッカーW杯とリオ五輪などのビッグイベントや、"BRICS“の一つとして経済発展が期待された同国に大きなチャンスを見込んだが、その後は想像以上に同国の経済が悪化したとする。

また、システムの開発中止も市場環境の変化に対応したもの。基幹系の仕入れ造成に対応するシステムの開発を行なっていたが、航空会社やホテルなどで進むダイナミックプライシング(需要や供給に応じた価格変動制)を、旅行会社のパッケージ商品向けにも反映する方針を示したことで、開発中断を決断。高橋氏は、「連動する価格に対応できないと商品そのものが作れなくなる。ダイナミック化に対応できるシステム構築に切り替えた」と語り、目前に迫る環境変化への対応であることを強調した。

主要セグメント別の業績では、個人旅行事業は売上高が6518億円(4.7%減)、営業利益が86億円(62%増)で減収増益。店舗網整備や昨夏の自然災害による営業機会の損失に加え、「ウェブ化やダイナミック化への対応の遅れにより、市場環境や顧客ニーズとの乖離解消に至らなかった」(高橋氏)。商品改革における利益率の改善や為替差益を原価計上したことで増益になったが、今後の改革では環境変化に対応しながら、リアルエージェントとしての強みを発揮する商品造成・販売体制への移行を推進していく。

法人事業は売上高が4112億円(12.0%増)、営業利益が87億円(20.0%増)で、増収増益。ラグビーW杯や東京五輪に向けた先行投資を実施しながらも、MICEをはじめとするソリューションビジネスが評価され、堅調な推移となった。

グローバル事業は売上高が34%増の2281億円だが、営業損失が57億円で、赤字幅が昨年より拡大した。M&Aによる事業規模拡大で売上げは大幅に伸びているが、利益面では欧州などでの先行投資による赤字が続いており、経営改革のめどとする2022年までに黒字化となる営業基盤を構築していく方針だ。

2019年度は、売上高は1.3%減の1兆3500億円、営業利益は42.9%増の90億円、経常利益は233.3%増の100億円で、当期純利益は54億円を目指す。ゴールデンウィークや年末年始の日並びの良さやラグビーW杯、G20 などでのMICE事業、安定の法人需要により増収を見込むが、経営改革で一部残っているグループ会社や店舗網の整備などの影響で、わずかに減収を見込む。

2年目に入る経営改革では、総要員の抑制や人材の再配置、店舗のスクラップ&ビルドなど経営資源の最適化や重点事業領域への投資サイクルを加速。あわせて、OTAとの提携によりオンライン販売を強化する一方、店舗ではスタッフとの相談や付加価値の高い旅行を望む需要への対応にシフトさせ、主力の個人旅行事業でもソリューションビジネスを強化する。単年度で利益目標を確実に達成させることを最優先課題として取り組んでいく。

なお、高橋氏は5月24日の決算取締役会で内定した役員人事についても、「経営改革の実効性を高め企業価値の向上を推進するためにコーポレートガバナンスの強化を図った」と言及した。

旅行部門別の売上高