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カナダ観光の視察ツアーに参加してきた、冷戦時代の核シェルターから都会でできる先住民文化体験まで【写真】

カナダ東部のオンタリオ州のなかでも首都のオタワからトロント間の東オンタリオは、英領時代からの歴史が色濃く残る。2019年5月下旬に開催されたトレードショー「ランデブーカナダ(RVC)2019」で実施された旅行会社向けの東オンタリオ視察ツアーには、アメリカ、英国、イタリア、中国、台湾、日本、韓国、インドなどから、団体、パッケージツアー、個人旅行(FIT)までさまざまな担当者が参加し、東オンタリオの観光プロダクトを視察した。

首都オタワの3つの歩き方と都会でできる先住民文化体験

東オンタリオを巡る前提として、その歴史に触れておく。もともとは先住民の住む地にフランス人が入植、その後、英国統治下で流入した親英派のロイヤリストがフランス系とは別に英国コミュニティを形成した。そのため、オタワを挟み、セントローレンス川上流のアッパーカナダ(現オンタリオ州)と下流のロワーカナダ(現ケベック州)に分割されるが、アメリカに対抗するために再統合、カナダの自治へとつながっていく。アッパーカナダだった東オンタリオではカナダにおけるロイヤリスト側の歴史が見られることになる。

出発地となったオタワはオンタリオとケベックの州境にあるカナダの首都。位置的にもまさにふたつの文化の架け橋となっており、英仏二か国語が常用されている。シンボルの国会議事堂、世界遺産のリドー運河、国立の美術・博物館などの見どころがあるが、今回、2階建て周遊バス、レンタサイクル、ウオーキングツアーの3つを体験。説明を聞きながら主要な見どころを回るホップオンホップオフバスはオープンエアの2階席からの眺めがよく、写真を撮るのに最適。2時間のオタワウオーキングツアーはカナダやオタワの歴史からノヴァ・スコシア銀行の建築まで数々のエピソード聞け、ヨーロッパの参加者は地元ガイドの話に聞き入っていた。

なかでも水辺の街オタワを感じられる体験がリドー運河のサイクリングだ。アメリカと接するセントローレンス川に代わる水路として建設された運河はオタワ川とともに市内をつらぬき、冬は天然のスケートリンクになるなど、オタワの象徴でもある。水路に沿ってダウズ湖まで往復11kmの自転車道を走ったが、5月末の湖畔は色とりどりのチューリップが見頃を迎えていた。サイクリングしたり、ベンチでのんびりしていたり、オフィス街とは違うオタワの人たちの日常を垣間見られる。

首都であるオタワには、隣接するケベック州ガティノーも含めた首都圏内に国立の美術・博物館7館が集まる。カナダ国立美術館は、先住民による伝統工芸からグループ・オブ・セブンと呼ばれる1920年代に活動したカナダの画家の作品群までカナダアートの充実したコレクションはカナダ観光局がリストアップするカナダならではの体験「カナディアンシグニチャー・エクスペリエンス(CSE)」のひとつにもなっている。

ケベック側にあるカナダ歴史博物館は北西沿岸部先住民のトーテムポールが圧巻のグランドホールがCSEになっているなど、先住民に関するコレクションは随一。同館では先住民文化体験プログラム「インディジネスエスクペリエンス」も団体向けに実施しており、こちらもCSEのひとつだ。先住民の伝統的な暮らしについて説明を受けた後、オンタリオやユーコンなどの先住民の文化アンバサダーたちが伝統舞踊を披露。最後には質疑応答もあり、どうやって踊りを身に付けたかなど率直に話してくれた。楽器の演奏やドリームキャッチャーを作る各種ワークショップ、オタワ川での伝統的なカナディアンカヌーの体験も提供している。いずれも街の中心地でできる貴重な体験となる。

オタワ郊外 ―核シェルターに19世紀の村、風向明媚なサウザンドアイランド

オタワ郊外にもユニークな見どころがある。オタワから38km西に、冷戦時代のカナダ政府が作った核シェルターがディーフェンバンカー冷戦博物館として公開されている。当時の首相ジョン・ディーフェンベーカーにより1961年に作られ、1994年に閉鎖するまで、有事のために535人、30日間分の食料がストックされていた。首相の寝室や執務室、閣議室など危機管理の面からも興味深い。ユニークベニューとして各部屋の貸し出しもしており、20~420人に対応。そこから1km北に、バイオダイナミック農法でピノノワールとシャルドネを作る家族経営のワイナリー、キンビンヤードもあり、テイスティングの組み合わせも可能だ。

オタワから南に90kmにある、アッパーカナダビレッジは親英派ロイヤリストたちの1860年代の暮らしを再現した野外博物館。セントローレンス海路の人工湖建設により水没した村々から移築された建物を中心に40軒が村を形成する。当時の製法を見せるチーズファクトリーやベーカリー、ほかにもホウキ店から雑貨店、製材工場など、各建物内に当時の衣装を身に付けたガイドが説明してくれる。ウイラーズホテルという92席あるレストランではビクトリア時代のアフタヌーンティーも提供。ロケ地やイベント会場としても使われるそうだ。

オタワからトロント間にあるアトラクションといえばアメリカとの国境にあるセントローレンス川のサウザンドアイランドクルーズだ。1000もある島に大小さまざまな別荘が建ち、風光明媚なクルーズが楽しめる。発着地のひとつ、オタワの南西156kmにあるロックポートから出る船は1時間の乗船で最大の見どころ、ハートアイランドにあるボルト城まで往復できる。さらに西22kmにあるもうひとつの起点、ガナノクエからボルト城へは2時間半となり、キングストン側からのクルーズはまた違う景色が見られ、さまざまな組み合わせができる。

東オンタリオに張り巡らされた水路を楽しむ新しいプロダクトとして、高級ボートでのカナルクルージングがある。ヨーロッパのカナルクルーズ専門のル・ボートが昨年カナダに進出、高級ボートで世界遺産のリドー運河沿いのシーリーズベイ、さらに60km上流のスミスフォールズを拠点に、片道3泊からボートを提供。運河沿いの小さな町々に立ち寄りながらの静かな旅は、免許入らずで操縦が楽しめる。ボートは5つあるキャビンにそれぞれベッドとトイレが付きで2~12人が泊まれ、台所やBBQ設備も装備され、家族やカップル、小グループの特別な旅によさそうだ。

食がトレンドなる古都キングストンとプリンスエドワードカウンティ

オンタリオ湖の北側、リドー運河とセントローレンス川の起点にあるキングストンは、かつては水運の拠点で、1841年から3年間カナダの首都だった。川向こうのアメリカとの近さゆえ、ビクトリア女王はここでなくオタワを首都に決定。英国統治時代に作られた石灰岩の建物が今も残る通称ライムストーンシティの人口は約11万人。その経済基盤は政府・軍事関連、教育、観光で、大学が3つもあるため若者も多く活気がある。

政府関連施設で比重を占めるのが刑務所と更生施設。オンタリオ州はカナダでも人口が多く、トロント、含め過去には最大10の更生施設があった。その中で、1835年にアッパーカナダの刑務所として開所し、2013年まで利用されていたキングストン刑務所は博物館となり、かつてそこで働いていた元刑務官らがエピソードを交えながら解説してくれる。

要塞跡のフォートヘンリーも19世紀の歴史を伝える需要な場所。1812年の米英戦争のときにオタワへの輸送ルートであるリドー運河をアメリカから守るために建造された。団体には制服を着た将校が士官宿舎などを案内してくれるが、ハイライトは兵士のパレードと大砲の打ち鳴らし。夜はこの要塞で起きた怪談話を暗闇のなかで聞くホーンテッドツアーにも利用され、国定史跡でもある施設を最大限に観光に活用するアイデアには感服させられる。

キングストンで今賑わっているのがレストランで、フードツアーが人気だ。人口比でのレストランの数が多く、メキシカン、イタリアン、トルコなどの各国料理が本格的な味、洗練されたプレゼンテーションで提供されるなどレベルも高い店が中心地に集中し、ハシゴしやすい。キングストンフードツアーが厳選する旬なレストランは全てベジタリアンの選択肢があり、各種の食事制限も事前に伝えることで対応しているという。

街の主な観光ポイントは案内付きの赤いトロリーバスが循環しており、団体用に貸し切りも可能。また、キングストンではセントローレンス川を周遊する船内で現地サプライヤーとのミーティングの機会も設けられ、効率的なビジネスクルーズ体験もできた。

キングストンから西に90km、プリンスエドワードカウンティ(PEC)は野菜や果物の生産地として知られ、最近は地元産ワインが注目されている。石灰質の土壌がワインづくりに適しているそうで、現在ではワイナリーも40以上に増えている。今回訪れた、2004年開業のハフエステイトはテイスティングやワイナリーツアーのほか、レストラン、21室の部屋や会議室も備え、幅広い受け入れが可能となっている。ここから北に20km、果樹園のキャンベルズオーチャードでは25種類のリンゴを育てており、団体向けにトラクターで農園内を巡るツアーを行なっている。リンゴのお酒、サイダーも生産しており、メイプルシロップ入りサイダーはカナダらしい一品だ。

PECの中心地、ピクトンにあるマコレーヘリテージパークでは、今回の視察のために歴史や文化を知るワークショップが実施された。そのひとつ、南東オンタリオの先住民タインディナガ族のアーティスト、ジャニス・ブランド氏による伝統的な製粉のデモンストレーションでは、代々継承された特別な石で乾燥トウモロコシや豆を挽く過程を見せてもらった。ブランド氏によると「石を含む万物にスピリットがある」そうで、神聖な気持ちで参加者も石挽を試した。ワークショップはほかに歴史的建造物マコーレーハウスの謎解きやウェルシュケーキ作りなども行われた。

PECからトロントへは西に約185km、車で2時間ほど。オタワからトロントの間には豊かな水路が織りなす景色があり、大切に守られた歴史が各地で観光資源となっている。大都市だけではわからない奥深いカナダの姿が見られる。

トロントフードツアーズ社が構築する店とツアー会社のサステナブルな関係

RVC2019の開催地となったトロントでも半日の視察ツアーが行われた。参加したのは「ヒストリック・トロントフードツアー」。CNタワーにある世界一高いワインセラー訪問後は、シェフのスコット・サボイ氏が主催するトロントフードツアーズのツアーに参加、流行発信地のディスティラリー地区でオーガニックや地産地消にこだわる店々を訪ねた。

ベーカリーでサンプルサイズでなく、1人1個出てきたので、参加者が驚いていると、スコット氏は「各店への飲食代は団体割引ではなく、正規料金を払っている」と明かした。「団体値引きしてもらうと長く続けるうちに店側の対応も悪くなるので、お互いのためにならない」とスコット氏。店側の立場にも配慮するのはシェフならではだが、サプライチェーンの誰かが犠牲になることなく、長く継続するための関係が築かれている。

ディスティラリー地区で訪れたカェ、スイーツ店やデリ、チョコレートショップ、レストラン、蒸留所など、こだわって作られる飲食は質も高い上、スタッフも好対応で、参加者の評判も上々だった。