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韓国の観光地は今どうなっているのか? 大韓航空が実施した日本の旅行会社向け視察旅行で現地取材した

大韓航空は韓国観光公社(KTO)、ロッテホテルの協力のもと、2019年10月3日~4日の日程で、日本の旅行会社を対象にした研修旅行を実施した。昨今の両国間の情勢で相互の旅行需要が停滞していることを受け、韓国旅行を盛り上げようと企画したもの。大韓航空は現在の需要動向に応じ、日本/韓国間の運航便数を10月1日現在、週間171便(6月1日時点では223便)に減便している。この状況のなか、東京、大阪、名古屋、福岡の旅行会社から約20名のスタッフが参加し、ソウルや近郊観光地の状況と新スポットを視察した。

日本/韓国間の観光の現状

往路で搭乗したのは、成田/仁川線のKE706便(9時15分発/11時45分着)。機内は空席があるとはいえ、見つけるのが難しい程度に埋まっており、それは帰りの便でも同様だった。大韓航空によると、成田と羽田の東京路線は需要があり、高稼働を維持しているという。

ただし、東京以外の地方路線は状況が異なる。地方都市からの参加者によると、搭乗した便では空席が目立ち、席の埋まり具合は「4~5割程度だったのでは」と話す人もいた。もともと地方路線は、ゴールデンルート以外への旅行を希望する韓国人旅客が多勢だった影響も大きいのだろう。直近の統計で韓国人の訪日旅行者数は、2019年8月で前年比48%減の30万8700人とほぼ半減しており、9月以降はさらに厳しい推移が見込まれている。

一方、同月の日本人の訪韓旅行者数(KTO発表)は、前年比4.6%増の32万9652人で前年を上回った。ただし、日本人の訪韓旅行は2017年の北朝鮮のミサイル危機などの反動で、2018年ゴールデンウィーク以降はほとんどの月で2~6割増で推移してきた。このV字回復基調を踏まえれば、韓国発需要ほどのインパクトはないとはいえ、日本人の訪韓旅行者数も一転して減少傾向になっている。

航空データを提供するOAG社によると、2019年の日本/韓国間の航空座席数は前年比3%~7%増の100万席~120万席の間で推移していたが、9月に15%減(日本発韓国行きが90.5万席、韓国発日本行きが90.7万席)に。10月以降は2~3割減とさらに減少し、76万席~86万席程度(片道ベース)になる見通しだ。

ただし、大韓航空では2019年冬期スケジュール(2019年10月27日~3月28日)で一時的な増便を含め、週間204便にまで回復させる予定。また、KTOでは10月4日から日本のメディアを招致したプレスツアーを実施している。現在、韓国旅行の広告展開などは状況を見て控えているとはいえ、日本市場向けの誘致活動は続けている。こうした取り組みが、双方向観光の回復へのきっかけになることを期待したい。

街はいつもの雰囲気

視察旅行では、現地の状況を取材した。

初日のソウルでは、いま最もホットスポットだという弘大(ホンデ)と、韓国の伝統的家屋・韓屋(ハノク)街が残る益善洞(イクソンドン)、KTOが2016年にオープンした観光案内センター「K-Style Hub」を訪問。夜の自由時間には、宿泊した「ロッテ・ホテル・ソウル」から徒歩で行ける人気スポットの明洞(ミョンドン)も訪れ、街の様子を見てきた。

訪れた10月3日が韓国の祝日「開天節(かいてんせつ:ケチョンチョル)」ということもあり、どのスポットも観光客で賑わっていた。訪れた街中では「NO JAPAN」のバナーや、店頭に「日本人お断り」の張り紙は見当たらず、時折、日本人観光客が歩いている姿も。

店で買い物をするときなども、筆者が以前と訪れた時と同じく親切な対応で安心した。興味があったり、好きな場所だから行く旅行先で、拒絶を示されたり、冷遇されたりすることほど、悲しく、惨めな気持ちになることはないが、筆者が歩いた街並みや訪れた店舗では、そのような経験をすることはなく、通常通りの旅行ができている印象があった。

翌日のソウル近郊への旅行では、さらにその印象が強くなった。今回はソウルから1時間半ほど、仁川広域市の北西に位置する江華島(カンファド)を訪れるKTOの日本人向けツアーバス「ご当地シャトル」の行程を体験。

バスのコースのうち、DMZ越しに北朝鮮を見渡せる「江華平和展望台」と、伝統の綿織物の「ソチャン体験館」、モクズカニのしょうゆ漬け定食の昼食、繊維工場を改修した「朝陽紡績(チョヤンファンチック)カフェ」、風土に恵まれた江華島の特産品が並ぶ「江華風物(プンムル)市場」を訪れたが、日本人であることを特別視されるような経験はなかった。

もちろん、訪れたのは日本人向けのツアーバスの訪問先で、日本語ガイドが日本の旅行会社を連れて来ていることが受け入れ先にも知られているわけだが、なかには朝陽紡績カフェや市場のそばのスーパーなど、周囲は事情を知らない地元の人が多い場合もある。それでも、日本語で話をしたり、買い物をしていても、取り立てて気に留められることもなかった。

いま、韓国ではレトロブーム。昔の建物をリノベーションして店舗や観光施設に利用するのが流行っており、「朝陽紡績カフェ」にもソウルから車で多くの人が訪れていた。ソウル首都圏にありながら人口6万9000人の江華島は、気軽に韓国の地方の雰囲気が楽しめるデスティネーションだ。

視察に参加した旅行会社のスタッフによると、韓国旅行を巡る日本人の動向は次の3つのケースに分かれる。(1)気にせずに韓国旅行に出かける、(2)韓国旅行を中止する、(3)行きたいけれど不安なので、韓国旅行を諦める。販売される商品別でいうと、航空券や宿泊などのオンライン販売に比べ、旅行会社のパッケージツアーの影響が大きいという。

特に(3)は、ツアー参加を希望するシニア層の顧客に多い反応だというが、韓国旅行を希望しながら諦めようとしている人には、当初発信されたセンセーショナルな状況とは、印象が異なる現状を伝えることができるそうだ。旅行会社の顧客のなかには不安が払拭されないまでも、現地ガイドがいることに安心感を持って旅行に出かけ、「心配するようなことは何もなかった。行ってよかった」と笑顔で報告された方も多いという。

さて、研修旅行初日の10月3日は日本でも報じられた通り、韓国で現法相退陣を求める大規模デモが発生し、視察団も移動中にその様子を目の当たりにした。日本の報道で数十万人~数百万人の規模だ。大型バスをチャーターして地方から参加したグループも多いと聞き、デモの行なわれた道路の路肩に続く大型バスの列に、韓国国民の政治に対する情熱がうかがい知れた。

このほか研修旅行訪れた、韓国で注目の観光スポットを以下に写真で紹介する。

▼益善洞(イクサンドン)

益善洞には、韓屋をリノベーションした飲食店やカフェ、ブティックなどが並ぶ。1930年代の小さな韓屋が多く、こじんまりとした小路におしゃれな店舗が並び、韓屋街で人気の北村(プッチョン)、西村(ソチョン)とはまた違った雰囲気。写真は韓屋カフェ「ミダムホン」。座敷席もあり、家族のお祝いなどでも利用されるという。

▼弘大トリックアイミュージアム

弘大トリックアイミュージアムには、ARを活用したトリックアートを中心に、VR体験や氷の「アイスギャラリー」、19歳以下は入場不可の「ラブミュージアム」もある。訪問当日は、中国系の観光客が多く訪れ、賑わっていた。写真はARのトリックアートで、火山の絵に専用アプリを入れたスマホをかざすと、勢いよく噴火し始めた。

▼K-STYLE HUB

K-STYLE HUBは、KTOが2016年にオープンした観光案内センター。カフェを併設する2階では、人や資料による案内だけではなく、VRなどを使用した体感的な観光案内や医療観光案内を実施。3階~5階では、韓国食文化を知る展示館や韓国料理のクッキングクラス、韓服試着や工芸の体験なども可能。写真は韓流スターと一緒に写真が撮れる仕掛け。

▼ロッテ・ホテル・ソウル

ソウルの高級ホテル「ロッテ・ホテル・ソウル」。2018年9月には新館をリノベーションした「エグゼクティブタワー」をリニューアルオープン。ソウルで最高品質の6つ星クラスのホテルとして営業。

▼江華(カンファ)平和展望台

KTOのご当地シャトルで、ソウルから1時間半程度で来れるDMZの江華平和展望台。北朝鮮の開城(ケソン)工業団地まで約18キロの距離にある。ご当地シャトルはKTOが日本市場向けに2014年に開発。徐々にコースを拡大し、現在はソウル発と釜山発の計5コースで運行。ツアー実施会社は入札制で、現在はハナツアーが運営。

▼ソチャン体験館

江華島の「ソチャン」とは同地の伝統的な綿織物。最盛期の1970年代にはこの地域に130もの織物工場があり、4000人の労働者が働いていた。そのうちの1つの工場跡をKTOと江華郡が買取り、リノベーションして観光施設に復活。ツアーでは、ソチャンに江華の特産品をかたどったスタンプで色付け、ハンカチを作る体験が可能。

▼ご当地シャトルのランチ

ご当地シャトルは、地域の文化と歴史、地元グルメが楽しめるコースとし、料金もリーズナブルに設定。例えば、今回のコースは7000円だが、韓国料理店「菊花湖水」での昼食・モクズカニのチャムケジャン(しょうゆ漬け)定食だけで定価2万2000ウォン。カニ汁と地元名産のコシヒカリの釜飯と高麗人参の甘い漬物を含む各種おかずも含まれる。

▼朝陽紡績カフェ

かつてのレーヨン工場を改築したカフェ。広大な敷地内には、工場を利用した広い室内のカフェスペース(記事内写真を参照)のほか、屋外にもレトロな雑多感のアートが点在し、独特の雰囲気がユニーク。ソウルから多くの来店があり、行列もできていた。

▼江華風物(カンファプンムル)市場

3つの川が流れ、昔から土壌に恵まれた江華島は、産業の6割が農業という恵まれた土地。コシヒカリをはじめとする米や高麗人参、紫色のカブ(スンム)、切り口がカボチャのように黄色いサツマイモなどが特産で、江華風物市場にはこうした食材や、それらを使用した総菜店、食堂が揃う。店主の笑顔が印象的な案内灯にも注目。

取材・記事 山田紀子