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市場失速の今こそ、観光関係者は「撤退戦の準備」と「反撃のための戦略立案」を【コラム】

こんにちは。観光政策研究者の山田雄一です。

観光市場の減退やライフサイクル変化、「異常な暖冬」に加え、「新型コロナウィルス」の感染拡大で、状況は悪化の一途となっています。いわば、失速気味だった市場に対して、「追い打ち」を3連発くらい食らわせる状態となりました。

本日は、いまこの状況で観光産業にいる我々が検討すべきことを考えてみたいと思います。

参考:訪日客数の「減退期」到来か、2020年に備えるべき打ち手をまとめてみた【コラム】

「すべて忘れる」トレーニングを

ここまで悪条件が重なれば、市場のライフサイクル変化は「ほぼ確実」であり、パラダイムは大きく変化したと考えるのが妥当です。

よって、関係者の皆様は、ここ数年の好況感は「すべて忘れる」トレーニングを開始すべきです。

以前から観光事業に取り組んでいる方々は、リーマンショック時の打撃を思い返してもらえればと思います。一方で、この数年、インバウンド景気に乗ってきた方々におかれては、なかなか想像が難しいと思いますが、「ここ数年の常識が全く通用しない時代」に突入したとお考えください。

今回の新型コロナは、ここ数年で構築してきた、様々な枠組みを崩壊させるインパクトを持つに至っています。無限に続く疾病はありえませんから、疾病そのものは数ヶ月で「対処可能」となるはずです。しかしその数ヶ月が社会経済に与える影響は甚大でしょう。

まず「投資マネー」が観光を回避するようになるに違いありません。近年、国際旅客の増大によって、観光産業は成長産業として投資マネーの投資先となってきましたが、需要に対する危惧により、これに急ブレーキがかかることは必至と思われます。

その肝心の需要は、東アジアの経済成長、特に製造業のサプライチェーンによって支えられていましたが、今回のコロナによって、様々なチェーンが寸断され、この回復には相応の時間が必要になると思われます。かつて、阪神大震災によって神戸が東アジアの物流港の地位を失ったように、チェーンそのものが再編される可能性も想定すべき状況だと言えます。

国内に目を向けると、今回の混乱によって、需要減は避けられない状態にあります。なぜなら、すでに2019年の10~12月期は年率換算6.3%減と大失速状態にあり、これに暖冬と新型コロナが重なって、明るい展望を持つほうが厳しいからです。

特に、観光分野は深刻です。もともと、疾病系は観光分野において、幅広いセグメントに大きな影響を与えます。それに加え、今回は国内でも移動と集会の禁止令が出ているような状態になっていることを考えれば、大きな需要減は避けられないでしょう。

ここ数年の観光好況によって、宿泊施設などの整備は進んでいますので、需要減が顕在化すると、供給過剰状態に突入します。供給過剰状態であった2000年代を思い返してもらえれば分かるように、大混乱の時代に突入することが容易に推測されます。

「競争戦略の基本」に立ち返れ

繰り返しになりますが、率直なところ「明るい展望を描きようがない」状況と言えます。この場合は、競争戦略の基本に立ち返る必要があります。というか、それしかないでしょう。

競争戦略の基本は、リーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワーですが、市場縮小期には、事実上、チャレンジャーは機能しません。リーダーが価格戦略に取り組んだら、チャレンジャーは対抗できない(差別化できない)からです。

結果、価格戦略を展開する大手と、隙間をつくことで領域確保するニッチャー、そして、投入コストも抑制するが成果も期待しないというフォロワーという図式となります。

どの戦略を採るのかを定め、それに取り組まなければ、中途半端な状態に陥ります。価格戦略を取るなら、体力勝負ですから、軍資金となるファイナンスは重要となります。ニッチャー戦略をとるなら、明確なブランディングと対応するターゲットの獲得が必要となります。これらを徹することができなければ、疲弊が待っています。

「地域」と「施設」の競争戦略に違い、DMOの方向性が肝要に

さらに厄介なのは、地域単位での競争戦略と、施設単位の競争戦略には違いがあるということです。

価格戦略を展開する「大観光地」でも、ニッチャーとして差別化し、単価確保に走る施設もあれば、地域競争力同様に、施設単位でも価格競争に出る施設もあるということです。

市場環境が厳しい状態では、まずは地域をデスティネーションとして認知させることが重要ですが、それを「戦略」として有効に機能させるのはDMOです。そのDMOの戦略の方向性を踏まえつつ、個別施設は協調が自身の戦略を上乗せするしていくことが望ましい姿です。

厳しい市場環境において、デスティネーション(地域)の競争戦略をどう設定するのか。その上で、個別施設はどういう競争戦略を建てるのか。2つの戦略は、互いに従属関係にあり、うまく組み合わされなければ有効に機能しないからです。

新型コロナがいつまで続くのか。そして、それを原因とした社会経済の混乱がどこまで続くのか。ダメージからの回復にはどれくらいかかるのか。

これらは、現時点では、全く想定することが出来ません。

大変厳しい状況ではありますが、我々は前に進まなければなりません。

来たるべき反撃を実現するためには、まず、現状では出血を防ぐことが重要です。すなわち、撤退戦を展開しつつ、反撃ポイントを探り、有効な反撃手段を展開することが求められると考えられます。

ここ数年の「常識」を捨てつつ、DMOを介在させたパートナーシップ体制による戦略立案に取り組んでいくことが重要なタイミングとなっていると思っています。

【編集部・注】この解説コラム記事は、執筆者との提携のもと、当編集部で一部編集して掲載しました。本記事の初出は、下記ウェブサイトです。なお、本稿は筆者個人の意見として執筆したもので、所属組織としての発表ではありません。

出典:DISCUSSION OF DESTINATION BRANDING.【緊急】撤退戦の準備を

原著掲載日:2020年2月27日

山田 雄一(やまだ ゆういち)

山田 雄一(やまだ ゆういち)

公益財団法人日本交通公社 観光政策研究部長 主席研究員/博士(社会工学)。建設業界勤務を経て、同財団研究員に就任。その後、観光庁や省庁などの公職・委員、複数大学における不動産・観光関連学部などでの職務を多数歴任。著者や論文、講演多数。現在は「地域ブランディング」を専門領域に調査研究に取り組んでいる。