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これからの観光政策と、本質的な「関係人口」のあり方を考察してみた【コラム】

こんにちは。観光政策研究者の山田雄一です。

ここ数年、我が国の観光政策はインバウンドと訪日旅行を主体に展開されてきました。

その背景には、人口縮小に直面し、従来の定住人口主体の地域振興が成立し得なくなったことから交流人口への注目が集まり、それが東アジア地域での海外旅行市場の盛り上がりによって火がついたという図式があります。

実際、航空旅客数は2009年を100とすると、2018年のアジア太平洋地域は250と急増状態にありました。そして、これら急増した旅客者は、米国やスペイン、そして、日本に押し寄せるようになっています。


ポスト・コロナの国際旅行

しかし、コロナはこうした枠組みを木っ端みじんに壊しています。

コロナ禍が収束すれば人々の往来は戻ってくるでしょうが、従来と同じというわけにはいきません。

ビジネス需要はデジタル化、オンライン化されることで、大きく減退するでしょうし、観光需要も、ほぼ確実に発生するだろう経済クラッシュによって、相当量減退することになるでしょう。

さらに深刻と思われるのは、感情的な問題です。今回のコロナ禍が中国から始まったというのは、衆目の一致するところです。日本でも「旧正月のタイミングで入国規制をしていれば感染拡大は防げた」という指摘は少なくありません。

この事実関係はともかく、誰かを悪役として、その誰かのせいにして吐き出さないと、コロナ禍によって蓄積される多大なフラストレーションは、収まらないと思われます。

そうなった場合、仮にコロナ禍が収束しても、中国からの観光客を「気持ちよく」受け入れることができるかという問題が発生することになります。

また、現時点では、日本は欧米に比して感染者数や死者数を抑え込めているものの、東アジア地域内においては多めとなっています。今後、ワクチンなどが開発されたとしても、東アジア諸国の人から、感染に対する恐怖心は容易には抜けないでしょう。

他方、欧米はコロナ禍の被害が相対的に大きいですから、迅速な復旧は想定しにくいと言えます。しかも、嫌な想像ですが、前述のフラストレーションから、アジアに対する嫌悪感が蔓延してしまう恐れすらあります。

さらに、コロナ以前から、日本は「安売り」で問題となっていたため、価格競争による集客は厳しいですし、仮に展開可能であったとしても、それをやってしまえば、何のための観光振興なのかという問題にぶち当たることになるでしょう。

こうしたことを考えれば、当面の間「インバウンド」を観光の柱にセットすることは困難と考えるべきです。

「国民の福祉の向上」への回帰

一方で、訪日客の増大を当て込んで、日本各地は観光客の受け入れキャパを増やして(ストックを作って)いるため、その活用は重要な課題です。さらに、少子高齢化の進む日本において、サービス経済社会に切り替え、原価積み上げではない価値創造、すなわち観光振興を行っていくことは、現在の、そして、将来の日本にとって重要です。

私は、インバウンドを全面に出せない中で、観光振興の灯を消さずに行くには、国レベルの観光政策の目的を「国民の福祉の向上」に戻すことが必要ではないかと考えています。

戦後、日本が国をあげて観光振興を行ったことが3回あります。

そのうちの2つは、高度成長期のレジャーブーム、バブル期のリゾートブームですが、これらはいずれも、首都圏住民を主体とした国民生活の質的向上を目的としていました。

例えば、通称「リゾート法(総合保養地域整備法)」の第1条では、以下のように目的が規定されています。

また、現在の観光立国推進基本法においても、その理念は第2条で、以下のように規定されています。

  1. 観光立国の実現に関する施策は、地域における創意工夫を生かした主体的な取組を尊重しつつ、地域の住民が誇りと愛着を持つことのできる活力に満ちた地域社会の持続可能な発展を通じて国内外からの観光旅行を促進することが、将来にわたる豊かな国民生活の実現のため特に重要であるという認識の下に講ぜられなければならない。
  2. 観光立国の実現に関する施策は、観光が健康的でゆとりのある生活を実現する上で果たす役割の重要性にかんがみ、国民の観光旅行の促進が図られるよう講ぜられなければならない。
  3. 観光立国の実現に関する施策は、観光が国際相互理解の増進とこれを通じた国際平和のために果たす役割の重要性にかんがみ、国際的視点に立って講ぜられなければならない。
  4. 観光立国の実現に関する施策を講ずるに当たっては、観光産業が、多様な事業の分野における特色ある事業活動から構成され、多様な就業の機会を提供すること等により我が国及び地域の経済社会において重要な役割を担っていることにかんがみ、国、地方公共団体、住民、事業者等による相互の連携が確保されるよう配慮されなければならない。

すなわち、国の観光政策の目的の基本には、国民自身が行う観光の振興があるのです。

この基本に立ち返り、国内需要をしっかりと「育て直す」ことが必要ではないでしょうか。

観光に行きたい人が行ける世界へ

具体的には、経済状況(懐具合)によらず、観光に行きたいと考える人々が行くことができるように、様々な仕組みを変えていくことだと考えています。

例えば、私がコロナ禍への対策として提唱している旅行減税は、この「国民の福祉の向上」にも合致するものです。

所得税の20%までも控除するというのは緊急対策としても、これを10%、5%と下げてでも、恒久的な減税措置とすれば、国民の観光需要の基礎を支え、観光の高付加価値化へ誘導していく仕掛けともなるからです。

ただ、所得税控除を利用する以上、所得税額が低い=所得が相対的に低いセグメントにおいては、有効に機能しません。おおざっぱによって、額面年収が450万円(所得税10万円)を下回ってくると、機能しないでしょう。

住民税減税も併用すれば、より低所得の人々にもリーチできますが、「観光に行くことができる権利」は、国が支援すべきものですから、自治体の歳入となる住民税に手を出すのは「筋が違う」と言えます。

所得層に向けては、旅行クーポンの設定が有効であると考えています。

私は、経済対策としての旅行クーポン(プレミアム旅行券)には否定的な立場ですが、「国民生活の質的向上」「観光を行う権利」の担保のためには、その限りではありません。

さらに、この旅行クーポンを、単なる割引券ではなく、利用できる地域と期間をあらかじめ設定しておけば、観光地側の生産性向上にもつなげていくことができます。端的に言えば、オフシーズンに利用できるようにすれば、観光地の繁閑調整と、「観光を行う権利」を組み合わせることができるのです。

これは、スペインなど欧州で行われているSocial Tourismの概念であり、輸出産業としての観光サービスの商品化(高額化)によって、地元住民の観光活動が阻害されることにたいする社会制度とも符合します。

従来、観光地の閑散期対策は、MICEが担っていましたが、コロナ禍によって、MICEが相当期間、打撃を受けることになります。Social Tourismは、その代替策ともなるでしょう。

関係人口の制度化

さらに、個人的に展開して欲しいと思っているのは、定住と観光の間となる半定住の促進です。

総務省的に言えば「関係人口」ということになりますが、総務省の関係人口は、地域づくりのコミットメントを求めている点が、過大な期待だと思っています。

私個人は、20代の頃から「まちづくり」「地域づくり」に関連した仕事をしています。また、必要に迫られて子供の関係で学童クラブの経営に関わり、地元の児童福祉の渦中にいたこともあります。しかしながら、これはかなり「特殊」な例であり、多くの人々は、自身が「定住」している地域においてですら「地域づくり」に関わってはいないでしょう。

それを考えたら、自分が定住しているわけでもない、どこか別の地域の「地域づくり」に関わるというのは、かなりのハードルとなります。

一方で、デジタル、オンラインの発達によって、場所を選ばない「職」が増えてきています。また、テレワークの普及もまた、職と住との関係を希薄にしていきます。今回のコロナ禍も、それを加速化させるでしょう。

つまり、地域が魅力的なところであれば、最新技術を使いこなし、経済力も高い有為な人材を獲得することが可能な時代となってきています。

こうした人々は、移り住んできても、何十年も住んでくれるとは限りません。数年だけかもしれませんし、そもそも住民票も移さず、都心部と行き来するような人たちも多いでしょう。

ただ、こうした「地域に魅力を感じて住みたい、滞在したい」と思うような人々が、本来的な関係人口なのではないでしょうか?

とはいえ、単に「住む」だけ。それも、住民票も移さないとなれば、地域(行政)にとってメリットは乏しくなります。もちろん、滞在することによる飲食などの消費は発生するにしても、行政としては、むしろコストアップ要因ともなりかねません。

となれば、より直接的に関係人口を獲得することが、地域(行政)のメリットにつながるような仕組みに変える必要があります。

例えば、自治体の財政規模を算出する基準財政需要額において、定住人口だけでなく、関係人口を変数の一つにする。地域に居住用不動産(セカンドハウス)を持っている人は、住民税を分割納入が可能となり、それが(法定外税やふるさとの納税のように)基準財政収入額の枠外となるなど。

こういう制度が整ってくれば、関係人口を増大させることが自治体の財政規模を拡大させることにもつながり、地方の閉塞感を解消していくことができるでしょう。

「関係人口」をどのように定義するのかという問題はあるでしょうが、定住人口と来訪者の間、半定住するような人々を法的に定義し、それを自治体行政と接続することができれば、地域振興のあり方や目標設定は、また変わっていくことになるのではないでしょうか。

そうした仕組みの変更とあわせて国内需要を新ためて見つめ直し、国民生活の質の向上につなげていくことが重要だと考えています。

観光政策の再デザインが必要

今回のコロナ禍は、観光需要を大きく変えていくことになるでしょう。

こうした環境変化に、世界中の観光リゾート地が対応していくことになります。

もちろん、その競争に対応していくことも重要ですが、どんなに有効なマーケティングを展開したとしても、いきなり3000万人インバウンドが戻ってくることはありえません。コロナ禍によって傷んだ様々なものを修復しながら、数年かけて戻していくことになるに違いありません。

コロナ以前の「観光」は、量的には絶好調でしたが、足元で、いろいろな問題も生じていたのも事実です。

今回のコロナ禍に伴い強制的に生じた「時間」を利用し、持続性をもった日本観光のあり方を考え、観光政策の再デザインを行っていくことが必要です。

そして、そのキーワードは、国内需要の「見つけ直し」にあると考えています。

【編集部・注】この解説コラム記事は、執筆者との提携のもと、当編集部で一部編集して掲載しました。本記事の初出は、下記ウェブサイトです。なお、本稿は筆者個人の意見として執筆したもので、所属組織としての発表ではありません。

出典:DISCUSSION OF DESTINATION BRANDING. ポスト・コロナの観光政策

原著掲載日:2020年4月6日

山田 雄一(やまだ ゆういち)

山田 雄一(やまだ ゆういち)

公益財団法人日本交通公社 観光政策研究部長 主席研究員/博士(社会工学)。建設業界勤務を経て、同財団研究員に就任。その後、観光庁や省庁などの公職・委員、複数大学における不動産・観光関連学部などでの職務を多数歴任。著者や論文、講演多数。現在は「地域ブランディング」を専門領域に調査研究に取り組んでいる。