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新型コロナ感染拡大で日本型統合リゾート(IR)は開業プロセスはどうなるのか? 公募延期の自治体も

政府の緊急事態宣言が発令され、深刻さを増す新型コロナウイルスの感染拡大。日本だけでなく世界全体の経済活動が停止している今、統合型リゾート(IR)のプロセスは予定通りに進むのだろうか。今後予定されている自治体での事業者選定、自治体から政府への申請、そして政府による地域選定は、今後どう進んでいくのか?トラベルボイス編集部では専門家の助言から、IR選定への現在の動きをまとめた。

2021年7月の申請に向け事業者選定を開始

2019年秋に政府はIRの基本方針案を公表し、パブリックコメントを募集した。この中で、2021年1月から7月までに自治体から国に申請するというスケジュールが示された。しかし、このスケジュールはまだ確定していない。当初1月中に基本方針が決定される予定だったが、秋元司衆議院議員の逮捕などでIRへの世論の風当たりが強くなり、基本方針の決定が先送りされたためだ。

それでも、IRの誘致を進める自治体は2021年7月の締め切り日から逆算し、スケジュールを立てている。多くの自治体では、2020年内に事業者選定をし、その後、選定した事業者とともに区域整備計画を策定。地方議会の同意を得て、2021年7月までに区域整備計画を国に申請する予定だ。

しかし、ここにきて新型コロナウイルスの問題が発生した。世界中が感染対策に忙殺される中、現実問題としてこのまま事業者選定は進むのだろうか。

公募手続きを延期した大阪・横浜、国会でも議論に

まず反応したのは、選定プロセスが最も進んでいた大阪である。3月27日、大阪府・市は、事業者選定の公募手続きを3か月延期することを発表した。日米間の往来が制限されているため、IR事業者との打ち合わせができないという理由だ。さらに、4月6日の毎日新聞のインタビューによると、大阪市の松井一郎市長から公募手続きの再延期を伺わせる発言も出ている。

横浜市もこれに続いた。4月15日、横浜市は実施方針の発出を2か月遅らせ、8月とすることを発表。国への申請期限が変わらない中、最大限後ろ倒しして2か月ということである。

国会でも、コロナ対応を理由に、IRのプロセスを見直すべきではないかという議論が交わされた。野党からは、「東京オリンピック・パラリンピックも延期した中でIRだけ予定通り進めるというのは違和感がある」、「スケジュールありきでは後に大きな禍根を残すのは間違いない」という声が挙がった。これに対して、国土交通省は現時点では国への申請期限の延期はないとしている。

コロナ禍でIR事業者と打ち合わせができない、規模縮小の恐れも

ところで、コロナ騒動により具体的にどのような不都合がIRの選定プロセスに生じているのか。

まず挙げられるのが、対面での議論ができず関係者間の交渉が進まなくなることだ。

日本は新型コロナウイルス感染拡大の水際対策強化として、4月3日から入国対象地域にマカオ・香港を含む中国、米国など49カ国地域を追加し、合計で73カ国・地域に拡大した。それ以前も海外出張は自主的に控えられており、実質的に海外のIR事業者と日本企業や行政とのやりとりは、2月以降極めて限定的になっていた。加えて日本でも4月8日から緊急事態宣言が発出され、国内での打ち合わせも行いづらくなっている。

もう一点は、経済活動が停滞しているため、IR開発の数千億から1兆円に及ぶ巨額の新規投資を決定しづらくなるということである。

IR事業者においては、海外のIR施設はほぼすべてが閉鎖されており、収入がない中、従業員の給与や施設維持費などのコストは毎日流出し続けている。コロナ騒動が収まっても、売り上げが戻るまでかなりの時間がかかるだろう。日本企業も業績が大きく悪化しており、巨額の新規投資をする雰囲気にない。金融市場も混乱し、IRという大規模投資に融資する余裕がない。

誰もが新規投資に及び腰であるため、今、IRを計画しても随分とスケールダウンしたものになる可能性もある。場合によっては、資金調達の目途が立たず、提案を見送る事業者も出てくるだろう。

今後、数十年間にわたり日本の観光産業、そして経済社会を大きく変えるとみられてきたIR。この行方は、想定外の新型コロナウイルスの出現により読みづらくなっている。

トラベルボイス編集部 IR取材チーム