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DMO(観光地域づくり法人)が今すぐ実践できることは? 「未来の訪問客サポート」から「地域の理解」まで、コミュニケーションで目指すべきこと【外電コラム】

小説「戦争と平和」を読んだことがあるだろうか? 今回のパンデミックが小説なら、同じぐらい分厚い本になるはずだ。旅客誘致に取り組む世界各地のデスティネーションにとって、今はまだ、物語の第一章が終わるくらいの段階で、エピローグはまだまだ先になりそうだ。

小説の中盤では、色々な混乱が続く。これまでとは異なるコミュニケーションへの脱却を急ぐデスティネーション・マーケティング担当者も多い。従来は、旅行の魅力をプロモーションするために、地域との関係強化やクチコミによる高評価を得ることが理想的とされていたが、いまや安全であると訴えつつ、地元コミュニティと観光ビジネスを支えられるかが重要になっている。

あまりにも多くのことが不確実だ。国内でも海外でも、旅行に関する規制は変更が多く、ツーリズムに対する世論の見方も移り気。マクロレベルでは、世界中がウイルス感染拡大を食い止めようと努力したことで、旅行需要は壊滅的に減退した。

すべてが旅行・観光ビジネスにとって逆風だ。従業員を解雇せざるを得ない経営者や、人員は縮小しているのに業務が増大中の企業も増えている。不安定な状況下では、DMOが発信するコミュニケーションのあり方も見直し、安全かつ責任ある旅行を目指す姿勢とそのための施策をアピールしなければならない。今までのやり方では立ち行かない。コミュニケーションやPR活動の目標を、現状に即した責任あるものに再定義する必要がある。

では、DMO(デスティネーション・マーケティング組織、観光地域づくり法人)が実践するべきコミュニケーションは、どうあるべきか?

個別のケースごとに、戦略的アプローチは異なってくるが、共通の課題として、以下のことを提案したい。

思考を明快にすることで、あなた自身や、あなたが率いる組織に必要なコロナ対策がはっきりしてくるだろう。安全、地域コミュニティ、そしてレスポンシブル・ツーリズム市場開拓が重要なポイントになる。

DMOのコミュニケーションが目指すべき3つの成果

1. 地域における健康対策の規則を、訪問客に確実に理解してもらう

地域を訪れる旅行者向けに、これまでも色々な啓蒙活動を行っていたと思うが、それと同じような取り組みだ。

例えば、訪れる人に「ゴミを残すな、環境に与える負荷について配慮を」と呼びかけていた地域なら、その経験から得た知見をパンデミック対策でも活用できる。健康に関するルールなどの情報に、誰でも容易にアクセスできて、内容もすぐ理解できるようにすることが担当者の責務だ。すべての旅行者が、デスティネーション側の要請をきちんと理解している状況が担保できれば、住民も安心して暮らせる。「現地を訪れる旅行者がやるべきこと」「現地について知っておくべきこと」について、疑問を解消しよう。

例えば、米国オハイオ州のダブリン会議観光公社では、シンプルな絵記号を採用し、誰もが知っておくべき現地における行動義務を分かりやすく示している。公式ウェブサイト(dublinsafe.com)では、ホテル、小売店、レストランなど業態別に、旅行者向けの注意事項を挙げている。最近、追加されたマスク着用の義務も、マスクの絵のダイアグラムを使って紹介している。

マスクの絵のダイヤグラム(www.dublinsafe.comより)

2. 規則が変更されたときの情報伝達方法を決めておく

先行き不透明な状況下では、次に起こり得る出来事に備えよう。良い方向と悪い方向、いずれのケースも想定しておくべきだ。頭の中を整理するために、複数のシナリオを想定し、DMOとしての対応策を考える。営業規制を緩和した後、再び厳格化する必要に迫られる自治体が多いことから分かる通り、しばらくの間、政府による制限内容の見直しは続きそうだ。

もう一つ、常にウォッチしておきたいのが世論の動きだ。観光客受け入れに対する地域側の想いは、ウイルスの感染状況により激変しかねない。7月現在、アメリカ人旅行者への調査結果で「来月にはパンデミックは改善している」と回答した人は全体の13.8%で過去最低レベル。3分の2は「さらに悪化する」と答えており、「過去3カ月、パーソナル・セーフティへの懸念が最も高かった」としている。

今後のシナリオを検討するなら「規制が強化されたら、または緩和された場合にどうする?」「政府がツーリズム復興への投資を発表したら、どう対応しよう?」「世論の感情を常に把握するには、どうするべきか」などの問いについて考えてみよう。

3. 未来の訪問客をサポートするカスタマージャーニー

DMOの役割の1つは、旅行の需要創出だ。こんな状況下でも、責任をもって旅行をおすすめできるだろうか。どのような方法なら、可能だろうか?

まず、旅客誘致におけるカスタマージャーニーの中で、各段階で主にどのようなコミュニケーションをとっているのか、現状を把握する。

カスタマージャーニー
1:認知(想像)2:検討(想像)3:意志決定(計画)4:購買(予約)5:旅行(体験)6:追体験(シェア)

次に、あなたの地域を訪れるかもしれない潜在的な訪問客に対して、今の状況なら、どのようなサポートがあったらよいか、ステージごとに検討してみる。例えばインスタグラムは、まだ「想像」している段階にある未来の旅行予備軍が主なターゲットだとする。人々の関心をひくものに感度が高いと自負しているなら、魅力的な画像を投入するのも一案。広々とした野外の風景なら、ソーシャルディスタンスに敏感になっている人々の目を惹きそうだ。

ただし、相手と対話する方法も確保しておきたい。特に来訪歴のある人や地元の人なら、お気に入りの場所やアクティビティについてのやり取りが可能だ。画像のキャプションも上手に活用したい。重要な安全事項については繰り返し告知し、現地を訪問できるようになる時期や場所など、必要な情報を提供する。

当初計画していたコンテンツ戦略を少し捻り、デスティネーションの魅力をアピールするのに加え、潜在的な訪問者予備軍に対し、安心して旅行できる時期や場所について、正確な情報を伝えよう。

参考までに、ブリティッシュ・コロンビア州キャンベルリバーでの活動ブログはこちら。コロナ前の事例だが、DMO向けに、カスタマージャーニーにおけるソーシャルメディア活用法を紹介している。

DMOが今すぐ始められる、3つのコミュニケーション改善方法

20分あればできる3つのことを以下に挙げる。

1. 訪問者の視点に立って、地域のことを調べる

現在提供されているソーシャルメディアやウェブサイトでは、実施している健康対策や旅行に関する規制について、分かりやすく、具体的にどう行動すればよいか説明できているだろうか。できていない場合は、何が足りないのか書き出し、チームのみんなで、欠けているところをなくしていこう。

2. 相手が欲している情報を見極める

潜在的な訪問客と、居住者の両方について考えよう。ブレインストーミングをして、旅行者が知りたいこと(フェイスブックやインスタグラムに寄せられたコメントからも推測できる)のリストを作成し、コンテンツが分かりやすい回答になっているか確認しよう。質問に返信する手間も省くことができる。旅行者側によくある疑問は以下の通り。

3. 世論の感情について情報収集をする

自分の地域に関連ある世論調査の結果を探してチェックしよう。グーグルのアラート機能を使い、キーワードとして「(地域名)と旅行」あるいは人気アトラクション施設名などを設定するのはどうだろう。ほかにも様々な便利ツールがある。「Hootsuite」なら、ソーシャルメディアで人々が話題にしていることが分かる。世論の感情を分析することは、長い目で見るなら最良のインテリジェンスになる。

以上の3項目を実行すれば、次のような成果がある。

わくわくする展開から悲劇的な状況へ、複雑なストーリーはまだ続きそうだが、恐れることなく、次の新しい章へと踏み出していこう。

※編集部注:この記事は、デスティネーションマーケティング組織(DMO)向けに特化した最新ニュース提供、戦略・ブランディング提案などをおこなう「デスティネーション・シンク(Destination Think)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:BEST PRACTICES AND TACTICS + CONTENT MARKETING AND CAMPAIGNS

著者:デイビッド・アーチャー(David Archer)