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中国ネット大手テンセント社が仕掛ける「スマートシティ構想」、中国各地で加速するスマート化の状況を聞いた

WILLER(ウィラー)主催の「MaaS Meeting 2021」では、海外のMaaSやスマートシティの取り組みも紹介された。登壇したテンセント社は、WeChatなど同社が運用するサービスから取得する膨大なビッグデータを活用したAIや画像認識などの最先端技術でMaaSやスマートシティ構築に取り組んでいる。

WeCityが提唱する3つの価値

テンセント社は、2018年までの20年間はSNSを中心としたコンシューマー事業を中心に展開していたが、2019年に大きな組織変更ーを行い、クラウドを中核とした法人事業に注力。クラウドコンピューティング、AI、IoT、5G、IPV6、セキュリテイなど長年蓄積してきた先端技術をサービスとしてパートナーに公開し、さまざまな業界のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を進めている。

そのなかで生まれたのがスマートシティコンセプト「WeCity未来城市」だ。同社マネージング・ディレクターの趙剣南氏は、その方向性を「テンセント・クラウドを通じて、人と人、人とサービス、人とモノをつなぐコネクターとしての役割」と表現。交通、行政、健康、司法、物流などのサービスで「住民一人ひとりのパーソナライゼーションを目指す」と強調した。

WeCityが提唱する価値は主に3つだ。まず、街中にあるサービスに簡単にアクセスできること。人とサービスの間に物理的な距離の制約がなく、ユーザーがサービスを利用したいときにいつでも利用できる環境を構築する。

次に、スマートデバイスで多彩なサービスを利用できること。物理的な利用シーンを仮想空間で再現し、ユーザーはスマートデバイスで仮想空間とつながることで、サービスを受けることができるようにする。

3つ目は、都市機能のモジュール化。都市インフラをIoT化して、仮想空間上で組み合わせて都市プラットフォームを構築し、そのうえで、サービス提供者、都市管理者が市民にさまざまなサービスを提供する。

テンセントの趙氏スマートシティ化はコロナ禍で加速

テンセントは現在、中国各地でスマートシティの実証を行っている。たとえば、雲南省の「Smar Travel」では、旅行、飲食、交通、ホスピタリティなどの産業のクラウドへの移行を支援し、旅行者がスマホひとつで、そのサービスにアクセスできるようにしている。

そのほか、内モンゴルでは「Smart Transport」、湖南省では都市型プラットフォーム「City Brain」、北京では「Smart Community」、上海では「Smart Health」、浙江省ではリモートで民事トラブルを解決する「Smart Court 」、広東省では行政手続きをWeCha上で可能にする「Digital  Guangdong」などを推進しているところだ。

同社シニア・アカウント・マネージャーの裘彬濱氏は「コロナ禍で浮き彫りなった課題解決に向けて、スマートシティ化が加速している」と明かす。

テンセントでは、スマートシティの実現に向けて、さまざまなテクノロジーを開発。建物のスマート化を進める「WeLink」では、物理的な建物にセンサーを設置し、デジタル上で建物の詳細を再現。収集したデータによって、さまざまなサービスを生み出していくとともに、設備の状態、人の移動、室内環境、エネルギー消費などをリアルタイムに把握し、AIで効率よく改善していく。

交通情報をシミュレーションする「TAD Sim」は、物理的な交通状況をシミュレーション。高精度地図、物理エンジン、Agent AI、大規模データ同期などをプラットフォーム化し、自動運転テストの効効率化や短縮化を図っている。

WeChat上のサービスプラットフォーム「Mini Program」は、QRコードで各種サービスへ瞬時に接続。すでに、WeChatには、数百万のMini Programがあり、アプリひとつで、さまざまなサービスに簡単にアクセスすることが可能になっている。

テンセントの裘氏深センの本社で進むNetCity

テンセントは、こうしたスマートシティ構築に欠かせない技術を、深センの本社で実践し、「NetCity」の構築を進めている。本社機能だけでなく、学校、ショッピング、公園など生活施設も建設し、自動運転を含めたMaaSも組み込む。

たとえば、都市管理者は、エリア内の建物、交通機関、インフラ設備の管理状況をリアルタイムに収集蓄積し可視化。AIによって効率的な管理を行う。

働く側は、WeChatひとつで、自動配送ロボットによる配送や自動運転バス、小型自動運転ロボット、シェアバイクなどによる移動サービスを受けることが可能。

さらに、消費者は、同じくWeChatひとつで、自動運転バスでのAIガイド、ショッピングでの移動の最適化、ニーズに合わせたタイムリーな情報提供などを受けられるようにする。

「NetCityの完成にはまだまだ時間がかかる」と裘氏。完成までにも、さまざまな新しいテクノロジーが生まれてくるだろう。NetCityの最終形は、現在想定している以上のものになるかもしれない。