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二地域居住先で「バケーションレンタル」を始めたホストを取材した、民泊のイメージ変える一棟貸しの「バケレン」新潮流

東京五輪のサーフィン会場となった千葉県一宮町は、都心から約1時間半とアクセスがいいことから、東京との二地域居住の生活を楽しむ人に人気の町だ。都内で化粧品の輸入代理店を営む中山哲史さんも、10年ほど前から一宮町の別荘で週末を過ごす二拠点生活を続けている。そして、コロナ禍の今年、「その楽しさを知ってもらいたい」と初めてAirbnb(エアビーアンドビー)を始めた。

仲間や家族と同じ時間と空間を過ごす

中山さんと一宮町をつないだのはサーフィンだ。米カリフォルニア育ちの中山さんにとって、サーフィンはライフスタイルの一部。一宮町に別荘を購入したのも、「週末にサーフィンがやりたい」のが理由だった。

「カリフォルニアでは、サーフィンのあとに、よく友人宅の庭でBBQをしてました。そのライフスタイルがとても楽しくて、日本で社会人になってからも、いつかやりたいと思っていました」と、東京と一宮町での二地域生活を始めた背景を話してくれた。現在は、平日は東京で仕事。週末になると家族と一宮町の別荘で過ごす生活を楽しんでいる。

「以前からエアビーのビジネスに興味があった」と話す中山さんは昨年10月、別荘とは別に2階建ての家屋を新築。「自分が好きなライフスタイルを、他の人にも楽しんでもらいたい」という思いで、そのホストを始めた。

「仲間や家族とBBQをして、お酒を飲みながら週末をゆっくりと過ごす。観光地じゃなくても、同じ時間とスペースを一緒に過ごすのは楽しいですよね」。

「一宮町だと、外で家族で遊べる場所がいっぱいある」と中山さん利用者の多くは20~40代の友だち同士

一宮町はサーファーの聖地。当初は首都圏からのサーファー需要を見込み、玄関脇にはサーフボードを置ける場所も設けたが、オープンした今年1月から夏前までの利用者の7割は、20~40代の友だち同士。今年の3月の予約は特に多く、レビューを見ると、学生の卒業旅行や会社の送別会で利用するケースが目立ったという。「思ったよりも若い人の利用が多い。コロナの影響で遠出が難しいから、『それなら近場で泊まれるところに行こう』といったニーズのようです」と中山さん。

一階は広いリビングとキッチン、2階にベッドルーム3室、最大6人が宿泊できる一軒家の利用者のほとんどが一泊。15時にチェックインして、翌日11時にチェックアウトするまで、外出するよりも、友だちや家族と一棟貸しで時間を過ごす。日常ではないけれども、日常の延長上にある気が置けない仲間との気兼ねのない旅行。それは、観光地である必要はない。

テラスにはBBQセットも完備「でも、それも夏休みになると変わってくるかもしれません」と中山さん。夏になると、平時であれば海水浴場がオープンする。「外でできることも増えるので、滞在日数も伸びるかもしれません」と、春とは異なる使われ方が出てくると予想する。

当初、「パーティハウス」になってしまうのではないかと心配したというが、今のところそれは杞憂に終わっている。周辺には民家もあるが、これまで苦情はまったくないという。「日本人は真面目ですよね。部屋もきれいに使ってくれます」。コロナ禍では現実的に国内旅行者に限られるが、インバウンドが再開しても、一宮町に来る外国人はそれほどいないのではないかと見ている。

「日本人の旅のスタイルも変わってくるのでは」

中山さんに今までで印象に残っている旅について聞いてみた。サーファーらしく、モロッコやフランス・ビアリッツでのサーフィンを挙げるとともに、「バリ島で、親しい家族と一緒に大きなヴィラを借りて、プールで遊んだり、食事をしたり、仲間と1日中、ゆっくりと過ごした旅はすごく楽しかったですねえ」と振り返り、このコロナ禍で「日本人の旅のスタイルも変わってくるのでは」と付け加えた。

最近、平日に一宮町に来た中山さんは、海に入っているサーファーが以前よりも増えていることに驚いたという。以前までは週末しか車が止まってない貸別荘でも、平日に止まっている光景を多く目にするようになった。「たぶん、テレワークだと思います」。町にはグランピング施設も増えている。こんなところからも、日本人の旅のスタイルの変化を感じているという。

中山さんは、現在の物件の隣にもう一軒建てて、来年夏ごろからエアビーでレンタルを開始する予定だという。さらに、300平米ほどのプール付きの一軒家を建てる計画も温めている。「ラクジュアリー向けに、このあたりでは一番高いレンタル物件にしたい」と意欲的だ。

宿泊施設だけでなく、たとえば、専属インストラクターによるサーフィン教室や小型クルーザーを貸し切った釣りなど、特別感のある体験を提供することも考えている。

「サーファー初心者が、ボードに立てるようになるだけでも、その人にとっては特別な体験ですよね。そのインストラクターがイケメンだったら、なおいい(笑)。いずれにせよ、『ワオ!』と思える特別な価値には、それに見合ったお金を払う人はいると思うんですよ」。

中山さんのエアビーは6人まで宿泊可能。最近では、エアビーに泊まった旅行者がインスタグラムにアップする写真は、観光スポットなど旅先の光景ではなく、エアビーで過ごしている様子が多いという。そのコメントも「今エアビーしている」と、エアビーが動詞化している。

中山さんの一棟貸しでも「エアビーしている」ゲストが多い。それは、数年前に白黒つけようと議論となった「民泊」とは随分とかけ離れている印象だ。観光地を巡る拠点というよりも、特別なバケーションを過ごすための宿泊体験。今後、旅のスタイルが変化していくなかで、日本でも「バケーションレンタル」という言葉が市民権を得て、定着していくだろうか。「バケーションレンタル」が、たとえば「バケレンする」などと動詞化することはあるだろうか。

トラベルジャーナリスト 山田友樹