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欧州で始動した「デジタル・ゲートキーパー」規制法、グーグルらの動き、旅行事業者への影響と今後は?【外電】

欧州当局が2022年7月上旬、デジタル市場法(Digital Markets Act=DMA)に「ゴーサイン」を出したことは、旅行関係者の多くにとって朗報だ。

かなり以前から、欧州を拠点とする旅行事業者、特にメタサーチ各社(旅行比較サイト)が、不公平な競争環境について訴えており、なかでも問題視されていたのが、グーグルによる自社商品やサービス優遇だった。

DMAが目指すのは、事業規模に関係なく、公平な競争が保たれるようにすること。いわゆる“デジタル・ゲートキーパー”の圧倒的優位性を是正することだ。

デジタル・ゲートキーパーとは、圧倒的なシェアを持つ検索エンジンやSNS、オンライン仲介サービスなどのプラットフォーム提供者を指す。デジタル・ゲートキーパーは、ユーザー接点となるその「門番」の役割を利用して、自社を有利にして不公正な商慣行に陥りやすい点が指摘されている。

2020年末、欧州委員会の上級副委員長、マルグレーテ・ヴェスターガー氏は「デジタル時代に即したヨーロッパ」を巡る議論で、DMAとは、デジタル市場の公平性を保つ上で「必要なツール一式を揃えること」だと話していた。

同じころ、アウェイズ、ブッキングドットコム、eドリームズ・オディエゴ、エクスペディアなどの旅行各社はヴェスターガー氏に書簡を送り、同委員会に対し、2017年の決定を履行してグーグルによる独占的地位の濫用に罰金を科すよう求めた。

広義のデジタル・ゲートキーパーとは、消費者との直接的な接点を持つ大企業で、自らのマーケットにおける地位や影響力を使い、他のマーケットにインパクトを与えている事業者を指す。

こうした行為は、すでに何年も続いていたが、ようやく欧州議会がゴーサインを出したことで、2022年には法規制が発効する見込みだ。

デジタル・ゲートキーパーとしてやり玉に挙がっていた企業には、グーグルの他に、エアビーアンドビーやブッキングドットコムなどがある。

法規制によって、旅行各社が訴えてきた諸問題が実際に解決できるのか、今後の展開を注視する必要がある。

バケーションレンタルを仲介するホームトゥゴー(home to go)の創業者兼CEO(最高経営責任者)、パトリック・アンドレア氏は、時代遅れの競争法のせいで論争が長引き、その間も問題企業は売上を伸ばし続けることができたと話す。

「問題点を指摘された企業が、欧州当局からの要請に従っているのか、はなはだ疑問だ。その間に、競合相手だった事業者側は、潜在的な成長の可能性をつぶされて、より小さな事業規模に甘んじているか、すでに消えてしまった。ゲートキーパーの地位を獲得すれば、当然、資金力も大きくなる」(同氏)。

「今後のカギを握るのは、もちろん欧州当局になるというのが私の見方だ。これまでの問題行為や地位の濫用について調査する可能性は高く、それを過去の事案として片付けることはないだろう。そうでなければ、問題行為によって被害を受けた人々の救済にならない」。

アンドレア氏は法規制が進むことに歓迎だ。ホームトゥゴーは競争を恐れていないが、競争は公平でなければならないと言う。

「よりフェアな市場環境を促す仕組みがあり、我々のように創業したばかりのイノベーション企業が、すでに大きな影響力を持つ既存大手と戦うことが可能になればよい。大手とは、例えばすでにインフラを持っている企業、DMAの言葉を借りるならゲートキーパー各社」と同氏。

「こうした仕組み作りが始まったことは、よい兆候だ。法を整えて、ゲートキーパーの定義に当てはまる強大な企業には一定の義務を設けて規則とし、力の濫用を防ぐようにできる」。

健全なデジタル市場を目指して

同問題について、過去に語っていた一人がトリバゴの経営トップで、DMAはメタサーチ領域での新しい可能性を切り拓くとしている。

同社CEOのアクセル・ヘファー氏は「ようやくDMA法案が可決されたことを非常に喜んでいる。ヨーロッパのビジネス市場が、さらなるイノベーションと競争による活気を取り戻し、健全になるための重要な一歩だ。私はブルトン欧州委員の意見に完全に同意する。すなわちルール制定が現状打開のカギ。グーグルの自社優先的な行為を徹底的に取り締まるためには、欧州委員会が必要なリソースをすべて確保することが不可欠だ」。

ただし、今回の法規制が、大手旅行会社にも適用されるかどうかは、まだ分からない。

ブッキングドットコム社長兼CEOのグレン・フォーゲル氏は、自社をゲートキーパーの一つとする見方には反論していた。ヨーロッパの消費者には「宿泊予約する際の選択肢がオンライン、オフライン・チャネル共に多数ある」ことが理由だ。

今回、法規制に青信号が出されたことについて、同社広報は「ブッキングドットコムは、事業環境の公平性を目指す規制を支持する。DMA合意は承知しており、現在、当社の事業領域への影響などについて精査中」としている。

一方、グーグルはこれまでに欧州当局や各国から罰金を課されたり、料金体系や検索結果に関する透明性をもっと高めるよう求められてきた。

同社広報は「デジタルサービス法とDMAの採決結果は、欧州当局による18カ月間の取り組みにおける重要な一歩であり、これから大きなンパクトを及ぼすだろう。これまでの当局関係者とのやり取りに感謝している。今回の法整備が目指すのは、インターネットをより安全でイノベーティブな場とし、(有事の)責任を明確にすること。同時に、ヨーロッパの利用者、クリエイターや事業者が引き続きオープンなウェブの恩恵を受け続けられるようにすることであり、当社もこれを歓迎する。今後、法規制の準備が進むなかで、詳細がどうなるのかが問題だ。万人のための法となるよう、当局関係者に協力していく」。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:DIGITAL REGULATION GETS GO-AHEAD IN EUROPE

著者:リンダ・フォックス