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世界で波紋呼ぶ、中国人旅行者への水際対策の強化、欧州委員会は入国要件を整理、旅行業界の反発や各社リーダーの見解は?【外電】

世界で中国人旅行者に対して水際対策を強化する国が増えている。欧州の旅行業界では抗議の声が上がっているが、当局はそれに耳を貸さないようだ。

中国は、それまで頑なに続けてきたゼロコロナ政策を緩和。窮地に立っていた業務渡航業界にとっては大きな希望となり、中国からあるいは中国への出張が急速に回復すると見込まれていた。しかし、各国が打ち出した規制強化はその希望に水をした。業務渡航の業界団体は、「この措置は信頼を損なうものだ」と反発している。

欧州委員会は2023年1月4日、政治危機対応会議を開き、EU諸国への入国に必要な要件を整理。圧倒的多数の国が、中国での出発前検査に賛成した。業界団体は、規制強化に乗り出す国が増えることで、回復に向けた歩みが後退することになるとの認識を示している。

国際空港評議会欧州のオリバー・ジャンコベック事務局長は「科学的根拠に基づかない、不当で不均衡な渡航制限に逆戻りしている」と批判している。

各国で強まる規制

中国は2023年1月8日から海外から到着する旅行者に対する検疫要件を撤廃する。これによって、外国人の中国入国だけでなく、中国人の海外渡航も以前と比較すると遥かに容易になる。業務渡航にとっても、大きな障害が取り除かれることになる。

一方、隣国の日本は、2022年12月30日から再開した中国からの旅行者に対する水際対策を1月8日からさらに強化する。また、英国も12月30日に到着時検査を再開した。これに対して、英国ビジネストラベル協会のクライヴ・ラッテンCEOは「これは旅行業界にとって大きな打撃となる。中国間の出張は1月から始まると期待していたが、顧客と企業にとって大きな後退になってしまうだろう」と述べている。同協会は英国政府に対して、新亜種のデータを収集することで、優先順位を設けて対応することを求めている。

また、グローバル・ビジネス・トラベル・アソシエーション(GBTA)は、旅行者に対して統一した対応が欠如していることに懸念を表している。パンデミックから学んだことのひとつは、不確実性要因が、業務渡航の再開にとって最大の障害になることだ。同協会欧州中東アフリカ担当副社長のキャサリン・ローガン氏は「国際的なビジネスルートを開けたままにしておくことは、世界経済の回復にとって欠かせないこと。これは、健康と安全を確保しながらできることだ」と述べている。

国際航空運送協会のウィリー・ウォルシュ事務総長は「我々は、国際的な交流を止めず、経済や雇用にダメージを与えないように、新型コロナに対応することをすでに知っているはずだ」とのコメントを出した。

さらに、国際空港評議会欧州は、一部の国が中国人旅行者に対して検査を課していることに「遺憾の意」を示したうえで、「こうした一方的な措置は、過去3年間に得られたすべての経験と証拠に矛盾している。 新型コロナの拡散防止に対して、国際的な旅行制限は効果がないということは、欧州疾病予防管理センターや世界保健機関も明確に認識している」との声明を出した。国際空港評議会は、新亜種の発見には、空港からの排水を検査し、ゲノム解析をする必要があるとの認識を示している。

トラベル業界は中国との交流再開をずっと待っている

「中国の業務渡航は静まり返っている」と製薬会社のグローバル・トラベル・マネージャーは明かす。現時点で、中国国内の出張の予約は4件しかないという。

ベスト ウエスタン ホテルズ & リゾーツのラリー キューリック社長兼CEOは、ウィークデイのビジネスを取り戻すためには、海外旅行が鍵になるとの考えを示し、「中国の旅行再開に興奮している」と述べた。「アジアの旅行回復は、我々の業績回復の絶好の機会になる。その中でも中国は大きな役われを果たす」と付け加えた。一方で、米国、インド、日本、イタリアなどが検査を導入したことについて触れ、今後注視していく必要があるとの見解も示す。

アメリカン・エキスプレス・グローバル・ビジネス・トラベルもまた、中国の復活を熱望している。ポール・アボットCEOは昨年、中国での売上高は全体の5%を占めていたことを明らかにした。

業務渡航代理店 TripActions ゼネラルマネージャーのマイケル・リーゲル氏はインタビューの中で「中国とアジアがさらに開放されることは、ビジネス旅行にとって非常に重要」としたうえで、「欧州からの主要な出張先には米国とアジアがあるが、これまでのところ、アジアへの出張は増えていないが、行きたがっている企業があることは明らかだ」と述べた。

欧州委員会は、加盟27カ国に中国からの旅行者に対して、出発前48時間以内の陰性証明提示の義務化を奨励することを決めた。この決定は、今年の旅行会社の回復ペースを左右することになるだろう。

業務渡航代理店CTMのヨーロッパ最高執行責任者であるマイケル・ヒーリー氏は「中国は、顧客にとって重要な市場。業務渡航の再開は歓迎すべきことだ。しかし、規制強化に関わる不確実性と関連するリスクを考えると、現状では慎重にならざるを得ない」と不安を口にした。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:New Covid Restrictions on Chinese Travelers Will Hurt Corporate Travel Recovery

著:Matthew Parsons氏(スキフト記者)