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オーストラリア政府観光局、2035年に向けた成長戦略を発表、体験に価値を感じる旅行者にフォーカス

オーストラリア政府観光局は、ブリスベンで開催された観光商談会「Australian Tourism Exchange(ATE)2025」の記者会見で、豪州の観光産業の現状と今後の成長戦略を発表した。記者会見には、世界17カ国から観光メディア68社が参加し、日本市場に関する前向きな展望が示された。

観光産業は持続可能な成長段階へ、日本市場は着実に回復

オーストラリア政府観光局マネージング・ディレクターのフィリッパ・ハリソン氏によると、2024年にオーストラリアを訪れた外国人旅行者数は年間830万人でコロナ禍前の水準に近づきつつあり、前年比9%増、2023年比では82%増と力強い回復を遂げている。

その中でも、日本市場は、「過去12カ月で顕著な回復が見られた」だという。さらに、「日本は、依然としてオーストラリアにとって戦略的に重要な市場。次回の観光局理事会を6月に日本で開催する予定だ」と明かし、日本を訪れることで日本市場への理解を深め、関係構築の強化を図る方針を示した。

オーストラリア訪問者数の上位国は、ニュージーランド、中国、英国、米国が引き続き主力である一方、日本とインド、韓国の成長も顕著。とりわけ、韓国は航空路線の拡充により大きく伸長した例だと言及した。

日本との航空ネットワークについては、「航空路線は、訪問者数に直結する」として、今後もキャパシティ回復と新規路線の開設に向けた両面で日本市場に注力していく。

また、「エアパス」制度についても紹介。国際航空券と豪州国内航空券を組み合わせて利用できる仕組みは、二次交通としての州間移動を後押しする手段としても注目されているという。

プレゼン資料より

価値重視型の旅行者を重視

オーストラリア州政府観光局は、現在、「価値重視型旅行者(High-Value Travellers)」に焦点を当てたプロモーション展開を強化している。これは高所得層に限定したものではなく、「オーストラリアを心から愛し、滞在中に多様な体験に投資する意欲の高い旅行者」を対象としている。

日本市場においても、若年層からアクティブシニア層まで、こうした価値志向の旅行者が着実に増加。豪州が提供するネイチャー、カルチャー、アグリ(農業)ツーリズムといった「体験価値」にフィットすると分析された。

さらに、今後、大阪・関西万博や2032年のブリスベン五輪といった、国際的イベントのシーンも活かして、継続的な情報発信をおこなうことが不可欠であることも強調した。

オーストラリア政府観光局マネージング・ディレクターのフィリッパ・ハリソン氏

「Come and Say G’day」キャンペーンは好調

記者会見では、観光誘致ブランド「Come and Say G’day」キャンペーンの成果についても報告された。マスコットキャラクターの「ルビー(Ruby)」が登場するキャンペーンは、展開開始から2年で世界中の旅行者の心をつかみ、広告効果測定において「視認性」「好意度」「訪問意欲」の全項目で高得点を記録している。

特に、日本市場向けには、大阪万博のオーストラリアパビリオンでルビーが公式アンバサダーをつとめ、「親しみやすさ」と「安心感」のイメージ醸成に一役買っている。次のフェーズでは、同キャンペーンを「ローカル目線のストーリーテリング」に進化させ、日本市場向けには日本人キャストの起用なども検討しているという。

農業体験やサステナビリティ、観光産業の未来像も提示

2035年までを見据えた観光政策の柱として、同局は以下のマクロトレンドを提示した。

特にアグリツーリズムについては、今後の注力分野。日本人旅行者の関心も高まっている体験価値型観光において、タスマニアやビクトリア州の農場体験、先住民との交流などが今後の訴求ポイントとなる。

また、旅行者の行動傾向として「1回の訪問で20以上のアクティビティを求める」傾向が強まっており、オーストラリアがその期待に応える存在であるとの認識を共有した。

2035年に向けた新空港とインフラ整備、サプライ体制強化へ

ハリソン氏は、「2035年までに、さらに500万人の訪問者を迎える」との成長見通しを示した上で、それを支えるための国内インフラ開発も紹介した。

現在、364件の観光関連プロジェクトが進行中で、その約半数が宿泊施設、その他が体験・文化施設に分類される。また、2026年にはシドニーに第二空港「ナンシー・バード・ウォルトン空港」が開業予定。2030年までに1000万人規模の処理能力を確保し、将来的には8200万人規模の航空インフラとして期待されるという。

2032年ブリスベン五輪を見据えた中長期的ビジョンの中で、日本も重要なパートナーとして位置づけられている。「Come and Say G’day」を通じたプロモーションで親しみを訴求し、複数都市・複数体験型の旅を促進することが、今後のオーストラリア観光のカギとなりそうだ。