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ホテルスタッフが地域と観光客をつなぐ、星野リゾート「OMO7高知」の宿泊体験を現地で取材した

観光目的の旅行で、ビジネスホテルなどの都市型ホテルを利用する旅行者は少なくない。そうした観光客のニーズに対応しているホテルブランドのひとつに星野リゾート「OMO」がある。「テンションあがる『街ナカ』ホテル」をコンセプトに、ホテルに泊まるだけでなく、地域を楽しむ仕掛けを提供するのが特徴だ。

2018年に誕生した「OMO」ブランドの施設は、現在、国内16施設。うち14軒は2021年以降に開業するなど、急拡大している。2024年6月にオープンし、開業から1年を迎えた「OMO7高知 by 星野リゾート」(OMO7高知)の観光客を地域につなぐホテル体験を取材した。

ホテルスタッフが地域観光のストーリーテラーに

「OMO」には、従来の都市型ホテルと大きく異なる特徴が2つある。1つは、統一されたブランドでありながら、ホテルによってサービスの幅が違うこと。ホテル名の数字でその程度を示しており、数字が大きいほどサービスの幅が広い。

例えば、「OMO3」は宿泊特化型ホテルで、付帯施設は飲食物の売店のみ。「OMO5」はカフェ付きのブティックホテル、「OMO7」はレストランやその他の付帯施設もあるホテルだ。今回取材したOMO7高知には、会議室・宴会場や空中庭園付きの大浴場もある。

もう1つの特徴は、地域に入り込むような体験を、地域と連携して作り上げて提供していること。ロビーにはホテルの徒歩圏内を案内する「ご近所マップ」を掲示するほか、街を歩くガイドツアーなど、スタッフが地域を訪ねて企画した様々な「ご近所アクティビティ」を用意する。これらは数字に関係なく、すべてのOMOで提供している。 OMO7高知のご近所マップで紹介している商店や飲食店は現在約60軒。いずれもスタッフが訪れ、店主とのコミュニケーションを含めて街の魅力を感じてもらえると思った店舗を掲載

OMO7高知の場合、高知の宴会文化「おきゃく」を紹介・体験する「土佐のおきゃく講座」や、よさこい鳴子踊りのショー「よさこい楽宴(らくえん)LIVE」、市民で賑わう「日曜市」や「木曜市」をめぐるツアーを実施。2025年2月からは、地元スーパーと連携し、店内商品を通して地域の暮らしに触れる「土佐のスーパーマーケットツアー」も開始した。これらの演者や案内役を務めるのは、「OMOレンジャー」と称するホテルのスタッフだ。

よさこい楽宴LIVEは、よさこい鳴子踊りの著名プロデューサーである國友裕一郎氏など、その道の第一人者が制作・監修し、月1回、彼らによるクオリティチェックも実施。地域の文化や思いを正しく伝えるため、完成度にもこだわっている。

そのため、スタッフの説明からは、地域との関係性を深めるなかで育まれた地域愛が率直に伝わってくる。高知人の気質が反映された「おきゃく文化」の成り立ちを聞き、よさこいの熱気を目の当たりにすると、高知への親しみの感情が湧いてくる。宿泊客と地域の双方を大切に思うホテルのスタッフの言葉や態度は、宿泊客にも地域を尊重する気持ちを自然と芽生えさせる。宿泊客と地域を結びつける、ストーリーテラーのような役割を果たしている。

よさこい楽宴LIVEは、よさこいの第一人者が楽曲や衣装、振付・演出を担当。OMO7高知オリジナルの演舞や鳴子踊りのレクチャーもある。料金は無料。人気のアクティビティで、取材日も客席に入りきらないほどの盛況ぶり

「えいとこ全部わかるがで!土佐のおきゃく講座」に参加すると、お酒と来訪者をもてなして交流することを好む高知の県民性が感じられ、地域への愛着が増してくる

 さらに、館内ではアクティビティ以外にも、ライブキッチンで郷土料理を出すビュッフェレストラン「OMOダイニング」や、地元の特産を使ったオリジナルメニューを提供するカフェ「OMOカフェ&バル」など、地域を知り、体験できる機会が多い。こうした付加価値を旅館やリゾートホテルではなく、都市型ホテルで提供することが「OMO」の特徴であり、競争力の高さだと感じられた。

OMOダイニングはライブキッチンを備えたビュッフェレストラン。ディナーでは藁焼きのカツオのたたきを、氷で締めずにパリッとした皮の香ばしさと温まった身の旨味を味わう「焼き切り」で楽しめる

ホテルスタッフの現場力

開業から1年。OMO7高知は、個人客から旅行会社のツアー、団体旅行まで、堅実な集客を続けている。車でアクセスできる関西圏や四国の利用が多いが、首都圏からの需要も想定より多いという。また、星野リゾート全体やOMOのリピーターも少なくなく、全国のOMOをめぐるファンも出現している。

開業準備の段階からOMO7高知に携わる総支配人の立川久美子氏は、「運営を任された時から、高知や四国の観光を盛り上げたいという思いだった」と振り返る。

立川氏を含め、同ホテルのスタッフの半数は県外出身だが、観光を通じた地域貢献への意識が強い。最上位ブランドの「星のや」をはじめ、温泉旅館「界」やリゾートホテル「リゾナーレ」など地方部の施設が多い星野リゾートでは、「地域との連携が見えやすい事業モデルなので、地域活性化を志向して入社する人が多いように感じる」(立川氏)という。

「うたげスイート」のリビングスペース。宴を楽しむ土佐犬を鳥獣戯画風に描いた土佐和紙の壁紙や、テーブルに皿鉢をイメージした台を置くなど、客室でもご当地気分が感じられる

「お客様のコメントを見ると、OMOのコンセプトを見聞きして宿泊を決めた方も多い。ブランドの認知が進み、一定のニーズが定着しつつある。昨今の観光では、身近な地方や都市部の生活圏に目を向け、その良さを再発見する観光を志向する変化がある。当館が提供したい形と観光のニーズが一致してきており、そこを捉えていきたい」と、立川氏は手ごたえを感じている。

宿泊客の評価が高いのは、やはり地域とつながる体験だ。「(観光客である)自分では知ることが難しい地域の生活感を、OMOレンジャーを介して触れられることが醍醐味」という声が多い。 「土佐のスーパーマーケットツアー」も料金は無料。取材日は地元出身のOMOレンジャーが、日頃購入している商品の扱い方やスーパーで見かけたら必ず購入する食材を教えてくれた

OMO7高知が意識しているのは、宿泊客とスタッフとの接点を作り出すこと。初年度も、サービスを軌道に乗せるだけでなく、新たなアクティビティの開発にも取り組んだ。運営しているうちに「当館は、県内と県外の双方のスタッフがいるからこそ、もっと地域の良さを伝えられる」(立川氏)と実感したからだ。

その代表例が、「ご近所マップ」を発展させたプログラム「ちっくとグルメナビ」。宿泊客の目を引くように屋台風のセットを作り、スタッフが手作りの資料で地元の食にまつわる情報を紹介する。「ゲストが目線を向ける仕掛けを作り、スタッフとの接点を生み出す。そして、街に出かけていただく。その両軸で進化させている」と立川氏は話す。

アクティビティ以外でも、宿泊客とスタッフの接点を重視している。例えば、夕食や朝食のビュッフェでは、積極的に下膳をしたり、出来立ての料理を持って各テーブルを回るスタッフの姿が印象的だった。

立川氏は、その理由を「お客様の声や行動を把握できる貴重な機会。現場にいる私たちがお客様の表情や言葉からニーズを捉え、適切なサービスに反映することが重要と考えている」と明かした。 部屋に戻ってからもテンション上がる仕掛けの1つ「酔っちょれセット」。地酒2本とご当地のつまみで3200円。楽しい宴会になるよう、高知のお座敷遊び「べく杯」の貸し出しも

一方、今後は宿泊客の多様な過ごし方の創出にも目を向ける。その一環として、立川氏が模索しているのが、吹き抜けのロビー中央部に設えた大階段の活用。OMOとして改装される前のホテルでは、宴会場のフロアにつながるエスカレーターが設置されていた場所で、リノベーションによってOMO7高知の象徴的な空間に生まれ変わった。現在は、アクティビティの会場として活用しているが、それ以外の時間にも「滞在中の何気ない時間の中で、当館での思い出に残る場面を生む場所としたい」と考えている。 OMO7高知の総支配人 立川久美子氏。背景が活用を模索する大階段。ロビーに入ったら目を引く、象徴的な造り。ショーや講座の実施時は舞台と客席に。普段は階段やくつろぎの場として、自由に利用可能

取材協力:星野リゾート