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世界の旅先100選に選ばれた中国・四川省を取材した、パンダ基地から景勝地「九寨溝」、大都会・成都まで

オンライン旅行予約トリップ・ドットコム(Trip.com)は、2025年4月に「Trip.Best Global 100」を発表した。これは、ユーザーの評価、レビュー、検索・予約データなどをAIが分析し、さらに専門家の視点を加えて作成されたもので、ホテル、アトラクション、ナイトライフ、レストラン、旅行先がランキング化されている。

このうち、旅行先のトップにはパリが選ばれた。トップ10には、東京(6位)、大阪(7位)のほか、北京(3位)、上海(4位)、バンコク(5位)、シンガポール(8位)が入り、アジアの都市の人気がうかがえる結果だった。5月下旬に上海で開催されたトリップ・ドットコム・グループのパートナー向けイベント「ENVISION2025」に参加し、旅行先100選のうち24位にランクされた四川省成都を取材した。

四川省の観光大使ジャイアントパンダ

四川省のアイコンといえばジャイアントパンダ。省都である成都の街中では、至る所で「パンダ推し」の光景が見られる。2015年の中国政府の発表によると、野生のジャイアントパンダは世界で1800頭ほどで、そのうち85%が四川省に生息しているという。その絶滅危惧種を保護・繁殖する目的で建てられた施設の一つが「成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地(パンダ基地)」だ。2025年の「Trip.Best 」観光スポット部門でも79位に入り、世界中の観光客に人気の場所となっている。

パンダ基地は、成都市中心部から約10キロの距離にある「パンダ谷」と呼ばれる自然豊かなエリアにある。ジャイアントバンダやレッサーパンダなどの科学研究がおこなわれるとともに、観光での活用も重視。「産、学、研、観」一体となった持続可能な発展モデルで運営されている。現在、約200頭が飼育・公開されている。

今年6月に和歌山県のアドベンチャーワールドから中国に返還されたジャイアントパンダ4頭もここで暮らす。なお、上野動物園で生まれ、2023年2月に中国に返還された「シャンシャン」は、別の施設「中国ジャイアントパンダ保護研究センター雅安碧峰峡基地」で暮らしている。

間近でジャイアントパンダを見学できるのが「パンダ基地」の最大の特徴パンダ基地の園内では、整備された遊歩道からさまざまなジャイアントパンダを観察できる。おすすめの時間は、活動が比較的活発な午前中だという。腰を据えて、両手を使いながら器用に笹を食べる5歳のオス「メン・ユン」、ゴロンと回転しながら戯れるメスの「ベイ・チュン」(年齢不詳)、岩の上で腹ばいに寝そべる17歳のオス「キ・ラン」。それぞれ独立したエリアで愛嬌を振りまく。そのパンダたちにスマホを向ける来場者は、皆、笑顔だ。

観光にも力を入れるパンダ基地には、パンダの観察だけでなく、滞在を楽しむ施設も充実している。「熊猫歩行街」には、多彩なパンダグッズが揃うギフトショップ、レストラン、ジャイアントパンダをテーマにした常設ミュージカル劇場などがある。

熊猫歩行街。パンダ基地には1日楽しめる施設が整っている

環境にも配慮した中国随一の景勝地「九寨溝」

四川省で訪れるべき景勝地として有名な「黄龍・九寨溝」。その独特の自然の生態系は、1992年にユネスコ世界自然遺産に登録された。中国随一の観光スポットとして内外から観光客が集まり、2025年の「Trip.Best 」観光スポット部門でも64位にランクされた。

九寨溝へのアクセスは、2024年10月に開通した新幹線で、かなりスムーズになった。成都から約1時間半で九寨溝の入口となる黄龍九寨駅に到着する。このあたりはチベット文化が色濃く、成都とは異なる世界に足を踏み入れた感覚だ。

黄龍九寨駅でも標高3000メートルを超える

九寨溝の谷はY字状に分岐しており、岷山山脈から流れ出た水が滝を作り棚田状に湖沼が連なる。九寨溝を有名にしている景観がその湖の独特の色。山脈から流れ込んできた石灰岩の成分が沼底に沈殿し、湖底の苔、水深、光の屈折率などによって、湖は日中はコバルトブルー、夕方にはオレンジなどで彩られる。

環境保護の観点から黄龍・九寨溝へは自家用車でのアクセスは禁止されており、来訪者は入口ゲートで電気パスに乗り、各スポットをめぐることになる。各スポットや周辺道路には遊歩道が整備されており、最も標高が高い「長海」は標高3000メートルを超えるが、山岳トレッキングに必要な装備は必要ない。普段着で神秘の景色を楽しめるのも九寨溝が人気を集める理由だ。

入場ゲートから、標高2462メートルの「五花湖」、幅150メートル、高さ2~5メートルの「箭竹瀑瀑布」、パンダが水を飲みに来ていたと言われる「熊猫湖」をめぐり、幅112メートル、長さ189メートルの岩肌を水が流れ下る「珍珠灘」では滝と川沿いの遊歩道の散策を楽しんだ。

「五花湖」。曇りでも美しいブルーが映える

「珍珠灘瀑布」、春は雪解けで水量も増す

標高3010メートルの「五彩池」は、最もブルーが美しく映える湖と知られている。訪れた時は、あいにくの小雨だったが、それでも深いブルーは、一幅の絵画のように見惚れてしまう光景だ。

Y字状のルートの交点にあたる場所には「諾日朗(ノーリラン)観光センター」。レストラン、軽食コーナー、売店などがあり、九寨溝観光の拠点となっている。

九寨溝は、雪解けで水量の増える初夏から紅葉が美しい秋にかけてがベストシーズンと言われている。国慶節など中国の連休中はかなり混雑するが、シーズンによって異なる入場料や1日の入場制限を設けて入場者数をコントロールしており、環境対策とともにオーバーツーリズム対策にも力を入れている。

最も標高の高い場所にある「長海」新旧が交錯する成都のダイナミズム

人口約2100万人を超える成都は、中国西南の政治、経済、文化の中心地。「天府の国」といわれる豊かな風土に育まれた場所だ。活気ある街中や郊外には観光の見どころも多い。

市内中心地にある歴史ある文化地区を改修した商業街「寛窄巷子(かんさくこうし)」を散策してみた。敷地内は400メートルにわたって歩行者天国となっており、多くの歴史建築物とモダンな商業施設が混在する。スターバックスも古い建物をリノベーション。街に溶け込んでいる。風情豊かな古街の雰囲気は、観光客だけでなく地元の若者にも人気の場所だ。

スターバックスも「寛窄巷子」仕様

錦江に架かる「安順廊橋(あんじゅんろうきょう)」も人気の観光スポット。川沿いには多くの飲食店などがあり、夜遅くまでにぎわう。夜になると橋はライトアップ。夜の帳に浮かび上がる幻想的な橋をバックに自撮りするカップルも多い。路上で開業する耳かき専門店「可視采耳」も中国らしい風景だ。

ナイトライフで人気の「安順廊橋」

四川省といえば四川料理。「食在中国、味在四川(食は中国にあり。味は四川にあり)」と言われる。成都の郊外にある「川菜博物館」を訪れて、その真髄の一端に触れた。川菜とは、中国語で四川料理という意味だ。施設内では、ビュッフェ形式でさまざまな四川料理が味わえるほか、地元の豆板醤や醤油の作り方、四川料理の調理デモンストレーションなど展示だけでなく、五感で楽しめる博物館となっている。

成都の中心部「太古里」周辺にも足を延ばした。世界のブランドが集まる整然とした街並みと近代的なビルの前の路上で商売する小さな屋台。そして、その磁場に引き寄せられるように集まる無数の人々の喧騒。東京のおよそ2倍の人口を抱える成都のダイナミズムは、日本で見られない光景かもしれない。

喧騒の「太古里」周辺

取材協力: トリップ・ドットコム

トラベルジャーナリスト 山田友樹