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プリンセス・クルーズ社長が語った、日本発着を拡大し2隻体制とする理由、日本の強み

日本発着クルーズの拡大を発表したプリンセス・クルーズ社長ガス・アントーチャ氏がトラベルボイスのインタビューに対し、日本のクルーズ市場について「本来あるべき形の成長が始まった」との所感を語った。アントーチャ氏は、同社親会社で世界最大手のクルーズ会社カーニバル・コーポレーション傘下の各種クルーズラインの要職を歴任。前職のホーランドアメリカ社長時には、同社史上最大の予約数を記録するなど、豊富な実績を持つ。

現在、日本のクルーズ業界は今後の市場拡大を予想させる、ダイナミックな動きを見せている。この10年ほど、日本でのクルーズ運航を増やしてきたのは、2013年に日本発着の定期クルーズを開始したプリンセス・クルーズを筆頭に、外国船社による日本発着クルーズや日本寄港クルーズだった。

それがこの数年、日本市場をメインとする日本船社も投資を拡大。商船三井クルーズは新クルーズブランドを立ち上げて新客船を就航し、複数船団での展開を表明しているほか、郵船クルーズは先ごろ新造船「飛鳥III」を就航し、2隻体制での運航を開始した。さらに、両備ホールディングスが小型ラグジュアリー船を2027年に竣工し、本格的なクルーズ事業に参入する予定。2028年度には、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドが、日本でのディズニークルーズの就航を目指している。

この状況下で、プリンセス・クルーズは2027年の日本発着クルーズを2隻体制に拡大する。従来のダイヤモンド・プリンセスと、同型のサファイア・プリンセス(11.5万トン、乗客定員2670人)の2隻で、計41本を運航。受け入れ客数を最大約24万人規模に広げる。

アントーチャ氏は「様々なタイプのプレイヤーが市場に参入することで、日本の旅行者に多様なクルーズを提供できる。結果的に、トータルで市場は拡大していく」と、日本のクルーズ業界の動きを歓迎。「日本のクルーズ市場のポテンシャルは非常に大きい」と話し、「すべての動きが、日本市場の成長に向かっている」との認識を示した。

一方で、各社との競合に関しては、「日本人はもちろん、海外のお客様も多い。双方に好評を得ているのが、当社の特徴の1つ」と話し、「これが、当社のビジネスの持続可能性につながっている」と自信を示した。

大型化ではなく同型船2隻体制にした理由

プリンセス・クルーズは、2027年の日本発着クルーズの発表会で、2隻体制での運航について、「需要の高まりに応えた」(カーニバル・ジャパン社長の堀川悟氏)と説明した。では、なぜ、より大型の船へとサイズアップするのではなく、2隻体制での運航を決断したのか。

これについて、アントーチャ氏は「今回は市場の好みと状況を踏まえて、ベストな選択をした。ダイヤモンド・プリンセスは顧客満足度が高く、サイズ的にも日本の寄港地に最適。同じ日本の造船所で作られた姉妹船であり、同様のレイアウト、雰囲気のサファイア・プリンセスがあるので、日本で好評の船を展開する」と説明した。

さらに、世界のクルーズを知るアントーチャ氏は、こうも続けた。

「私は、日本は世界でも港の整備が進んでいるデスティネーションのひとつだと思っている。クルーズ客船の寄港が可能なインフラを持つ港の数が約100港あることが、素晴らしい。同程度の広さの国や地域で、これほど受け入れが可能な港がある国を私は知らない。これは国土交通省をはじめとする関係省庁や自治体の協力によるもの。だからこそ、我々も太平洋・日本海の両サイドを巡り、日本の美しさを余すことなく楽しんでもらえるプログラムを作ることができる」。

日本は東西南北に長く、地域によって異なる魅力がある。加えて、気候差や四季があることも、多彩な魅力付けとなっている。外国人旅行者に、春の花見の季節のクルーズが人気なのは有名だが、その理由にはクルーズなら、日本を南から北へぐるりと周遊している間にどこかの寄港地で開花期の桜を見られる可能性が高いことがあるという。

なお、アントーチャ氏によると、クルーズ会社は強いマーケットに最新鋭の大型船を配船するのが常で、プリンセス・クルーズではアラスカに8隻、カリブ海では5隻を配船している。日本発着クルーズの運航開始から10年で、次のステップへと成長したといえる状況だ。