シンガポールで、アジア最大級の観光展示商談会「ITBアジア2025」が開幕した。主催するメッセ・ベルリン社のデビッド・ルエツ上級副社長(写真)は、開幕の挨拶で「ITBアジアは17年の歴史のなかで、最大規模の開催となった」と述べた。出展ホールは過去最多の5ホールに拡大し、バイヤーは1500名を超えた。
ルエツ氏は「この成長は、ITBアジアの国際的な重要性と多様性の高まりを象徴している」と強調。初参加国としてアゼルバイジャン、リトアニア、ハンガリー、タミル・ナードゥ州、ダナン市、高雄市など、国や自治体レベルの参加が名を連ね、地域の裾野が広がったことを紹介した。
また、今年の展示では、テーマ別ゾーンとして「エクスペリエンス(体験)&アトラクション・ハイライトゾーン」が初登場した。ここではディズニークルーズラインやマンダイ・ワイルドライフ・リザーブ、リゾート・ワールド・セントーサが出展。リゾート・ワールド・セントーサが公式統合型リゾートスポンサーを務める。ルエツ氏は「体験型観光の拡大と、アトラクション産業の国際化を象徴する試み」としてこの新ゾーンを紹介した。
さらに、アフリカ諸国の過去最大の出展、インド各州観光局の参加拡大、シンガポール企業による単独出展の増加など、展示会の国際的広がりが際立った。「シンガポールゾーンでは、より多くの地元企業が独立して出展し、起業精神を体現している」とも述べた。
旅行テックが牽引する未来型ツーリズム
今回のITBアジアのメインテーマは「Future Forward – 変化する世界で旅行・観光を変革する」。会期は3日間。会場内の特設ステージでは、テクノロジー、サステナビリティ、イノベーション、旅行者行動の変化、MICE市場の動向など、業界が直面する主要トピックが討論される。また、トリップアドバイザー、アマデウス、フレーザーズ・ホスピタリティ、ジャック・モートン・ワールドワイドなど、世界的企業も登壇し、知見を共有する。
今回、注目を集めているのが共催される「トラベルテック・アジア2025」だ。ルエツ氏は「トラベルテックは旅行・観光の未来を形成する重要な役割を担っている」と述べ、同展は過去最大規模でホールBが全て完売となったことを明らかにした。「出展スペースは前年比15%拡大し、この分野の45%が新規出展者。旅行テック分野の革新性と需要の高まりを示している」と説明した。
商談展示会を統括するメッセ・ベルリン・アジアパシフィックのエグゼクティブ・ディレクターであるダレン・シー氏は、トラベルテック・アジアについて「ここは旅行の未来を形づくる優れた頭脳が集う場。テクノロジーはその体験を高める役割を果たし、そしてイノベーションが業界全体を前進させる原動力となる」と語り、技術革新が観光産業全体に波及する重要性を強調した。
MICE分野での学びと連携、国際協働の深化
MICE(会議・研修・展示会・イベント)分野もITBアジアの重要な柱だ。ルエツ氏は「MICE産業は観光のビジネス成長とグローバルネットワーキングの要である」と位置づけた。2日目に開幕する「MICEショー・アジア」では、国際的なプロフェッショナル団体との連携による教育プログラムやワークショップが実施される。
ルエツ氏は「これらの取り組みは、学びと協働、専門性の向上への継続的なコミットメントを示すものだ」と語り、業界の人材育成と知識交流の促進を強調した。また、「連続性、レジリエンス(回復力)、協働こそが、これからの観光産業を推進する三本柱である」と述べ、さらに将来に向けた展望を示した。
会場では、このほかにも新興市場のデスティネーション・ハイライト、旅行テックの最新動向、地域別サミットなど、多層的なプログラムが展開される。
取材・文: 鶴本浩司