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インバウンド戦略は訪日客数の先に何を描くべきか? 2026年の観光の主戦場は地方部とリピーター【コラム】

日本観光振興協会の最明です。

インバウンド客数が4000万人を超える時代を迎え、日本の観光は次の成長軸を考えるタイミングに来ています。そのカギとなるのが、地方での体験を通じたリピーターの獲得です。本コラムでは、各種データを手がかりに、訪日旅行の価値を深化させるための方向性を考えます。

写真:相撲ライブレストラン「日楽座 GINZA TOKYO」(筆者撮影)

2025年8月に電通が発表した「ジャパンブランド調査2025」。この調査は、2011年の東日本大震災で日本の農産物や訪日旅行に風評被害が発生した際、“ジャパン”というブランドが世界でどのように評価されているのかを定期的に把握するために始めた電通独自の海外生活者の意識調査で、今回で15年目となります。

この調査では、訪日観光、文化、地方創生、食、日本産品、ライフスタイル、価値観など多岐にわたる設問への回答をもとに分析が行われ、そこから得られる主なファインディングス(一次的な発見や気づき)とインサイト(表面的なデータや情報をもとにした深い理解や洞察)には、日本が観光立国としてさらに成長していくためのヒントが数多く記されています。

私がJNTOシドニー事務所で勤務していた1991~94年、当時はオーストラリアからの訪日旅行者は年間わずか5~6万人ほどでした。しかし、一度訪れると日本の魅力にハマる人が思いのほか多く、次回訪日の計画づくりにあたり、訪問回数が多いほどすぐには答えられないようなディープな祭りやイベント、施設の概要やローカル鉄道やバスの時刻など、さまざまな情報提供を求める人たちの対応に追われていたのを覚えています。

2024年のオーストラリアからの訪日旅行者は、その当時の10倍を大きく超える92万人に達しました。仮にリピーター率が変わらなくても母数が大きくなっていますから、さらに地方誘致のチャンスが一層膨らむと考えられます。

世界で最も再訪したい国として選ばれた日本

2025年の調査で、日本は「再び訪れたい国」として圧倒的1位(52.7%)となりました。 特にコロナ禍後の2023年(30.6%)、2024年(34.6%)と訪日旅行者数の増加とともに再訪意向も大きく伸びています。

調査結果を見ると、円安(為替)を理由にあげる割合よりも、食、日本産品、四季の違いを体験できることなどに魅力を感じる人が多く、旅行先としての人気が一過性でないことを示しています。特に、再訪意向の割合が上昇している点は、すっかり日本の虜になった「固定客」が増えていることの裏返しと言えるかもしれません。

1月6日付けの東京都立大学観光科学科の清水哲夫教授によるコラムでは、現状の日本の主要国際空港の受け入れ容量では、訪日旅行者数は4000万人台で一旦踊り場に入る可能性があると論じていました。2030年に6000万人を目指すのであれば、さらなる空港インフラや空港アクセスの充実が不可欠となります。

また、特定の国・地域を巡る国際情勢や外交上の動向の影響により、2026年には来訪者数に一定の変動が生じる可能性があります。このような状況だからこそ 2026年の観光は、再訪意向の高さを「日本をもっと知り、理解したい」というニーズの高まりと捉え、リピーター向けにさまざまな体験メニュー開発を推し進めていくこと、「訪日客数」だけではなく「訪日旅行の価値の深化」にこだわるべきだと考えています。

日本らしさを再定義、いつでも気軽に日本を体験できる環境づくりを

「ジャパンブランド調査2025」によると、再訪意向のある旅行者が関心を持つ体験コンテンツは「和食」「自然景勝地」「四季の体験」などが上位にあがっています。一方、若い世代に絞ると「マンガ・アニメ」が「寿司」を上回るというデータも示されています。

また、コンビニエンスストアで寿司、おにぎり、アイスクリーム、スイーツを購入したいという意向の高さも目を引きました。日常生活そのものが、日本での体験コンテンツになりつつあると言えるでしょう。

「富士山」「桜」「温泉」といった従前のコンテンツに加え、旅行者の「国」「世代」「地域」によって関心が変化するマンガ・アニメ、音楽、キャラクター、ポップカルチャー、現代アート、武道なども、柔軟に「日本らしさ」として再定義するべきです。

最近は、「高付加価値化」や「富裕層向け」「二重価格」といった言葉をよく耳にします。中には、提供するサービス内容を変えず価格を上げ、利益拡大を図ることをオーバーツーリズム対策だと言い切る意見もありますが、残念ながら私にはこれがすべて正しいとは思えません。

再訪意向の旅行者をもっと増やすためには、観光を「学び」「文化の理解」「地域を知る」手段として活用し、持続可能な姿に仕上げることが大切です。観光コンテンツを多様な所得層・価値観に対応できるよう再設計し、「高級」と「庶民的」という二極化ではなく、選択肢の多様化を図ることが求められます。

「特別な人の特別な体験」だけでなく「誰もが楽しめる文化交流」へと観光産業全体で発想を転換し、好事例を生み出し続けることにチャレンジしていく一年にしていきたいですね。

2026年1月7日、東京に相撲ライブレストラン「日楽座 GINZA TOKYO」がオープンしました。1号店は、大阪で元大相撲力士による実演やエンターテイメントを通じて、相撲文化を正しく伝え、体験できる施設として2024年5月に誕生しました。約1年8か月で、120を超える国と地域から6万5000人以上の来場者で賑わっているそうです。大相撲の本場所は年6回ですが、ここでは一年を通じて手軽に相撲に触れることができます。担当者は、次の来訪時に本場所での観戦につながればとも語ってくれました。

主戦場は地方部、「行けば満足、でも行かれない」問題の解決を

「ジャパンブランド調査2025」によると、東京、名古屋、京都、大阪といったゴールデンルート以外の地方部のみを訪問した旅行者は20%前後にとどまっています。一方で、滞在中に一度でも地方部を訪れた旅行者まで広げると満足度、再訪意向ともに90%を超える高い水準を示しました。

地方部を訪れるリピーターが求めるのは「都市では得られない体験」です。ただ、満足度は高いにも関わらず訪問率が低い理由のひとつが、空港や拠点駅からの交通アクセスです。私は、これを「行けば満足、でも行かれない」問題と呼んでいます。

特に課題となるのが、地域内の路線バスやオンデマンド交通、タクシーの有無や供給不足、本数・頻度の少なさ、言語・キャッシュレス対応の不備、さらにサービス対象が住民主体で旅行者の利用を想定していないことが挙げられます。ひがし北海道や群馬、福岡などでMaaSを活用して移動の円滑化を果たした地域もありますが、2026年はこうした取り組みをより多くの地域に展開すること、仕様の統一を進めることが求められます。地域内の交通を地域住民と旅行者が共通して利用する共存モデルを確立し、移動手段としてだけでなく、旅先での学びや地域住民との関わり、文化の理解にもつなげていければ良いと思います。

日本観光振興協会でも、DMOの人材育成メニューの中で二次交通の課題解決をテーマに取り上げることを検討しています。

2026年の日本の観光は、地方部を主戦場に、持続可能で地域共創・文化理解を軸に訪日旅行者のリピーター化、日本ファンを増やすことに力を入れていく、そのような方向性で進めていく年としていこうではありませんか。

最明 仁(さいみょう ひとし)

最明 仁(さいみょう ひとし)

日本観光振興協会 理事長。1985年日本国有鉄道入社、JR東日本で主に鉄道営業、旅行業、観光事業に従事。日本政府観光局シドニー事務所を経て、JR東日本訪日旅行手配センター所長、新潟支社営業部長、本社観光戦略室長、ニューヨーク事務所長、国際事業本部長などを歴任。2023年6月より現職。自他ともに認める鉄道・バスファン。