東京都は、2025年12月、都民参加型イベント「あしたの東京プロジェクト」で2025年度第2弾として「多摩の魅力発見ツーリズム」を開催した。昭島駅周辺で地産野菜の収穫体験や「あきしまの水」を生かした地域産業についての学び、多摩地域の魅力を知ってもらうツアーとして企画。抽選で33人の都民が参加した。
「あしたの東京プロジェクト」とは、2022年度から展開する東京の魅力を再発見する都民参加型プロジェクト。東京都産業労働局観光部シティセールス担当課長の堂田裕章さんは、このプロジェクトの目的について、「東京の自然や文化など多様な魅力を都民の皆さんに体感してもらい、地元への理解や愛着を高めてもらうことで、旅行者の受け入れ機運の醸成につなげていくこと」と説明する。
2025年度は「区部」「多摩」「島しょ」の3つのテーマで展開している。第1弾の「区部」では、丸の内や皇居外苑の歴史スポットをめぐる「江戸東京歴史ツーリズム」が開催され、3日間で計150人が参加した。第3弾の「島しょ」では、「東京自然体感ツーリズム」が2026年1月下旬に三宅島でおこなわれた。
対象を小学校4~6年生とその保護者とした「江戸東京歴史ツーリズム」では、参加者の反響も大きく、「普段何気なく通っていた街に改めて興味が湧いた」「東京の歴史を子どもと楽しく学ぶことができた」「ツアーで知ったことを友人に話したくなった」などの声が寄せられたという。東京都としては、来年度以降もこのプロジェクトを通じて、東京再発見の機会を都民に提供していく考えだ。
今回のツアーの舞台となった昭島市は、新宿からJR中央線で約40分。都心へのアクセスが良い一方で、自然が豊かなエリアだ。その最大の特徴は、水道水の100%を深層地下水で賄っていること。地下水を水道水に活用している地域は全国に存在するが、深層地下水を水道水として活用している自治体は全国的にも珍しいとされる。その水は、住民の暮らしを豊かにしているだけでなく、産業にも生かされている。こうした背景から、「多摩の魅力発見ツーリズム」の舞台として選ばれた。
収穫体験や深層地下水を活用した飲食店を訪問
このイベントでは、町歩きや収穫体験、深層地下水を活用する飲食店などをめぐり、最後に参加者自身がポラロイドカメラで撮影した写真でオリジナルマップを作成する。
町歩きでは、「昭島観光まちづくり協会」も協力。ボランティアガイドの案内で市民会館公園、いちょう並木、昭島観光案内所、市役所給水スポットなどをめぐった。200万年前の新種のクジラの化石(アキシマクジラ)が発見されたことから、クジラを町のシンボルとして打ち出していること、市民が自由に深層地下水を給水できるスポットが点在していることなど、昭島市の特徴を学ぶ機会が組み込まれた。
町歩きでは昭島駅周辺をめぐった地産野菜の収穫体験では、木野秀俊さんの畑で丸々と育ったカブと大根を収穫。木野さんから収穫方法を教えてもらった子どもたちは、簡単に「引っこ抜けた!」と驚き、笑顔になった。
木野さんの畑では江戸東京野菜に認定されている「拝島ねぎ」も育てられている。江戸東京野菜とは、東京23区やその周辺で伝統的に生産されていた野菜(在来品種)のこと。拝島ねぎは2014年に認定された。現在、拝島ねぎ保存会の9人が育てているという。
木野さんは、その特徴について「風に弱くて作るのは大変なんですが、葉も軸も柔らかく、熱を通すと、トロトロになって、食べると甘くてとても美味しいんです」と説明する。その生育にも、昭島の水は欠かせない。
カブを収穫すると思わず笑顔に深層地下水を活用している飲食店では、地ビールを製造している「イサナブルーイング」を訪ねた。迎えてくれた池美早紀さんによると、会社の代表が昭島の水に感銘を受けて、2018年からこの地でビール作りを始めたという。
試飲として提供されたのは、創業当時から醸造している「とりあえずビター」と、珍しい微炭酸コーヒー。ビール樽にコーヒーを移し替えて、窒素を充填して加圧したもので、窒素が液体に溶けず、細かい粒子のようにコーヒーの中を浮遊することから、マイルドな口当たりになるという。
池さんは「水の品質は、出来上がったビールの品質に大きく影響します。昭島の美味しい水だからこそ、このビールができます」と説明した。イサナブルーイングでは、出汁を使った和風テイストのビールや拝島天神で毎年夏に収穫される梅を使ったクラフトビール「拝島天神 梅霞(うめがすみ)」など、昭島の水を使った個性的な地産ビールも醸造している。
イサナブルーイングで大人は地ビールを試飲
昭島駅前の「昭島パスタ工房」も昭島の水に惚れ込んで、ここでの開業を決めた飲食店だ。代表の中出悠太郎さんは、たまたま立ち寄った不動産屋で浄水器もついてない蛇口から注がれた水を口にしたとき、「全くカルキ臭さがなく、甘くてまろやかな味に驚いた」と振り返る。東京では他にこういう水飲めるところはないと聞いて、「直感で」この地で開業を決めたという。
昭島パスタ工房では、30%ほど水を加えて生パスタを自家製麺。生パスタの茹で工程では多くの水を吸収するため、提供されるパスタは7割ほどが昭島の水でできていることになるという。中出さんは「昭島の深層地下水で調理したパスタで、市内の人にも、市外の人にも昭島の魅力を再発見してもらいたい」と話す。
ツアーで提供されたのは、化学調味料無添加の鰹出汁の麺つゆと自家製バジルソースを合わせた和風ジェノベーゼ。この麺つゆは、東京都内で唯一、木桶で仕込んだ醤油を作る、あきる野市の「近藤醸造」が製造するものだという。その美味しさに、参加者からレシピを尋ねる場面もあった。
深層地下水を使った和風ジェノベーゼを昭島の魅力として写真に撮る参加者も
昭島市の魅力をオリジナルマップに
ツアーの拠点となる昭島市昭和会館に戻った参加者は、半日のツアーを振り返りながら撮影した写真を使ってオリジナルマップを作成した。
世田谷区から参加した4人家族は、東京都からの案内でこのプロジェクトを知り、「家族揃って出かけることもあまりないから」と参加を決めた。昭島は初めて訪れたという。お父さんは「水道水が深層地下水で賄われていることに一番驚きました」と話し、「直接お話を聞くと、知らなかったことがよく分かって面白かったです」と振り返った。
「帰ってから、今回のツアーのことを家族で振り返ることもありそうです」。娘さんは「収穫した大根をおでんで食べたい」と両親にお願いしたそうだ。
親子でオリジナルマップ作りトラベルジャーナリスト 山田友樹