観光庁は「宿泊業界向け緊急時連携システム構築のための調査業務」の実施報告書を公表した。災害などの緊急時、これまで宿泊施設の被害状況や被災者の受入れ可否などの情報を確認・共有するための仕組みは一体的に確立されておらず、非効率な対応や情報の遅延が課題となっていた。
報告書は、これらの情報を観光庁、宿泊団体、自治体、宿泊施設等の関係者が効率的に把握・活用できるシステムの構築に向けた調査、実証実験の結果を取りまとめたもの。2024年度(令和6年度)の調査事業で明らかになった「情報のリアルタイム性の不足」「UIの負荷・操作性の課題」「災害時の通信インフラの確保」「多言語対応」といった課題を技術的に解決し、実効性の高い「災害時連携システム」の設計と検証をおこなうことを目的とした。
災害時連携システムを検証、スマホアプリ開発も
検証では、まず前年度の課題に対するシステム機能の改善・開発が行われた。具体的には、状況に応じたアンケートテンプレートの自由作成機能や、回答結果の地図表示機能、Lアラート(災害情報共有システム)からの情報受信・表示機能などが実装された。
さらに、現場の負担を最小化するためスマートフォンアプリを開発し、プッシュ通知機能や生体認証(顔認証・指紋認証)ログイン、外国人従業員でも回答可能な多言語対応を導入することで、迅速かつ正確な情報収集体制を整備した。
並行して、実際の災害対応経験を持つ自治体等へのヒアリングを実施。二次避難を実務として成立させるための「業務フローの標準化」「詳細な客室データの即時共有」「精算・名簿データの一元化」という3つの必須要件が浮き彫りとなった。
これを受け、単なる情報収集にとどまらず、避難者の属性に応じた「避難先割当管理機能」や、「避難者情報管理機能」、複雑な三点照合をシステム化する「精算機能」など、手配ワークフロー全体を支援する拡張機能の設計がおこなわれた。
災害時の通信確保、システム普及への検証も
また、大規模災害時の通信途絶に備えた通信冗長化検証も実施された。衛星通信スターリンクを用いた検証では、固定回線や携帯回線がダウンした状況下でも、システムの主要操作が問題なく行えることが確認された。平時からの常備にはコスト面の課題があるため、広域での共同保有や重点拠点への先行配備といった実装モデルの検討が望ましいと結論づけている。
システムの普及と検証を目的として、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)の協力のもと大規模な実証実験も実施された。全国で約7000の宿泊施設が仮システムに登録し、災害発生を想定した防災訓練(アンケート)が計4回行われ、延べ2125件の回答が収集された。参加施設へのアンケート調査によれば、多くのユーザーが短時間で報告を完了できておりシステムの有効性が確認された一方で、有事の操作に対する不安の声もあった。平時からの継続的な利用による習熟の必要性が示唆された。
また、施設側からは自治体からの周辺災害情報を受信するなど「情報収集ツール」としての機能を期待する声が多く、利用率向上の鍵となることが判明した。
将来の実装に向けて提言
今後の方向性として、本報告書は社会実装に向けた取組みを提言した。
第一に、今回設計された「避難先割当管理機能」や「精算機能」等の拡張機能をシステムに実装し、災害時連携システムを単なる情報収集ツールから、二次避難所手配業務を統合的に支援する「業務基盤システム」へと進化させること。第二に、関係機関の役割分担を明確にし、平時から災害時に至る業務フローや権限設定などを標準的な業務手順として確立することが求められている。
将来への展望として、内閣府が推進する「クラウド型被災者支援システム」や各自治体の「広域被災者データベース」といった、既存の被災者支援システムとのデータ連携を挙げた。宿泊施設の受入状況や避難者の入退所情報をこれらの外部基盤と連携させることで、行政横断的な避難者の所在把握や被災者支援の全体最適化が可能となる。観光庁は、得られた知見を基に、持続可能で実効性の高いシステムの社会実装を目指していく方針だ。