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地域主導の観光政策をどう実現するか、補助金依存からの脱却、実証事業の限界を考えた【コラム】

日本観光振興協会の最明(さいみょう)です。

第五次観光立国推進基本計画が閣議決定され、2026年度の予算も国会で成立しました。観光を地域経済・日本経済の発展をリードする「戦略産業」と位置づけ、2026年度から2030年度までの5年間で訪日客数6000万人、旅行消費額15兆円をはじめ、地方誘客やリピーターの増加、宿泊業の付加価値向上などが目標として設定されました。

「インバウンドの戦略的誘客と住民生活の質の確保」、「国内交流・アウトバウンドの拡大」、「観光地・観光産業の強靱化」を施策の柱に、地域への観光分散や効率的な誘客を図るため、さまざまな取り組みが強く求められています。

本稿では、こうした観光政策の拡充を踏まえつつ、観光庁予算の特徴である補助金中心の構造が地域や観光産業に与える影響と課題を整理し、その改善の方向性について考察します。

※写真:平日も多くの旅行者で賑わう由布院駅前。地域をあげてオーバーツーリズム対策に取り組んでいる(筆者撮影)

観光庁予算の拡大、補助金中心の構造

計画の初年度、国が掲げた大きな目標を達成するために編成された2026年度の観光庁予算は約1383億円、そのうち1300億円が国際観光旅客税による財源です。国際観光旅客税は、2026年7月から3000円に引き上げられ、税収は特に「ストレスフリーな旅行環境整備」「日本の魅力情報へのアクセス向上」「地域固有資源を活かした観光資源整備」に大きく充てられています。 

コロナ後、観光庁の施策は、国際観光旅客税の歳入増を背景に年々大幅に拡大しています。インバウンド不遇の時代に国際観光振興会(現在のJNTO)へ出向経験があり、産業政策の中での観光の位置づけが低い時代を知る私にとって1000億円を超える当初予算は天文学的な額に感じます。

これを機に観光庁には、「観光産業のさらなる地位向上」「人材育成」「観光データ基盤整備」「地域の産業を観光の力で活性化、産品の輸出拡大」「ISOをはじめとする国際規格のルールメイキングへの支援」など、それぞれ大胆に進めてほしいと思います。

ところで、観光庁の2026年度予算で気になる点があります。それは、「観光庁関係予算1383億円」のうち補助金・補助事業に該当する支出の比率が極めて高いこと、主要事業の多くが補助金・支援事業・整備事業として計上されていると読み取れる点です。

観光庁は、道路や港湾のような巨大インフラを直接持つ省庁ではありません。いわゆる箱もの行政とは異なり、ソフトへの支出が中心となります。また、国がJNTOに交付する管理費や海外プロモーション費用は、それぞれの項目に分散して計上されている可能性もあり、一概に金額や比率だけで評価することは適切ではないかもしれません。

それでも、他省庁と比較して「補助金・支援事業」の割合が大きいことは特徴だと思います。

補助金依存がもたらす構造的課題

観光庁予算の「補助金・支援事業」そのものを否定するつもりはありません。実際、民間投資だけでは進みにくい分野で公的資金が果たす役割が非常に大きい場面も多くあります。一方で、地域や企業・団体が国の補助金に頼りすぎているという見方もあります。

主要事業の補助率は 1/2から2/3 が中心ですが、問題点としては、事業の乱立・効果検証の弱さ、自治体間格差などが指摘されています。

国と地域の観光政策は、どうしても「補助金」「実証事業」「キャンペーン」「地域支援」「DX支援」「インバウンド受入整備」に寄りやすく、2000年代以降、継続的に「地域活性化政策」と結びついてきました。

例えば「古民家再生」「二次交通整備」「DMO」「多言語化」「高付加価値化」「宿泊施設改修」「観光DX」「オーバーツーリズム対策」など、地域への資金注入型政策が増えるのは自然で当然のことだと思います。問題は、現在の観光庁の予算配分は補助金中心で、事業ごとに細かくメニュー化され、地域はその枠に合わせて申請せざるを得ない点です。

この仕組みは「地域の主体性が弱くなる(国のメニューに合わせるだけになる)」、「コンサル依存が進む(申請書作成・事業設計が地域には難しすぎる)」、「短期・単年度事業が多く、持続性が低い(実証事業に走りやすい)」、「自治体やDMOの本来の役割(地域の戦略立案)が煩雑な補助金獲得業務により果たしにくくなる」といった問題を内在させています。

実証事業に見る制度の限界

5年以上前のことですが、宮城県、仙台市とJR東日本がMaaSの実証実験を行ったことがあります。実証実験が順調に進む中、そこに部活動や塾から帰宅する高校生の利用が増えてきたというレポートが入りました。最寄り駅から家族の送迎に頼っていた子供たちがMaaSを活用してタクシーを使い始めたとのことです。地域交通を観光客と住民が共有するというニーズが顕在化した事例として非常に興味深いものでした。

ところが、国からの補助金は年度末まで、実証実験は終わることになりました。私は交通の利用者は短期でも一度途切れると需要がリセットされるため、自己資金でも続けるべきだと意見したのですが、実現しませんでした。現在、当時の経緯を記したサイトを確認すると、アドバイスをおこなう企業が国交省から補助金を得やすい提案をおこなったことが発端だったと記されています。誰のための実証実験だったのか、今でも疑問が残ります。

「補助金産業」化への懸念

観光庁自身も「補助金依存」「事業の断片化」が課題であることを有識者会議や政策議論の中でも認めています。オーバーツーリズム対策においてもモデル地域が乱立し、横串的な戦略が弱いという指摘があります。

補助金中心の構造では、どうしても「補助金を獲得すること」が目的化しやすくなります。本来は市場で成立する観光商品を育てるべきところが、「補助金があるから事業化」「採択される企画づくり」「KPI達成のための数字づくり」といった方向に偏りやすくなります。観光産業に対しては、しばしば「補助金産業化」という批判がありますが、これは私たち自身が受け止めなければならない指摘だと思います。

交付金化という選択肢

日本観光振興協会では観光関係団体、企業とともに取りまとめた提言で国際観光旅客税による歳入増の一定割合を補助金でなく「道府県・広域連携・地域DMO」へ観光振興を目的とする交付金とすべきだと訴えています。

地域ごとに抱える課題は千差万別であり、東京で設計された全国一律のテーマでは解決できないことがたくさんあります。交付金化により「地域が自ら課題を定義し、戦略的に資金を活用できる」「長期的な観光地域づくり(人材育成・交通改善・受入環境整備)が可能になる」「補助金獲得競争や外部コンサルへの依存を減らせる」「広域連携(交通・ルート形成)を促進しやすい」ことが考えられます。

欧州では、地域裁量型の交付金が広く導入されており、地域が自ら戦略を立て、国はモニタリングと評価に徹するモデルが主流と聞いています。

交付金化が進まない理由と課題

なぜ日本は交付金化に踏み切れないのか、国会議員、国交省をはじめ多くの関係者に話を伺いました。

主な理由としては、「使途の透明性確保が難しい(税収急増により、説明責任が強まっている) 」「過去の制度運用における失敗経験」「観光庁の評価・監査体制の構築が道半ば」「省庁横断の課題(交通・環境・文化財)が多く、調整コストが高い」「補助金で全国一律に政策を打つ」国と地方との行政文化が根強い」というのが主なコメントでした。

しかし、税収が1300億円規模になった現在、従来の補助金方式では限界が見えはじめています。

次回のコラムでは、地域が主体となった観光地域経営、戦略産業として企業の心構え、観光庁への期待、そしてオーバーツーリズムを住民の満足度向上によって解決する私の考えを述べたいと思います。

最明 仁(さいみょう ひとし)

最明 仁(さいみょう ひとし)

日本観光振興協会 理事長。1985年日本国有鉄道入社、JR東日本で主に鉄道営業、旅行業、観光事業に従事。日本政府観光局シドニー事務所を経て、JR東日本訪日旅行手配センター所長、新潟支社営業部長、本社観光戦略室長、ニューヨーク事務所長、国際事業本部長などを歴任。2023年6月より現職。自他ともに認める鉄道・バスファン。